「顧客理解の第一歩」「施策の精度を高める必須ツール」として、多くの企業がペルソナ設定に取り組んでいます。
しかし、こんな経験はないでしょうか。ペルソナの議論をしている最中に、どこか手応えのなさを感じる。「このペルソナ、本当に施策に使えるのか」「そもそも、ペルソナを作る前に決めるべきことがあるのでは」という疑問が拭えない。
この記事では、ペルソナの基本的な定義やメリットを押さえつつ、多くの現場で起きている「形骸化」のパターンと、その根本原因を掘り下げます。そのうえで、ペルソナを本当に「使える道具」にするための視点と実践方法を解説していきます。
「ペルソナを作ること」がゴールではありません。顧客理解を深め、具体的な施策につなげてこそ、ペルソナは意味を持ちます。この記事が、ペルソナ設定を見直すきっかけになれば幸いです。
目次
1. ペルソナの定義とターゲットとの違い
まずは、ペルソナの基本的な定義を整理しておきましょう。混同されやすい「ターゲット」との違いや、マーケティング戦略における位置づけを明確にすることで、ペルソナの役割がより鮮明になります。
1-1. ペルソナとは何か
「ペルソナ(Persona)」の語源は、ラテン語で「仮面」を意味する言葉です。古典劇において俳優が被る仮面を指していました。心理学の分野では、スイスの心理学者カール・ユングが「人間が社会に見せる外向きの人格」という意味で使用したことでも知られています。
マーケティングの文脈では、ペルソナは「自社の商品やサービスを利用する典型的な顧客像を、実在するかのように具体化したもの」を指します。年齢や性別、職業といった基本属性だけでなく、ライフスタイルや価値観、抱えている課題、情報収集の方法まで詳細に設定し、あたかも一人の人物が存在するかのように描き出すのが特徴です。
たとえば、「32歳、女性、都内のIT企業でマーケティング担当として勤務。夫と2歳の子どもの3人暮らし。平日は時短勤務で、週末は子どもと公園で過ごすことが多い。仕事では限られた時間で成果を出すことにプレッシャーを感じている」といった形で、具体的な人物像として設定します。
1-2. ターゲットとの違い
ペルソナとよく混同されるのが「ターゲット」です。両者は似ているようで、その粒度と役割が異なります。
ターゲットは、年齢・性別・居住地・職業などの属性で区切った「顧客層」を指します。たとえば「30代女性」「関東在住の会社員」といった形で、ある程度の幅を持った集団として定義されます。いわば「面」でとらえる考え方です。
一方、ペルソナはターゲット層の中から、典型的な一人の人物を詳細に描き出したものです。名前や年齢、家族構成、価値観、日々の悩みまで設定し、「点」として具体化します。
| 項目 | ターゲット | ペルソナ |
|---|---|---|
| 定義 | 属性で区切った顧客層 | 典型的な一人の人物像 |
| 粒度 | 集団(面) | 個人(点) |
| 例 | 30代女性、会社員、既婚 | 田中美咲、32歳、IT企業マーケ担当、夫と2歳の子どもと3人暮らし |
| 含む情報 | デモグラフィック属性 | 属性+価値観・課題・行動パターン |
| 主な用途 | 市場の絞り込み | 施策の具体化、顧客理解の深化 |
ターゲットが「誰に売るか」を大まかに定めるものだとすれば、ペルソナは「その人は何を考え、どう行動するか」を深く理解するためのツールといえます。
1-3. STP分析との関係
ペルソナは、マーケティング戦略の中でどこに位置づけられるのでしょうか。この点を理解するには、STP分析との関係を押さえておく必要があります。
STP分析とは、セグメンテーション(Segmentation)、ターゲティング(Targeting)、ポジショニング(Positioning)の3つのステップからなるマーケティング戦略のフレームワークです。
- セグメンテーション:市場を細分化し、類似したニーズを持つグループに分ける
- ターゲティング:細分化したセグメントの中から、自社が狙うべき市場を選定する
- ポジショニング:選定した市場において、競合との差別化ポイントを明確にする
ペルソナは、このSTP分析の後に設定するものです。つまり、「どの市場で、誰に対して、どのような立ち位置で戦うか」という戦略的な方向性が決まってから、その顧客像をより具体化するためにペルソナを作成します。
この順序が重要です。戦略が曖昧なままペルソナを作っても、「誰を優先するか」「何を訴求するか」が定まらず、結局は使えないペルソナになってしまいます。ペルソナは戦略を補完するツールであり、戦略の代わりにはならないのです。
2. ペルソナを設定する3つのメリット
ペルソナの定義を理解したところで、なぜ多くの企業がペルソナ設定に取り組むのか、その具体的なメリットを見ていきましょう。
2-1. チーム内の顧客像を統一できる
ペルソナ設定の最も大きなメリットは、組織やチーム全体で「同じ顧客像」を共有できることです。
「30代女性をターゲットにしよう」と決めても、マーケティング担当者が思い浮かべる30代女性と、営業担当者がイメージする30代女性、開発チームが想定する30代女性は、それぞれ異なる可能性があります。ある人は「バリバリ働くキャリア志向の女性」を想像し、別の人は「子育てに奮闘する専業主婦」を思い浮かべるかもしれません。
この認識のずれは、施策の一貫性を損なう原因になります。広告のトーンと商品の訴求ポイントがちぐはぐになったり、Webサイトのデザインと店頭の接客方針が噛み合わなかったりといった問題が起きやすくなるのです。
詳細なペルソナを設定し、名前やプロフィール、価値観まで共有することで、「〇〇さん(ペルソナの名前)ならどう感じるだろう」「〇〇さんにはこの表現は響かないのでは」といった形で、共通の判断基準を持てるようになります。
2-2. 顧客視点でニーズを深掘りできる
企業がマーケティング活動を行う際、どうしても「売り手視点」に偏りがちです。「この機能は素晴らしい」「この価格はお得だ」と、自社の商品やサービスの特徴を前面に押し出してしまうことは珍しくありません。
しかし、顧客が求めているのは、機能や価格そのものではなく、「自分の課題が解決されること」「自分の生活がより良くなること」です。この視点の転換を促すのが、ペルソナの役割です。
具体的な人物像を設定することで、「この人は日常的にどんな悩みを抱えているのか」「どんな場面で自社の商品を思い出すのか」「何がきっかけで購入を決断するのか」といった、顧客の内面に踏み込んだ思考が可能になります。
ペルソナの境遇や心理を想像することで、表面的なニーズだけでなく、顧客自身も言語化できていない潜在的なニーズを発見できる可能性が高まります。
2-3. 施策の精度と一貫性が高まる
ペルソナが明確になると、マーケティング施策の精度が格段に向上します。
たとえば、広告クリエイティブを制作する際。ターゲットが「30代女性」だけでは、どんなビジュアルを使い、どんなコピーを書けばいいのか、判断の軸がありません。しかし、「時短勤務で働きながら子育てをしている田中美咲さん。限られた時間で効率よく家事をこなしたいと思っている」というペルソナがあれば、訴求すべきポイントや響く表現が見えてきます。
同様に、Webサイトの導線設計、メールマガジンの配信タイミング、SNSの投稿内容など、あらゆる施策において「このペルソナならどう反応するか」という視点で判断できるようになります。
結果として、施策全体に一貫性が生まれ、顧客との接点ごとにブレのないコミュニケーションが実現します。また、意思決定のスピードも上がります。「ペルソナに合っているかどうか」という明確な基準があれば、迷う時間を減らせるからです。
3. ペルソナが「形骸化」する3つのパターン
ペルソナのメリットは多くの人が理解しています。それにもかかわらず、現場では「ペルソナを作ったけど活用されていない」「ペルソナの議論が空回りしている気がする」という声が後を絶ちません。
なぜ、ペルソナは形骸化してしまうのでしょうか。その原因を3つのパターンに整理してみます。
3-1. 施策ありきで「後付け」になっている
最も多いのが、すでに実行したい施策や機能が決まっていて、それを裏付けるための人物像を後から作るというパターンです。
本来、ペルソナは顧客理解から始まり、その理解に基づいて施策を設計するという流れで使われるべきものです。しかし実際には、「新商品を出すことが決まっている」「このキャンペーンを実施することが既定路線」という状況で、それを補強するためにペルソナを作ってしまうケースがあります。
この場合、ペルソナは「顧客を理解するためのツール」ではなく、「社内を説得するための資料」に成り下がっています。本来の順序が逆転しているため、議論がどこか噛み合わない感覚が生まれるのは当然です。ペルソナが「発見」のためではなく「説明」のために使われているとき、その議論からは新しい気づきも学びも生まれません。
3-2. 施策に落ちない「プロフィール情報」が増えていく
2つ目は、実際のマーケティング判断に使えない属性ばかりが積み上がっていくパターンです。
「休日はカフェで読書を楽しむ」「好きなブランドは〇〇」「最近ハマっているのは韓国ドラマ」。こうした設定は、ペルソナにリアリティを持たせるために有効な場合もあります。しかし、問題は「その情報から何を判断できるのか」が不明確なまま、設定だけが膨らんでいくことです。
「カフェで読書を楽しむ」という情報は、UIのデザインを変える根拠になるでしょうか。広告のクリエイティブを決める判断材料になるでしょうか。そこが曖昧なまま、プロフィール情報を詳細に設定することに労力を費やしても、実務には活かせません。
行動や判断に結びつかない属性の積み上げは、チームの議論を抽象的な方向に導いてしまいます。議論は盛り上がるものの、具体的な施策には落ちてこない。そんな状況を生み出してしまうのです。
3-3. 戦略の不在を隠す「緩衝材」になっている
3つ目は、最も根深い問題かもしれません。それは、本来決めるべき戦略的な判断を先送りにするために、ペルソナ議論に時間を費やしているというパターンです。
マーケティング戦略には、痛みを伴う意思決定がつきものです。「誰を優先するか」を決めれば、優先されない誰かが生まれます。「どこで勝つか」を決めれば、勝負しない領域が生まれます。「何を指標にするか」を決めれば、追わない数字が生まれます。
こうした決断は、社内の軋轢を生むこともあります。だからこそ、難しい判断を避けて「まずはペルソナを固めよう」という流れになりやすい。ペルソナの議論をしていれば、「顧客を見ている」「ちゃんと検討している」という体裁は取れるからです。
しかし、戦略が曖昧なままペルソナを作っても、その先の施策は結局ぶれてしまいます。ペルソナが、戦略の不在や曖昧さを覆い隠す「緩衝材」として機能してしまうことがある。ペルソナの議論がどこか空回りしていると感じるとき、その背景には「決めるべきことを決めていない」という本質的な問題が潜んでいることが多いのです。
4. ペルソナを機能させるための前提条件
形骸化のパターンを踏まえたうえで、ペルソナを本当に「使えるツール」にするために必要な前提条件を整理します。
4-1. 戦略が先、ペルソナは後
繰り返しになりますが、これが最も重要なポイントです。ペルソナを設定する前に、以下の問いに答えられる状態を作る必要があります。
- Who(誰に):どの市場の、どのセグメントを狙うのか
- What(何を):どのような価値を提供するのか
- How(どのように):競合とどう差別化するのか
これらの方向性が定まっていない状態でペルソナを作っても、「誰でも当てはまりそうな、ぼんやりした人物像」になってしまいます。
市場構造を分析し、競合を把握し、自社の強みを明確にする。そのうえで、「だからこの顧客層を狙う」という判断があってはじめて、ペルソナに意味が生まれます。ペルソナは戦略を補完するものであり、戦略の代わりにはならないことを、常に意識しておくべきです。
4-2. ペルソナで決めるべきは「設計変数」
ペルソナを作る際に意識すべきは、「人物像の解像度」ではなく、施策に落とせる変数を明確にすることです。
具体的には、以下のような「設計変数」に接続できるかどうかを基準にします。
- オファー:何を訴求すれば響くのか
- 導線:どのような経路で商品に出会うのか
- 配信:いつ、どのチャネルでアプローチすべきか
- クリエイティブ:どんな表現が刺さるのか
- KPI:何を成果指標とすべきか
たとえば、「休日はカフェで読書」という情報は、「だから日曜の午後にSNS広告を配信する」「だから落ち着いたトーンのクリエイティブにする」といった施策に接続できるなら意味があります。接続できないなら、その設定は省略しても問題ありません。
ペルソナの目的は、きれいな人物像を作ることではなく、「こちらが変えられる変数は何か」を鋭くすることにあります。
4-3. 検証と更新を前提に設計する
ペルソナは、あくまで「仮説」です。どれだけ丁寧に作っても、実際の顧客と完全に一致することはありません。市場環境は変化し、顧客のニーズも移り変わります。
だからこそ、ペルソナは「一度作ったら終わり」ではなく、PDCAサイクルの中で磨いていくという前提で設計すべきです。
施策を実行してみて、想定どおりの反応が得られたか。得られなかったとすれば、ペルソナのどこに修正が必要か。半年に一度、あるいは四半期に一度といった頻度で、定期的に見直す仕組みを作っておくことが重要です。
また、生成AIの普及により、消費者の行動はより文脈依存的になっています。「静的なペルソナ」をガチガチに固めるのではなく、状況に応じて柔軟にアプローチを変える「動的な顧客理解」の視点も、今後はより重要になってくるでしょう。
5. BtoC/BtoBにおけるペルソナ設定のポイント
ペルソナの設定方法は、BtoC(消費者向け)とBtoB(企業向け)で異なる点があります。それぞれの特徴を押さえておきましょう。
5-1. BtoCのペルソナ設定
BtoCでは、購入の意思決定者と利用者が同一であることが多く、個人の属性や心理に焦点を当てたペルソナを設定します。
主な設定項目
| カテゴリ | 項目例 |
|---|---|
| 基本属性 | 名前、年齢、性別、居住地、職業、年収、家族構成 |
| ライフスタイル | 休日の過ごし方、趣味、情報収集の方法、よく使うSNS |
| 価値観・心理 | 大切にしていること、将来の目標、不安や悩み |
| 購買行動 | 購入の決め手、比較検討のポイント、よく利用する店舗・サービス |
| 商品との関係 | 認知のきっかけ、利用シーン、期待すること |
BtoCのペルソナでは、デモグラフィック(人口統計学的属性)に加えて、サイコグラフィック(心理的属性)の設定が重要です。「何を持っているか」だけでなく、「何を考え、何を感じているか」まで踏み込むことで、顧客の内面に寄り添った施策が可能になります。
5-2. BtoBのペルソナ設定
BtoBでは、購入プロセスに複数の関係者が関わるため、ペルソナ設定がより複雑になります。一般的には、「組織ペルソナ」と「担当者ペルソナ」の2層構造で設定します。
組織ペルソナの設定項目
- 業種・業界
- 企業規模(売上、従業員数)
- 事業課題・経営方針
- 意思決定プロセス
- 予算感
担当者ペルソナの設定項目
- 役職・役割
- 所属部署と部署の規模
- 業務上の課題・KPI
- 情報収集の方法
- 決裁権限の有無
さらに、BtoBではDMU(Decision Making Unit:意思決定関与者)を意識する必要があります。実際にサービスを使う「利用者」、導入を検討する「情報収集者」、予算を承認する「決裁者」など、購買プロセスに関わる複数の人物像を設定することで、より実態に即したマーケティングが可能になります。
6. ペルソナ設定の実践ステップ
ここからは、実際にペルソナを設定する際の具体的なステップを解説します。
ステップ1:ターゲットの選定(STP分析)
まずは、STP分析の考え方を用いて、狙うべきターゲットを明確にします。
- セグメンテーション:市場を細分化する(年齢、地域、行動、ニーズなど)
- ターゲティング:細分化したセグメントの中から、自社が注力すべき市場を選定する
- ポジショニング:選定した市場において、競合との差別化ポイントを明確にする
この段階で、「なぜこのセグメントを選ぶのか」の根拠を明確にしておくことが重要です。市場規模、成長性、競合状況、自社の強みとの相性などを総合的に判断します。
ステップ2:情報収集(定量・定性データ)
ターゲットが決まったら、ペルソナを構築するための情報を収集します。
定量データの収集
- Webサイトのアクセス解析(GA4など)
- 顧客データベースの分析
- アンケート調査
- 市場調査レポート
定性データの収集
- 顧客インタビュー
- カスタマーサポートへの問い合わせ内容
- SNSでの口コミ・レビュー
- 営業担当者へのヒアリング
定量データで「どんな人が多いか」を把握し、定性データで「なぜそう行動するのか」を深掘りする。この両輪で情報を集めることで、説得力のあるペルソナを構築できます。
ステップ3:ペルソナの骨格作成
収集した情報をもとに、ペルソナの骨格を作成します。
最初から完璧を目指す必要はありません。まずは基本属性と主要な課題・ニーズを整理し、大枠を固めます。その後、詳細な情報を肉付けしていくイメージです。
基本の設定項目
- 名前、年齢、性別、居住地
- 職業、役職、業務内容
- 家族構成、ライフステージ
- 主な課題・悩み
- 情報収集の方法
- 購買における重視点
この段階で意識すべきは、「施策に接続できる情報かどうか」です。前述のとおり、行動に結びつかない設定は省略しても構いません。
ステップ4:ストーリー化
ペルソナに命を吹き込むのが、ストーリー化のステップです。設定した人物が「どのような経緯で課題を認識し、どのように情報収集を行い、何を決め手に購入するのか」を、時系列で描きます。
このストーリーは、カスタマージャーニーマップの作成にも直結します。ペルソナの行動と心理を時系列で整理することで、「どのタイミングで、どのようなアプローチをすべきか」が明確になります。
ステップ5:運用・検証・更新
ペルソナは作って終わりではなく、運用しながら磨いていくものです。
- 施策の結果とペルソナの想定を照らし合わせる
- 乖離があれば、原因を分析する
- 必要に応じてペルソナを修正する
- 市場環境の変化に応じて、定期的に見直す
半年に一度など、見直しのタイミングをあらかじめ決めておくと、形骸化を防ぎやすくなります。
7. 生成AIを活用したペルソナ作成の可能性
近年、生成AIの普及により、ペルソナ作成の手法も変化しつつあります。従来は多大な時間と労力を要していたプロセスを、AIの力で効率化できるようになっています。
7-1. 生成AIでペルソナ作成を効率化
ChatGPTやClaude、Geminiなどの生成AIを活用すれば、基本的な条件を入力するだけで、ペルソナの叩き台を短時間で作成できます。
たとえば、「30代女性、IT企業のマーケティング担当、子育て中」といった条件を入力し、「この人物のペルソナを作成してください」とプロンプトを投げるだけで、年齢、家族構成、価値観、日常の悩み、情報収集の方法などを含んだ人物像が生成されます。
生成AIを使うメリットは、大きく3つあります。
- 作業時間の大幅短縮:従来数週間かかっていたプロセスを、数十分で完了できる
- バイアスの排除:担当者の思い込みや主観を排除し、客観的な視点を得られる
- 複数パターンの生成:異なる条件のペルソナを素早く複数作成し、比較検討できる
専用のペルソナ生成ツールも登場しており、顧客データと連携させることで、より精度の高いペルソナを自動生成するサービスも増えています。
7-2. AIを使う際の注意点
ただし、生成AIで作成したペルソナをそのまま使うことには、いくつかのリスクがあります。
あくまで仮説の出発点
AIが生成するペルソナは、インターネット上の一般的なデータパターンに基づいています。自社の実際の顧客像と一致するとは限りません。AIの出力は「叩き台」として活用し、自社の顧客データやインタビュー結果と照らし合わせて精緻化する必要があります。
ハルシネーション(誤情報生成)への注意
生成AIは、事実と異なる情報をもっともらしく出力することがあります。特に、具体的な数値や統計に関しては、鵜呑みにせず、必ず一次情報で確認すべきです。
プライバシー・セキュリティへの配慮
顧客データをAIに入力する際は、個人情報の取り扱いに注意が必要です。入力したデータがサービス提供側に保存されたり、学習に使われたりするリスクを理解し、適切な対策を講じることが求められます。
7-3. 「静的なペルソナ」から「動的な顧客理解」へ
生成AIやデータ分析技術の進化は、ペルソナの在り方そのものを変えつつあります。
従来のペルソナは、一度設定したら一定期間固定する「静的」なものでした。しかし、消費者の行動がより文脈依存的になり、タッチポイントが多様化する現代では、「その瞬間の状況に応じてアプローチを変える」動的な顧客理解の重要性が高まっています。
AIを活用したリアルタイムのパーソナライゼーションは、その象徴といえます。ペルソナを「固定された人物像」としてではなく、「顧客理解の基盤」として位置づけ、実際の行動データと組み合わせて柔軟に活用する。そんなアプローチが、今後のマーケティングでは主流になっていくでしょう。
8. ペルソナの成功事例と失敗しやすいパターン
最後に、ペルソナ活用の成功事例と、失敗しやすいパターンを紹介します。
8-1. 成功事例
Soup Stock Tokyo:「秋野つゆ」というペルソナ
ペルソナマーケティングの成功事例として頻繁に取り上げられるのが、スープ専門店「Soup Stock Tokyo」です。
創業前の1999年、創業者の遠山正道氏は「1998年、スープのある1日」という物語形式の企画書を作成しました。その中で設定されたのが、「秋野つゆ」という架空の女性です。
秋野つゆは、都心で働く30代前半の独身女性。経済的にも自立しており、プール付きのマンションに住んでいる。社交的な外食より、一人で気軽に楽しめる食事を好む。そんな人物像でした。
このペルソナが明確だったことで、商品開発(野菜を豊富に使ったスープ)、店舗デザイン(一人でも入りやすいカウンター席)、出店地域(オフィス街や駅ナカ)といった意思決定が一貫したものになりました。「秋野つゆが喜ぶかどうか」という基準があったからこそ、ブレのないブランドが構築できたのです。
アサヒビール「クールドラフト」:2,000人インタビューから構築
アサヒビールは、発泡酒「クールドラフト」の開発にあたり、自社の顧客データ分析に加えて、2,000人規模の消費者インタビューを実施しました。
そこから導き出されたペルソナをもとに、「泡立ちや冷たさを感じられるパッケージデザイン」「爽快感を想起させる商品名」が決定されました。定量・定性の両面からデータを収集し、仮説を検証しながらペルソナを構築した好例といえます。
8-2. 失敗しやすいパターン
一方、ペルソナ活用がうまくいかないケースには、共通するパターンがあります。
主観や理想で作ってしまう
「こんな顧客がいたらいいな」という理想像をペルソナにしてしまうケースです。データに基づかないペルソナは、実際の顧客像と乖離し、的外れな施策につながります。
作っただけで活用されない
時間をかけてペルソナを作成したものの、その後の施策に活かされず、資料として眠ってしまうケースです。ペルソナを作ることが目的化してしまい、「施策の判断基準として使う」という本来の役割が忘れられています。
定期的な更新がない
一度作ったペルソナを何年も使い続けるケースです。市場環境や顧客ニーズは常に変化しています。古いペルソナに基づいて施策を打っても、現在の顧客には響きません。
これらの失敗を避けるためには、「データに基づいて作る」「施策の判断基準として運用する」「定期的に見直す」という3つの原則を守ることが重要です。
9. まとめ:ペルソナを「使える道具」にするために
この記事では、ペルソナの定義から、形骸化のパターン、機能させるための前提条件、具体的な設定方法までを解説してきました。
ペルソナの本質は、「顧客を理解すること」であり、その理解を「施策の羅針盤」として活用することにあります。きれいな人物像を作ることがゴールではありません。
ペルソナを本当に使える道具にするために、以下のポイントを押さえておきましょう。
1. 戦略が先、ペルソナは後
STP分析で「誰に、何を、どう届けるか」の方向性を定めてから、ペルソナを設定する。戦略が曖昧なままペルソナを作っても、形骸化するだけです。
2. 人物像の解像度より、施策への接続を重視する
「休日の過ごし方」を詳細に設定することより、「その情報がオファーや導線、クリエイティブをどう変えるか」を意識する。行動に接続しない設定は、思い切って省略しても構いません。
3. 仮説として位置づけ、検証と更新を繰り返す
ペルソナは完成形ではなく、仮説の出発点です。施策の結果と照らし合わせ、PDCAの中で磨いていく前提で設計しましょう。
4. 戦略の不在を隠す「緩衝材」にしない
ペルソナの議論が、戦略的な意思決定を先送りにするための手段になっていないか、常に自問する。決めるべきことを決めずにペルソナだけ固めようとしても、その先の施策は必ずブレます。
ペルソナは、正しく使えば強力なツールになります。しかし、その「正しさ」は、単に設定項目を埋めることではなく、「施策を通じて顧客に価値を届ける」というゴールから逆算して考える必要があります。
この記事をきっかけに、自社のペルソナを「施策につながっているか」「戦略と整合しているか」という視点で見直してみてください。その一歩が、マーケティング活動の質を大きく変えるはずです。



