運用型広告では「課題→解決」の訴求が王道ですが、この型ではどうしても売れない商材があります。それは、スペックを並べれば伝わりやすい掃除機や防犯カメラなどとは違い、ユーザーが本当に惹かれているポイントが機能の外側にあるタイプの商材です。
たとえば私が実際に利用しているお花の宅配サービス。続けている理由は、価格や注文のしやすさが理由ではありません。「今回はどんなお花を頼もうかな」とワクワクしながら選び、届いた箱を開けるとき「実際に見るとこんな香りや色なんだ」と少しだけ気分が上がる、あの瞬間が好きだから続けています。このように価値を感じているのはスペックではなく「体験」のほう。にもかかわらず、広告では利便性を語ってしまいがちです。
本記事ではこうした「体験の価値」で選ばれる商材を情緒型商材と呼び、その訴求設計の考え方を、特に縦型動画との相性に焦点を当てて紹介します。
目次
スペックの「外」にある価値、「体験」で選ばれる商材
まずは「スペックで売れない」とはどういうことかを整理してみましょう。課題解決型との違い、体験の価値を伝える難しさ、そしてあなたの担当商材がこのタイプかどうかを判定する3つの問いを順に見ていきます。
機能的価値と情緒的価値の違い
「この機能が、あなたの悩みを解決します!」
私たちが得意とする運用型広告の世界では、こうした課題解決型のアプローチが王道ではないでしょうか。吸引力〇〇Wの掃除機なら「部屋がきれいになる」、防犯カメラなら「安心が手に入る」。スペックが、ユーザーの生活上の成果を代わりに伝えてくれます。
しかし、世の中にはこのロジックがそのまま当てはまらない商材も存在します。
たとえば、フィルムカメラ。デジタルのほうが高画質で、撮ったその場で確認もできる。合理的に考えれば選ぶ理由はないはずなのに、フィルムを詰め替える手間も、現像に出して数日待つ不便さも含めて「好き」と言う人がいます。こだわり食材の定期宅配なら、届いた箱を開けて見たことのない食材に出会い、調べて料理する体験そのものに惹かれている。どちらもスペック表のどこにも載っていない価値であり、ユーザーが自分の暮らしの中で商材と一緒に作っていくものです。
ここで大事なのは、ユーザーの価値基準がどこにあるかを見極めることです。同じ人が掃除機はスペックで選び、フィルムカメラは体験で選ぶ。商材ごとにユーザーが「何を基準に価値を感じているか」が異なります。
| 課題解決型 | 情緒型 | |
|---|---|---|
| ユーザーの価値基準 | 機能・性能(何ができるか) | 体験・感情(どう感じるか) |
| 役割 | 不便・不安を解消する「ツール」 | 暮らしに充足感を添える「彩り」 |
| 動機 | 負の解消(マイナス→ゼロ) | 精神的充足(ゼロ→プラス) |
| 商材例 | 高機能掃除機、防犯カメラ、保険 | フィルムカメラ、お花の宅配、食材の定期宅配、万年筆 |

これはユーザーの属性や生活水準の話ではありません。同じ人の中に両方の基準が共存しています。「通勤用の靴は機能で選ぶけれど、休日の靴は履いたときの気分で選ぶ」という人は珍しくないでしょう。重要なのは、あなたが担当する商材に対してユーザーがどちらの基準で価値を感じているかを見極めることです。
「体験の価値」はなぜ広告で伝えにくいのか
機能的な商材であれば、スペックを伝えることが価値の翻訳になります。画素数の高さが「きれいに撮れること」を代弁してくれるからです。
一方、情緒型商材の価値は商品を使い始めた後に初めて生まれるもの。商品情報をどれだけ正確に並べても、購入前のユーザーには届きません。
つまり難しさの正体は「まだ体験していない人に、使ってみないと分からない価値をどう伝えるか」という構造的な課題にあります。アプローチが間違っているのではなく、商材と訴求の型が合っていないだけなのです。

あなたの担当商材は「情緒型」かもしれない
「情緒型」というと特殊なカテゴリのように聞こえるかもしれません。しかし実際には、多くの商材が情緒的な要素で選ばれています。
ハーバード大学のジェラルド・ザルトマン教授は著書『How Customers Think』の中で、思考の95%は無意識に行われていると指摘しています。また、Gallupの顧客エンゲージメント調査でも、エンゲージメントの約70%が感情的要因に左右されるという結果が出ています。また、博報堂の「生活定点」調査が示す消費傾向の変化も示唆的です。「モノ消費」から「コト消費」、そして「エモ消費」へ。感情が購買を左右する領域は広がり続けています。
では、あなたの担当商材が情緒型かどうか。次の3つの問いで確かめてみてください。
- 購入した直後と1ヶ月後で、ユーザーが評価しているポイントが変わっていないか。例えば、購入直後は「見た目がレトロでかわいい」だったが、1ヶ月後には「現像から返ってきた写真を見る時間が好き」など変化していないか。
- その商材の良さは、購入前には想像できなかったものではないか。カタログやLPを見ただけでは分からない、使い始めて初めて気づく体験があるのではないか。
- もしその商材がなくなったとき、失って困るのは機能か、それとも「物足りなさ」か。不便になるのではなく、生活から彩りが消える感覚のほうが近くないか。
一つでも当てはまるなら、次章の訴求設計プロセスが使えるかもしれません。
「体験の価値」の訴求軸を見つける「具体→抽象→具体」のプロセス
ここからは訴求設計の実践に入ります。やることはシンプルで、ユーザーの具体的な体験を集め、共通する感情の核を抽出し、それを広告のシーンに変換する。「具体→抽象→具体」の往復です。

暮らしてみて初めて気づく感情の変化
冒頭で触れたお花の宅配サービスの話を、もう少し掘り下げさせてください。
申し込んだきっかけは、Instagramで見た広告でした。届くお花の紹介動画を見て、「紹介しているお花が好みだな」と思い、一旦試してみようの気持ちで注文しました。ところが続けるうちに、惹かれているポイントが変わっていることに気づきました。
注文するお花を選ぶとき「今回はどんなお花にしようかな」と少しだけ心が弾む。届いたお花を見て「写真で見るよりこんなに色鮮やかなんだ」「こんな香りがするんだ」と新たな発見がある。毎日お世話することで「長持ちするにはどうお手入れすればいいんだろう」と調べながら毎日楽しみながらお花に触れる。スーパーで買い物するような効率的な体験とはまるで違う、ゆっくりした気持ちの動きがそこにはありました。
この体験は、広告の写真を見ても、LPの「季節の花をお届け」というコピーを読んでも、申し込む前には想像できなかったものです。
SNSでも同じ傾向が見られます。お花の宅配ユーザーの投稿を見ると、花の品種や鮮度を語る人は意外と少ない。それよりも「箱を開ける瞬間が毎週の楽しみ」「名前を知らない花と暮らすのが新鮮」という声のほうが圧倒的に多いのです。こうした「購入後に生まれる体験」の中にこそ、情緒型商材の訴求の種が眠っています。
ユーザーの体験から「感情の核」を抽出する
ユーザーの声は、具体的なシーンの断片として散らばっています。
「箱を開ける瞬間が毎週の小さなイベント」「名前も知らなかった花が気になって調べてしまう」「枯れかけの花を捨てるとき、ちょっとだけ寂しい」
一つひとつは些細なエピソードです。しかしこれらに共通する感情を探ると、一つの像が浮かび上がってくる。何気ない毎日の中に、小さな彩りが欲しい。いつもの暮らしに、ほんの少しだけ特別な瞬間を加えたい。
この抽象化された感情が「感情の核」であり、訴求軸になります。
人はいつも論理的に行動できるわけではありません。理由もなく寂しくなったり、なんか今日は無理だと落ち込んだと思えば翌日にはけろっとしている。そんなロジックでは説明しきれない感情の揺らぎこそが人間らしさであり、情緒型商材はその揺らぎに寄り添う存在です。だからこそ、人間の心の揺らぎを見つけることが訴求設計の出発点になります。
商材を体験していなくても感情の核は見つけられる
「実体験を得るために全ての商材を自分で体験するのは難しい」と思われるかもしれません。特に商材が対象としているペルソナと自分が大きくかけ離れている場合などは厳しい場合も多いですよね。もちろん、私自身の体験は発見の有効な手段の一つですが、唯一の方法ではありません。
- SNS観察:読むべきは「買った理由」ではなく「買ってからの投稿」。購入報告ではなく、使い始めて数週間後、数ヶ月後の投稿を探してみましょう。特にXのポストは行動や感情の変化が本音ベースで書かれていることが多く参考になります。
- クライアントへのヒアリング:聞くべきは機能の強みではなく「購入後に届いた予想外の反応」です。ユーザーから届いた感想の中で、売り手自身も驚いたものがないかをお伺いしてみましょう。
- 自分の生活から類似の感情構造を見つける:例えば、朝のコーヒーを丁寧に淹れる時間と、届いた花をどこに飾ろうか考える時間は構造が同じです。「流れていく日常の中で、あえて手間をかけて立ち止まる」という感情の型が共通しています
どの方法を使っても、やっていることは同じです。具体的な体験の断片を集めて、共通する感情を抽出する「具体→抽象」の作業を行ってみましょう。
感情の核を「広告で見せるシーン」に変換する
感情の核が見つかっても、それだけではコピーにしかなりません。広告として成立させるには、その感情が最も鮮やかに立ち上がる「生活シーン」を選ぶ必要があります。
「毎日に、小さな彩りが欲しい」という感情の核があるなら、それが最も強く現れるシーンはどこか。届いた箱を開けて、 お花と目が合う瞬間。名前を調べながら、どの花瓶に合うか考える数分。朝、出がけにふとお花が目に入って、少しだけ気分が軽くなるとき。などが挙げられます。
感情の核が明確であれば、シーン選びに判断基準が生まれます。「このシーンは感情の核を映しているか?」と問えるからです。逆に核が曖昧だと「なんとなく雰囲気がいい動画」になってしまう。見た目はきれいでも何を伝えたいのか分からない、そんなクリエイティブに陥りがちではありませんか?
具体→抽象→具体。この往復が、「体験の価値」を広告に変換する基本プロセスです。
縦型動画が情緒訴求に向いている理由
前章で見つけた感情の核とシーンを、どのフォーマットで届けるか。結論から言えば、縦型動画との相性が最も良いと考えてその理由と、構成の基本型を紹介します。
静止画の「ワンシーン」と縦型動画の「一日の流れ」
静止画でも獲得につながるクリエイティブは作れます。コピーや構図を工夫すれば、一枚の中に情報を最大限詰めることも可能でしょう。ただ、静止画ではどうしても「ワンシーン」しか切り取れません。
「届く」シーンは見せられても、「お花を選ぶ→届く→部屋に飾って眺める・手入れする」という時間を跨いだ体験の流れは、一枚の画像では伝えにくいですよね。よって、情緒型商材の価値は時間の流れの中に宿っているからこそ、15秒から30秒で「その商材がある日常」を疑似体験させられる縦型動画が有効なのです。

さらに、縦型動画には生活シーンの中に商品情報を自然に織り込めるという利点もあります。「季節によって届く花が変わる」「届いたらそのまま飾れるブーケ型」といった点も、暮らしのシーンの中なら自然に伝えられる。情報量が多いから良いのではなく、生活と感情をまとめて伝えられるフォーマットだからこそ相性が良いのです。
情緒訴求の縦型動画、構成の基本型
情緒型商材の縦型動画には、基本となる構成があります。

- 興味(1〜2秒): 「毎朝が憂鬱だったけど、お花に触れるようになって起きるのが楽しみになった」
- 商品の概要と便益:「届くお花を自分で選べる宅配サービス。」「新鮮なお花を家から注文できる」
- 便益の理由:「街のお花屋さんには無いような珍しいお花もあるから、毎回選ぶのが楽しい」
- 明るい未来:「早起きしてお花の水替えをする楽しみができた」
- オファー:気になったユーザーがサイトに遷移してもらいやすいよう誘導「今なら初回注文500円引きだから、気になる方はチェックしてみてね」
この5ステップの中で最も重要なのは、フックとシーン選定の両方を「感情の核」から逆算することです。型だけ真似ても、核がなければ「雰囲気は良いが何も残らない動画」になってしまいます。
情緒訴求×縦型動画の成果事例
ここまで紹介してきた「感情の核→シーン選定→縦型動画」のプロセスを、実際に担当した案件で実践した事例に基づき2つご紹介します。いずれもクライアント名は伏せていますが、プロセスと成果は実数ベースのものです。
事例1:ある家庭向けプロダクト
なくても生活に支障はないし、時短にもならない。スペックだけ見れば「わざわざ購入しなくてもよいかな」と思う方もいる商材でした。
もともとは機能紹介の静止画で訴求しており、「こんなことができる」という機能を並べるアプローチをしていました。しかし商品情報は伝わるものの、購入の決め手にはなりにくい状態が続いていました。
転換点は、実際にこのプロダクトを体験してみたことです。自宅で使用するうちに気づいたのは、機能そのものより、ふとした瞬間にそこにいてくれる安心感に惹かれていたこと。私が感じた感情の核は「日常の中のちょっとしたさみしさに、そっと寄り添ってくれる存在が欲しい」でした。
この核をもとに、縦型動画で「このプロダクトがある一日」を構成しました。朝の支度の場面、日中のふとした合間、一日の終わりの場面。時間の流れの中で、この存在がどう暮らしに溶け込んでいるかを見せる構成です。
結果として、遷移単価が大きく改善。目標CPA内でWeb全体の販売目標数を達成できました。制作した動画はクライアントの公式チャンネルにも展開され、オーガニックでの好意的な反応も得られています。

事例2:食材の定期宅配サービス
こちらは「食材の品質・産地」を訴求の軸にしていたケースです。品質の高さは事実ですし、産地へのこだわりも本物。ただ、ユーザーが日々の暮らしで感じている価値とはずれがありました。
SNSを観察すると、ユーザーが語っていたのは品質とは別の体験です。「届いた箱を開ける瞬間のワクワク」「見たことのない食材に出会って調べる楽しさ」「新しい料理に挑戦する高揚感」。品質訴求ではこうした感情に届いていなかったのです。
転換点は、このユーザー体験を縦型動画でそのまま再現したこと。箱が届くところから始まり、見たことのない食材に出会い、名前を調べて、調理して、食卓に並べる。「知らない食材との出会いが、いつもの食卓を小さく変えてくれる」という感情の核を軸に、体験の流れを一本の動画にまとめました。
結果、CV数が既存クリエイティブの中で1位に。配信を拡大してもCVRの大幅な低下は見られませんでした。他の動画素材では配信金額が伸びたタイミングでCVRが落ちる傾向がありましたが、この動画はスケールしても強度を保てています。感情の核がしっかりしていると、広く配信しても訴求がブレにくいのだと実感した事例です。

あなたの担当商材で情緒訴求を試すには
ここまで読んで「うちの商材でもやれるかもしれない」と思ってくださった方に、最小のアクションとしてまずはユーザーのSNS投稿を30件読むことから始めるのをおすすめします。探すのは「買った理由」ではなく「買ってからの投稿」です。購入報告ではなく、その商材と一緒に過ごしている人の声を集めてみましょう。
読みながら、次の3つの問いで「具体→抽象→具体」を回してみてください。
- ユーザーの生活にどんな新しい習慣や感情が生まれているか?(具体→抽象:感情の核を見つける)
- それは一日のどの瞬間に起きているか?(抽象→具体:シーンを特定する)
- その瞬間を15秒の動画にするなら、どんな画になるか?
ここまで来れば、クリエイティブの輪郭が見えてくるはずです。
縦型動画がすぐに作れない環境でも、段階的なアプローチは可能です。
- カルーセルで時間の経過を表現する
- 静止画とコピーの組み合わせで単一シーンを検証する
- 反応が良ければ動画に投資する
自分やユーザーの、どんな素直な感情が動いたか。生活のどんな場面でその良さは発揮されるのか。言語化できない心地よさは、どこにあるか。そこから見えてくるものが、「体験の価値」を伝える訴求設計の出発点になるはずです。



