広告管理画面を前にして、こんな悩みを感じたことはありませんか?
「何を見て、どう分析すればいいかわからない」
「分析のやり方がわからないから、適切な改善アクションを取れない」
広告管理画面には膨大な数字が並んでいます。行き当たりばったりで眺めてしまうと、成果の変動を正しく理解できず、数字に溺れてしまい"なんとなくの分析”になりがちです。
さらに最近では、AIによる自動入札やターゲティング、レポート生成などが進み、「分析もAIに任せればよいのでは?」と思う方もいるかもしれません。確かに、数字の変化を検知したり、データを整理したりする部分はAIが得意です。
しかし、次のような領域は、人が関わることでより本質的な気づきを得られます。
- 事業戦略と広告運用方針の接続
- 市場や外部環境の変化
- 一時的なデータの偏りや機械学習のブレ
こうした部分には、改善のヒントや成果を伸ばすための成長ポイントが隠されており、人が分析することに価値があります。
この記事では、成果変動の原因を読み解くための分析の基本姿勢と、Google検索広告で押さえておきたい6つの分析の切り口をご紹介します。
目次
分析の基本姿勢
AIが数値を整えてくれる時代でも、「どの数字を見るか」「どう読み解くか」は人にしかできません。そのためにまず押さえておきたいのが、分析の基本姿勢です。
筆者が日々の運用で意識しているのは、次の3点です。
「変数」を整理する
成果の良し悪しに関わらず、最初に意識すべきは「何が変わったのか」「何が変わっていないのか」を整理することです。
たとえば、以下のような変数があります。
- 入札戦略の変更
- 予算変更
- キーワードの追加/除外
- 広告(クリエイティブ)の変更・差し替え
- ターゲティングの変更
- ランディングページの変更
- 時期的な要因(シーズナリティ・セール)
- 競合の広告出稿状況
- ニュースやSNSでの話題化などの外部要因
変数には、広告管理画面からは見えない外部要因も含まれます。「ニュースで取り上げられた」「SNSでバズった」といった情報も、数値変動の裏にある重要な文脈です。日ごろから積極的に収集しておくことが大切です。
まずは、変化した可能性のある要素を洗い出し、整理しましょう。これにより、確認すべき指標が明確になり、どこから分析を始めるべきかが明確になります。
「仮説→分析」の順序を守る
多くの人がやりがちなのが「広告管理画面をなんとなく眺めて、目についたところを深掘りする」という進め方です。しかし、このやり方では思考が散漫になり、時間もかかってしまいます。
おすすめは、変数を整理した上で 「仮説 → 分析」の順序 で進めることです。
まずは、整理した変数から「成果が悪化したのは、〇〇の影響では?」という仮説を立てます。その後、影響が出る可能性のある指標やキャンペーンの分析に進みます。この順序を意識することで、膨大な数字に振り回されずに効率的に分析できます。
<変数の整理→仮説→分析の例>

仮説を立てる際には、数値を因数分解思考で整理すると仮説の粒度を揃えやすく、分析効率も格段に上がります。
因数分解思考については以下の記事で理解を深めるとスムーズです。
比較の軸を設定する
確認する指標が決まったら、次は「何と比較するか」を明確にしましょう。比較の軸を誤ると、誤った結論にたどり着くことも少なくありません。
代表的な比較軸の設定例は以下の通りです。前週・前月・前年などの比較がよく使われますが、目的に応じて比較軸は使い分けましょう。
| 目的 | 比較軸 |
|---|---|
| 短期的な変動を把握したい | 前週・前日比 |
| 季節要因を排除したい | 前年同月比 |
| 新施策の効果を確認したい | 実施前後1ヶ月比較 |
| 入札調整や構成変更の影響を見たい | 変更前後比較 |
比較軸を明確にすることで、「何が起きたか」だけでなく「なぜそうなったか」を見極めやすくなります。
また、同じ軸で定点観測することで、施策の再現性や改善の積み上げも評価しやすくなります。
分析は、数字を深く掘ることではなく、変数・仮説・比較の3点で“構造を整える”ことです。このフレームができると、膨大な指標に振り回されず、どんなアカウントでも冷静に「何が起きているか」を言語化できるようになります。
次章では、この基本姿勢を踏まえて、成果悪化の原因を特定するための6つの分析の切り口を見ていきましょう。
成果悪化の原因を特定する6つの分析の切り口
ここまでの基本姿勢、変数を整理し、仮説を立て、比較軸を明確にすることを踏まえたうえで実際に成果の変化を読み解くための6つの切り口を紹介します。
ポイントは、マクロ(全体を俯瞰する)視点と、ミクロ(個別要素を掘る)視点の両立です。
まず、アカウント全体を俯瞰するマクロな視点です。
①オーディエンス・ユーザー属性:誰に届いているか?
広告が、狙うべきユーザー層に届き、コンバージョンにつながっているかがまず大切なポイントです。

広告管理画面の「オーディエンス」の「オーディエンスセグメント」や「ユーザー属性」から広告が表示されているユーザーの傾向を見ていきましょう。
以下は、コンバージョン獲得単価(CPA)が悪化しているケースです。
- 成果の変動
CPAが悪化している - 変数の整理
広告文を変更した - こんな仮説を立てて見てみよう
追加した広告文の影響で広告が表示されるユーザー層が変わり、CPAが悪化しているのではないか?
分析で見えてくること
ユーザー属性
「ユーザー属性」では、特定の年齢層や性別の表示傾向の変化に気づけます。
<表示傾向の変化例>
- コンバージョンするユーザーは30〜40代が中心なのに、成果の悪い10〜20代のクリックが増えていた。
- 女性への広告表示が大部分を占めていたのに男性への広告表示が増えていた。
オーディエンスセグメント
「オーディエンスセグメント」ではあらかじめターゲティングまたはモニタリング設定をしておいたオーディエンスごとの変化に気づけます。

<表示傾向の変化例>
- 特定の興味関心をもつセグメントへの広告表示が減少していた。
次のアクション
追加した広告文の訴求が、現在設定しているキーワードで検索するユーザーと相性が悪いと考えられるため、広告文と親和性の高い検索キーワードを追加しましょう。
また、追加した広告文の訴求が既存の広告の訴求軸と大きく異なる場合は、広告グループを分けて管理するのがおすすめです。想定外に成果の良いユーザー層が見つかれば、アプローチを強化するための新しい施策を検討してみましょう。
②デバイス:どのデバイスで見られているか?
ユーザーはデバイスごとに行動パターンが異なります。たとえば、通勤中にスマートフォンで眺める人と、オフィスでPCを開いて比較検討する人。その“状況の違い”を読み解くことが大切です。

PC、スマートフォン、タブレットといったデバイスごとの成果は「広告が表示された日時と場所>デバイス」で確認できます。
以下は、CPAが悪化しているケースです。
- 成果の変動
CPAが悪化している - 変数の整理
商材に関連する技術がテレビ番組で特集され話題になった。 - こんな仮説を立てて見てみよう
普段はPCからの流入が多い商材だが、話題になったことでスマホから情報収集するユーザーの流入が増えているのでは?
分析で見えてくること
デバイスごとの成果を確認すると、商材によっては想定以上にCPAに差があるなど、これまで見えていなかった改善余地が見つかることがあります。
<デバイスごとの傾向変化の例>
- 外的要因によってCVの見込みが低いデバイスでのクリックが増えていた。
次のアクション
BtoB商材など、明らかにPC面とスマホ面で成果に差がある場合はデバイスごとにキャンペーンを分けて管理したり、成果の悪いデバイスへの配信は除外する。
③配信ネットワーク:どこに表示されているか?
Google検索広告は、Googleの検索結果ページだけでなく、「検索パートナー」と呼ばれる提携サイトにも表示されることを知ってますか?実は、Google検索と検索パートナーでは成果に大きな差が出ることも珍しくありません。

広告管理画面では「分類 > ネットワーク(検索パートナーを含む)」から内訳を確認できます。
以下は、CV数が減少しているケースです。
- 成果の変動
CV数が減少した - 変数の整理
大きな変更は加えておらず、思い当たる変数がない - こんな仮説を立てて見てみよう
検索パートナー面での広告表示やクリックが増えているのではないか?
分析で見えてくること
Googleと検索パートナーへの配信内訳を確認することで、成果の差や配信ボリュームの変化に気づけます。
<検索パートナーへの配信傾向変化例>
- 検索パートナー経由のCVRが低く、アカウント全体のCPAを押し上げていた。
- 検索パートナーへの広告表示が増えていたがコンバージョンにつながっていなかった。
次のアクション
検索パートナーからの成果が悪い場合は、キャンペーン設定で検索パートナーへの配信をオフにしましょう。
一方で、検索パートナー経由でも一定のコンバージョンが発生している場合は、「検索パートナーの掲載結果レポート」を活用するのがおすすめです。
配信先サイトやサイトごとのインプレッション数を確認できるため、表示回数が多く、明らかに不適切なサイトを個別に除外するといった対応も可能です。
検索パートナーの掲載結果レポートの確認方法や活用法については、以下の記事で詳しく解説しています。
④検索語句:どんな言葉で検索されているか?
ここからは、具体的な要素の分析「ミクロな視点」に入ります。
まずは、ユーザーがどんなキーワードで検索して自社サイトに流入しているのかを把握することが大切です。

広告管理画面では「分析情報とレポート > 検索語句」から確認できます。
以下は、CV数が減少しているケースです。
- 成果の変動
CV数が減少した - 変数の整理
キーワードのマッチタイプを「フレーズ一致」から「インテントマッチ」に変更した - こんな仮説を立てて見てみよう
マッチタイプを変更したことで、インテントマッチで増えた検索語句が主要キーワードの露出を圧迫してしまっているのでは?
分析で見えてくること
検索語句レポートを確認すると広告が表示・クリックされている検索語句の傾向の変化を見ることができます。
<検索語句の傾向変化例>
- 以前はコンバージョンに繋がっていた主要な検索語句での表示回数が減り、別の検索語句での表示比率が増えていた
次のアクション
コンバージョンに繋がらないと判断した検索語句は「除外キーワード」に登録しておきましょう。定期的にメンテナンスすることで、広告の精度を高く保つことができます。
⑤広告文(アセット):なにを伝えているか?
レスポンシブ検索広告(RSA)において、実際にどのような見出しや説明文の組み合わせが表示され、成果に繋がっているかを確認します。

広告管理画面では「キャンペーン > 広告>アセットの詳細を表示」から確認できます。
以下は、CV数が減少しているケースです。
- 成果の変動
CV数が減少した - 変数の整理
広告見出し・説明文の追加・削除を行った - こんな仮説を立てて見てみよう
- 広告見出しや説明文の表示傾向が変化したのでは?
- 広告見出しが意図しない組み合わせで表示され、クリック率が低下したのでは?
分析で見えてくること
実際に表示されている広告のアセットの組み合わせ傾向の変化や違和感のある広告になっているかに気づけます。
<広告アセットの表示傾向変化例>
- 追加した広告文の表示が増えているがコンバージョンにはつながらずCPAが悪化した
- 既存の広告見出しとの組み合わせで不自然な日本語の広告が表示されクリック率が大幅に低下した
次のアクション
パフォーマンスの低いアセットは停止し、まずは成果がよかったときの状態に戻しましょう。そのうえで、なぜパフォーマンスが低かったのかを考察し、次の施策に活かすのが重要です。
訴求が重複したり、日本語として不自然な組み合わせで表示されている場合はアセットの表示順を固定しておくと安心です。
⑥オークション分析:競合との状況は?
競合の動きや自社の市場での立ち位置を把握するのは、外的要因による変動を確認するのに役立ちます。

広告管理画面では「分析情報とレポート > オークション分析」から確認できます。
以下は、CV数が減少しているケースです。
- 成果の変数
CV数が減少した - 変数の整理
大きな変更は加えておらず、思い当たる変数がない。 - こんな仮説を立てて見てみよう
- 新しい競合が参入して、自社のインプレッションシェアが奪われているのでは?
- 特定の競合が入札を強化した結果、自社の広告の表示順位が下がり、クリック率が低下したのでは?
分析で見えてくること
オークション分析では外部要因がパフォーマンスに影響を与えている可能性に気づけます。
<外部要因による変化例>
- 競合が大規模なキャンペーンを開始したことで、自社の広告表示が減り、クリック率とコンバージョン率が悪化してしまった。
- 競合が入札を強めたことで自社のインプレッションシェアが下がり、クリック数が減少していた。
次のアクション
競合の動きを踏まえて、自社の入札単価を見直しましょう。競争が激化しているキーワードでは、入札調整だけでなく、自社の強みをより明確に伝えられる訴求軸の広告文を追加して、コンバージョン率改善を狙うのも重要です。
それでも費用対効果が合わない場合は、競争の激しい領域から一時的に撤退し、成果が出やすいキーワード群に予算を集中するといった判断も有効です。
分析例
具体的に以下の事象が起きたと想定して、分析の流れを一緒に確認していきましょう。
商材 : 定期購入のサプリメント
事象 : 先週、全体的にコンバージョン数が減少(クリック数増加、CVR低下)
【変数の整理】
先週は入札調整など大きな調整はしておらず、特に思い当たる外部要因もない。
【仮説】
大きな調整はしていないがクリック数が増えている。インテントマッチで設定しているキーワードが想定以上に拡張され、潜在層へのリーチ・流入が増えているのでは?
【比較軸】
先週の数値の変化を見るため、先週と先々週で比較する
【分析】

Googel広告 管理画面 > 分析情報とレポート > 検索語句

期間は 「先週」を選択し 「比較」をオンにします。
【分析結果】
先々週と比べて、この商材の効果とは少し異なる悩みを持つ検索語句への広告表示とクリックが増えていた。
【対策・アクション】
表示が増えている検索語句が、商品の効果として訴求できない悩みに関するものであれば除外し、訴求できる悩みであれば、それに対応する広告文を追加しましょう。
"なんとなく"をやめて、仮説に基づいて分析しよう
数字を見るとき、なんとなく眺めるだけでは、成果の変化を正しく捉えることはできません。
分析の基本姿勢は「変数の整理」「仮説→分析の順序」「比較軸の固定」です。ただ数字を眺めるのではなく、常に「なぜ?」という問いを持って仮説を立て、分析・検証する。このプロセスこそ、次の打ち手を生み出す力になります。
今日から、なんとなく数字を“見る”だけでなく、仮説に基づいて分析する意識に切り替えていきましょう。その積み重ねが、自分の運用力を高め、着実に成果を伸ばしていくことにつながるはずです。



