「すみません」という枕詞をやめたら、コミュニケーションが前向きになって成果も出た話

「すみません」という枕詞をやめたら、コミュニケーションが前向きになって成果も出た話

すみません、今お時間いいですか?」

すみません、ありがとうございます。」

悪いことをしたわけでもないのに、心のどこかで「迷惑をかけてしまって申し訳ない」と思い、つい「すみません」を口グセのように使ってしまう。

そんな経験はありませんか?私がまさにそうで、社内チャットを振り返ると「すみません」を含む発言は1年半でなんと263件……。

さらに「すみません」だけでなく、「私なんかまだまだで……」「初歩的で申し訳ないですが……」といった、自分を小さく見せる言葉も多用していました。

もちろん、丁寧さや配慮は大切ですし、自分が悪い場合は謝るのが当然です。しかし、この“すみません”という言葉は謙虚さや謝罪ではなく、振り返ると単に“自分を下げる”だけの言葉であることがほとんどでした。

この事実に気づき、思い切ってこの「すみません」をやめてみたら、驚くほどコミュニケーションが前向きになったんです。さらには“対等に話せる関係”が築け、相手からも信頼されることで仕事の成果にも良い影響が出てきました。

なぜ私たちは無意識に“自分を下げる言葉”を使ってしまうのか。そして、それをどう言い換えれば“信頼を生む言葉”に変えられるのか。私自身の経験と、日常で使える言葉の工夫を交えながらお伝えします。


“自分を下げる言葉”が信頼を遠ざける理由

「自分を下げる言葉」は、相手を思いやっているようで、実は相手との間に“壁”をつくってしまうことがあります。

たとえば、「把握できてないかもしれませんが…」という前置き。

一見、丁寧で控えめな印象を与えますが、受け手からすれば「この人は自信がなさそう」「頼りなさそうで大丈夫かな」と感じさせることもあります。

結果として、必要な意見交換や議論の機会を自分から狭めてしまう。信頼は“対等な目線”の上に築かれるものです。

だからこそ、言葉のトーンがわずかに下がるだけでも、関係の温度が変わってしまうのです。本来、謙虚さとは自分を下げることではなく、相手を尊重すること。その違いを理解するだけで、コミュニケーションの質は大きく変わります。

“自分を下げる”言葉を手放すために覚えておきたいこと

「すみません」「私なんか」「理解できていないかもしれませんが…」こうした言葉は、丁寧さや思いやりの表れとして使っているつもりでも、繰り返すうちに自分の発言の価値を下げてしまうことがあります。

相手を立てることと、自分を低く扱うことは違います。前者は相手を尊重する行為ですが、後者は自分への信頼を削る行為です。

ここでは、“自分を下げる”言葉を自然に減らしていくための、私自身の気づきと実践を紹介します。

分からないことは恥ではない

入社当初の私は、「自分だけが分かっていないのでは」と思い込み、「分からなくてすみません…」と萎縮してしまうことがよくありました。

けれど、仕事を続けるうちに、経験豊富なメンバーでも都度調べたり、周囲に確認しながら進めていることを知りました。

「分からないこと」自体は恥ずかしいことではありません。大切なのは、「分からない自分を責めること」ではなく、「分からないことを学ぶ姿勢」を持つことです。

むしろ、分からないことを率直に共有するほうが、チームとしての信頼関係を築きやすくなります。
完璧を装うより、「今の理解ではこう思っています」と素直に話すほうが、相手も安心して会話ができるのです。

“自分を下げる”言葉は、相手のエネルギーも奪う

“自分を下げる”言葉は、自分の気持ちを弱めるだけでなく、相手にも負担を与えます。

以前、何を話しても「私なんて…」と返す人とやり取りしたことがありました。最初はフォローしていましたが、次第にどう返してよいか分からず、会話そのものが重たく感じてしまったのを覚えています。

その経験を通じて、私も同じように“自分を下げて”いたことに気づきました。

謙虚さは信頼を生みますが、過剰な自己否定は相手の言葉の力を奪い、対話の流れを止めてしまうことがあります。言葉のトーンが常に下がると、相手は気を遣いすぎてしまい、率直な意見を伝えづらくなるのです。

だからこそ、「自分を下げることで、相手を遠慮させていないか?」という視点を持つことが大切です。

言葉が関係をつくり、成果を変える

「言葉ひとつで印象は変わる」と言いますが、実際に日々のやり取りを思い返すと、その重みを実感します。

同じ内容を伝えているのに、選ぶ言葉によって相手の受け取り方がまるで違ってしまう。それは、相手の感情だけでなく、信頼関係や議論の質、さらには仕事の成果にも影響していきます。

言葉ひとつで印象は変わる

言葉を少し変えるだけで、会話の印象は大きく変わります。後に続く言葉は同じでも、枕詞ひとつで印象が大きく左右されるのです。ビジネスシーンでのやり取りを想定してみましょう。

たとえば、「広告費用対効果が下がった原因を教えてください」と質問された場合。

①「すみません、先月は競合の出稿が増えてCPCが高騰しております」

②「先月は競合の出稿が増えたことで、CPCが高騰しております」

中身は同じでも、①は「謝罪」が前面に出てしまい、自信がない印象を与えたり、外的要因による変化にも関わらずミスがあったように聞こえませんか?

もちろん自分がミスをしてしまった場合は誠心誠意謝罪すべきですが、そうでない場面で謝ってしまうと、不要な“負の空気”を生んでしまうこともあります。

言葉を変えると関係が変わる

“自分を下げる”言葉を繰り返していると、相手は無意識のうちに「言いづらいな」「伝えないほうがいいかな」と構えてしまいます。

そうした遠慮の空気は、議論のブレーキになってしまいます。しかし、自分を下げる表現をやめるだけで、相手も率直に意見を言いやすくなります。率直な意見や現実的な視点も投げかけやすくなり、結果として議論が活発になるのです。

議論が活発になれば、「一緒にプロジェクトを進めている」感覚が生まれます。相手と目線を合わせて話ができるようになり、自然と信頼関係も深まるでしょう。

関係が変われば成果も変わる

関係のトーンが変わると、やり取りの深さも変わります。クライアントやチームメンバーが背景情報や本音を共有してくれるようになると、提案の精度が上がり、実行スピードも速くなります。

こうした情報の厚みが増すと、より的確な提案や改善の打ち手を考えやすくなり、結果として成果の改善にもつながりやすくなります。

私自身、“すみません”を減らし、報告や提案の文を整理するようにしてから、次のような変化を実感しました。

  • ミーティングでの議論が建設的になった
  • クライアントからの情報提供が増えた
  • 改善施策の数とスピードが上がった

信頼は、言葉の裏側にある「姿勢」から生まれる。そして、その信頼が積み重なることで、チームや顧客との成果も自然と前向きになっていくものだと思っています。

少し話は逸れますが、私は高校時代に吹奏楽部に所属していて、その時も似たようなことを感じていました。

「失敗しないように!」と思うと、失敗を想像してしまって肩に力が入って緊張してしまう。「こういう素敵な音を出したいな」「このフレーズもっと美しく歌いたいな」と思うと、自然と体もリラックスできていい音が出せる。

“どんな言葉を自分に向けるか”は、行動や結果に大きく影響していたんだなと、今では思います。

“自分を下げる”言葉を手放す3つのステップ

とはいえ、一度身についた口グセをゼロにするのは難しいものですよね。

ここでは、私自身が実践して効果を感じた、3つの小さなステップを紹介します。

まずは「気づく」

最初の一歩は、“どんな場面で自分を下げやすいか”を知ることです。

私の場合、依頼や質問、報告など、あらゆる場面で“無意識に”枕詞として「すみません」を使っていました。

あるとき上司に「別に謝る必要はないよ」といわれて初めて、自分の“過剰にへりくだる癖”に気づいたのです。

癖というのは自分では気づきにくいもの。自覚症状は無いけれど自分にも直すべき癖があるかも...?と思う方は、同僚や上司にお願いして見つけて教えてもらうと良いかもしれません。

また、冒頭の私のように、自分の発言やチャットを読み返したり検索してみたりするのも自分の癖を見つけるのに役立ちますよね。

次に「削ってみる」

次のステップは、とにかく“削ってみる”ことです。

いきなり完璧な言い換えを目指す必要はありません。まずは自分を下げる枕詞を取ってみるだけでも、印象は驚くほど変わります。

すみません、直します」→「直します」

すみません、確認します」→「確認します」

たったこれだけでも、印象が大きく変わります。相手は「ちょっと落ち込んじゃったかな…?」などと思わずに済みますし、自分も余計な自己否定を口にしない分、気持ちが軽くなります。

テキストで「練習する」

会話では緊張して口癖が出やすいですが、テキスト(チャットやメール)であれば一度立ち止まって見直せます。

私もSlackのメッセージを書いているとき、「恐縮ですが…」と入力した瞬間に手を止め、別の表現を探す練習をしました。

こうした小さな置き換えを繰り返すうちに、自然と“下げない言葉”が口から出るようになります。文章で練習し、会話で活かす。この順番がポイントです。

自分を下げる言葉の前向きな言い換え例

私が意識している、場面ごとに使われがちな表現と、言い換え例をまとめてみましたので参考にしてみてください。

場面Before
(自分を下げる言葉)
After
(前向きで信頼を生む言葉)
なぜこの言い換えが良いのか
人に話しかけるときすみません、
お時間いいですか?
少しお時間よろしいでしょうか?
〇〇についてご相談させてください。
「すみません」ではなく「ご相談させてください」と
目的を明確に伝えることで、
依頼が“お願い”から“協働”に変わる。
相手も前向きに応じやすくなる
質問したいときすみません、
教えていただけますか?
〇〇について伺いたい点があります。
教えていただけると助かります。
“教えてください”を
丁寧に保ちつつ、“助かります”で
感謝と目的を両立
相手を立てながら、
自分の主体性も残せる。
フィードバックを受けたときすみません、
修正します。
ご指摘ありがとうございます。
内容を反映して修正します。
「すみません」は防御的に聞こえる。
感謝+行動を伝えることで、
改善意欲と信頼感を示せる。
新しい仕事を引き継いだときまだまだでして…これからしっかり
キャッチアップしながら進めます。
よろしくお願いします。
「できていない」ではなく
「これからやる」に置き換えることで、
成長意欲が伝わる。
受け取る側の安心感も増す。
発言の前置き初歩的な質問で恐縮ですが…認識をそろえるために
確認させてください。
「初歩的で恐縮」は自分を下げる前置き。
目的(確認)を明確にすると、
建設的な対話の流れを保てる。
何かをお断りするとき出来ないと思います。現状この方法では難しいですが、
別案として〇〇はいかがでしょうか?
否定で終わらず、
“代替案”を出すことで、断りが協働的に変わる。
提案力・信頼感が上がる。
感謝を伝えたいときすみません、ありがとうございます。ご対応ありがとうございます。
おかげで助かりました。
「すみません」ではなく「おかげで」に変えると、
謝意よりも“貢献への感謝”が伝わり、
関係が前向きになる。

言葉を変える目的は、“印象を良くする”ことではなく、関係をより協働的にすることがポイントです。

すみません、恐縮、まだまだ、どれも謙虚さの裏返しですが、それを「信頼につながるトーン」に変えるだけで、相手の反応も自分の気持ちも驚くほど軽くなります。

自分を小さく見せない言葉選びを

もちろん「すみません」という言葉自体は悪いものではありません。

ただ、”なにも悪くないとき”にも無意識に謝ってしまうと、必要以上に自分を小さく見せてしまうこともあり、とてももったいないのを知ってほしいと思いこの記事を書きました。

ちょっとだけ立ち止まって「ここですみませんって言う必要はあるのかな?」と考えてみるのもよいと思います。たったそれだけの変化でも、言葉のトーンが変わり、自分の立ち位置が少しだけ前向きになります。

クライアントワークでも同じです。どんなに良い提案でも、自信のないトーンでは説得力が半減してしまいます。

私自身も「すみませんでしたオーラを出していたな」と反省することが何度もありました。自信のない人に大事な仕事は任せられませんよね。

けれど、準備を重ねて“自信を持って話せる状態”で臨んだ会議や提案は、明らかに相手の反応が違いました。伝え方ひとつで、信頼の空気は変えられるんですよね。

みなさんの中にも、無意識に使っている“言葉の癖”があるかもしれません。そのひとつを今日、ほんの少しだけ言い換えてみる。それだけで、仕事のしやすさも、人との距離感も、少しずつ変わっていくはずです。

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