
広告運用をしていると、こんな悩みを感じたことはないでしょうか?
- 広告は順調に配信され、コンバージョン数も増えている。しかし、獲得できた顧客の中には「購入単価が低い」「リピートにつながらない」ケースが多い。
- 広告の成果をCPA(顧客獲得単価)や件数だけで評価すると、実際の利益とはズレてしまう。
Meta広告のAIは強力で、効率よくコンバージョンの数や値を増やしてくれます。ただしAIの最適化の目標は「量」であってかならずしも「質」が伴うとは限りません。
ここで役立つのが、Meta広告の 「値のルール(Value Rules)」 という機能です。
この仕組みを使えば、広告主自身が「どんな場合のコンバージョンをより重要視すべきか」をAIに伝えることができ、単なる件数ではなく 利益やLTV(顧客生涯価値)を意識した運用 にシフトできます。
たとえば以下のようなケースです。
- 例1:年齢層によってLTVが異なる → LTVが高い層にはより積極的に広告を表示する
- 例2:特定の都道府県は解約率が低い → 対象の都道府県への広告配信を強化する
- 例3:リールに比べフィードへの配信は成約率が高い → フィードへの入札により重きを置く
もちろん、低い数値の底上げも検討すべきですが、このように値のルールを使うことで「AIの最適化軸を自社の利益構造に合わせられる」点が最大の魅力です。


目次
「値のルール」の基本的な仕組み
Meta広告の「値のルール(Value Rules)」は、入札単価を条件付きで調整できる機能です。
通常、Meta広告のAIは「できるだけ多くのコンバージョンを獲得する」ことを優先します。しかし、全てのコンバージョンが同じ価値を持つわけではありません。たとえば継続率の低い購入や、成約につながりにくいリードもあれば、逆にCPA(コンバージョン獲得単価)は高くともやLTVの高い顧客属性や配置なども存在します。
このギャップを埋めるのが「値のルール」です。あらかじめ広告主が条件を設定し、その条件を満たした広告配信に対して入札額を増額・減額することで、AIに「どの配信をより重視すべきか」を伝えることができます。
設定可能な条件
- 年齢(18~24/25~34/35~44/45~54/55~64/65+)
- 性別(女性/男性)
- モバイルOS(Android/iOS)
- 場所(市区町村/国/地域または都道府県)
- 配置(Facebookフィード/ストーリーズ/リール、Instagramフィード/ストーリーズ/リール、Audience Network)
調整のイメージ
- 25〜34歳の男性ユーザーは平均LTVが高い → 25〜34歳の男性の入札価格+50%に設定
- リールからのコンバージョンは継続率が高い →リールの入札価格を+50%に設定
- 女性の購入単価が高くLTVも高い → 男性の入札価格を-80%に設定
入札価格の増減は[ -90% ~ +1000% ]の範囲で設定が可能です。
機能のメリット
「値のルール」を導入する最大のメリットは、広告の最適化を 単なる件数や値ベースから利益ベースへと進化 させられる点にあります。Meta広告のAIは膨大なデータをもとに成果を出しやすいユーザーを見つけますが、その成果が必ずしもビジネスにとって価値が高いとは限りません。そこで値のルールを加えることで、AIに「どの成果を優先すべきか」を明確に伝えられるのです。
質を重視した配信が可能になる
従来の最適化は「1件のコンバージョン」をすべて同等に扱っていました。その結果、低単価商品や将来的な成約につながりにくいユーザーに配信が偏ることもありました。値のルールを使えば、利益に貢献しやすい層に高い価値を設定でき、結果としてLTV(顧客生涯価値)の高いユーザーを重視した配信が期待できます。
広告費用対効果の改善
ビジネスにおいて重要なのは「CPA(顧客獲得単価)の低さ」だけではなく、「費用を投じた結果どれだけの利益を生み出せるか」です。値のルールを導入すれば、利益率の高い顧客に予算を集中させ、不要なセグメントへの出稿を抑制できます。その結果、全体のROAS(広告費用対効果)が向上することが期待できます。
ファネルの下流にフォーカスできる
B2Bや高額商材の場合、資料請求やWebサイトへの登録といった初期コンバージョンは必ずしも最終的な成約につながるとは限りません。値のルールを用いれば、セミナー参加やトライアル申し込みといった「成約に近い行動」に高い値を与えることができ、AIは自然とファネル下流の成果に最適化するようになります。
AIの強みを引き出す
Meta広告のAIは高い精度でユーザーの行動を予測できますが、どの行動を優先すべきかまでは理解していません。値のルールを設定することで、AIの学習がビジネスの方向性に沿ったものとなり、人間の戦略とAIの自動化が補完し合う関係を築けます。
特にAdvantage+ Shopping Campaigns(ASC)のようにAIが主体で最適化を進めるキャンペーンでは、件数に偏りやすい傾向を補正する意味でも、値のルールを組み合わせることで収益性を高める方向に調整しやすくなります。
次章では、この便利な機能を使う際に注意すべき点や、失敗しやすい落とし穴について詳しく解説します。
値のルールの活用例や応用方法
値のルールは「利益に直結する成果を優先できる」という点で非常に柔軟性が高く、さまざまな場面で応用できます。ここでは代表的な活用シナリオを紹介します。
ECサイトにおける応用
ECサイトでは、顧客の年齢層や性別によって平均購入額やリピート率が大きく異なることがあります。過去のデータを分析した結果、45〜54歳の女性が高額商品を購入する傾向が強いと分かった場合、その層に対して値のルールを設定し、入札を増額します。これにより、短期的な購入件数の増加だけでなく、長期的なLTVの高い顧客を優先的に獲得することが可能になります。
近年普及が進むASCにおいても、単に購入件数を増やすだけでなく、利益率の高い商品やLTVの高い顧客層に重点を置くために値のルールを加えると、キャンペーン全体の費用対効果を高めやすくなります。
B2Bリード獲得のケース
B2B分野では、すべてのリードが同じ価値を持つわけではありません。たとえば、営業所のあるエリアとそれ以外、プライベートのつながりの多いInstagramよりもビジネスのつながりの多いFacebookのように、場所や配置によって、リード獲得後の行動に差がつくことも少なくありません。こうしたユーザーの状況に対して値のルールを使って高い値を割り当てることで、単純なリード数の獲得ではなく、質の高い見込み客の獲得へより重み付けした配信が可能です。
モバイルアプリの成長戦略
アプリ事業者の場合、同じインストールでも課金や継続利用につながる割合がOSによって異なることがあります。たとえばiOS経由のユーザーは課金率が高いと分かっている場合、iOSユーザーのコンバージョンに+200%の調整を加えることで、より収益性の高いユーザーの獲得に資源を集中できます。
広告配置ごとの調整
Meta広告ではフィードやリール、ストーリーズ、Marketplaceなど複数の配置で広告を出稿できますが、それぞれ成果の質は異なります。もし自社のデータから「リール経由の購入者はリピート率が高い」と判明した場合、その配置に対して値のルールを適用し、予算配分を戦略的に誘導することができます。
このように、値のルールは「広告配信を自動化に任せきりにせず、事業戦略を反映させるためのハンドル」として活用できるのが大きな強みです。
「値のルール」の使い方・設定方法
「値のルール」は広告マネージャの画面から簡単に設定できます。以下の流れに沿って進めれば、初めての方でも迷わず導入できるでしょう。
ステップ1:広告設定あるいは広告セットにアクセス
大きく2つの作成方法があり、どちらの方法でも作成が可能です。
①広告設定で事前に作成する

まずはMeta広告マネージャにログインし、左側のメニューから「広告設定」を開きます。その中にある「値のルール」をクリックすると設定画面に移動できます。
②広告セットの設定から作成する

もしくはキャンペーン一覧画面で、広告セットの作成あるいは編集フローからも作成が可能です。

すでに作成済みの広告セットであれば、「編集」から「コンバージョン」のパートの「バリュールール」の箇所で、「ルールセットを作成」から作成できます。作成したルールセットは①の作成時と同様の場所に保存されます。

なお、①で作成済みの場合には、「ルールセットを適用」という表記に変わり、チェックを入れると作成済みのルールセットを選択できるようになります。
ステップ2:ルールセットを作成する
新しいルールを追加するには、最初に「ルールセット」を作成する必要があります。これは複数のルールをまとめて管理するための単位です。

1つのルールセットには最大で10個までルールを含めることができます。
ステップ3:条件を選ぶ
次にルールの条件を指定します。

これらの条件は2つまで組み合わせることができるため、たとえば「東京都在住の女性」といったセグメントを定義できます。
ステップ4:値を調整する
条件を設定したら、そのコンバージョン値をどの程度増減させるかを決めます。調整幅は増額で最大+1000%、減額で最大-90%です。

ステップ5:ルールの優先順位を設定する

複数のルールを設定した場合、重複する条件に当てはまった場合でもすべてが同時に適用されるわけではありません。Metaの仕組みでは、リストの最上位にあるルールのみが適用されます。
たとえば「東京都の女性は+20%」「iOSユーザーの女性は+50%」というルールを設定した場合、東京都在住でiOSを利用している女性には、最上位にあるルールだけが適用されます。
そのため、どの条件を優先するかを明確にした上でルールの順番を整理することが大切です。
ステップ6:保存と適用
設定が完了したら保存し、ルールセットを有効化します。既に配信中のキャンペーンにも適用できますが、新しいルールを反映させた後は数日間の学習期間が必要となり、その間は成果指標に揺らぎが出る可能性があります。短期的な変化に一喜一憂せず、十分なデータが集まるまで観察することが重要です。
次の章では、この「値のルール」を導入するとどのようなメリットが得られるのかを解説していきます。
値のルールを活用する際の注意点
値のルールは強力な機能ですが、設定を誤ると広告配信が不安定になったり、期待した成果が得られないこともあります。ここでは、実際の運用で注意すべき代表的なポイントを整理します。
データが不十分な状態での利用
値のルールを導入する際に最も注意したいのは、十分なデータが蓄積されてから活用することです。少額の配信や短期間の数値を根拠に「この層は価値が高い」と判断すると、統計的に偏った設定になり、配信が狭まりすぎたり、想定外の方向へ最適化が進むリスクがあります。AIの学習を補強する役割を持つ以上、基礎データが欠けている段階では誤作動を起こしやすい点を忘れてはいけません。
ルールの競合と優先順位
複数のルールを設定すると、同じユーザーが複数条件に該当するケースが出てきます。Metaの仕組みでは、こうした場合に最上位のルールだけが適用され、それ以降のルールは無視されます。たとえば「東京都の女性は+20%」「iOSユーザーの女性は+50%」という設定をしても、両方が同時に適用されるのではなく、上位のルールだけが反映されるのです。このため、どの条件を最優先したいのかを事前に明確にし、ルールの並び順を戦略的に決めることが欠かせません。
利用できない入札戦略や広告カテゴリ
値のルールはすべての入札戦略や広告カテゴリで利用できるわけではありません。ROAS目標や入札価格上限、コンバージョン値最大化といった戦略では併用できず、また信用、雇用、住宅、政治関連などのカテゴリも対象外となります。設定の前に自社のキャンペーン目的や業種が対象外に当てはまらないかを必ず確認する必要があります。
ファネル上部のイベントには不向き
リンククリックやランディングページビューといった、購買や成約に直結しないイベントには値のルールを適用できません。これらは一見すると数値を稼ぎやすい成果ですが、長期的な収益性を評価する指標としては不十分です。値のルールは、あくまで顧客の質や利益に直結する成果を重視する場面でこそ活きる機能だと理解しておきましょう。
学習期間の考慮
ルールを追加・変更した直後は、MetaのAIが再学習を行うため成果指標が一時的に不安定になります。この期間に短期的な判断を下すと、せっかくの最適化が中断されてしまう可能性があります。最低でも数日から1週間程度は観察し、十分なデータが蓄積されてから評価を行うことが推奨されます。
値のルールを戦略に組み込むために
ここまで見てきたように、Meta広告の「値のルール(Value Rules)」は、単なる自動最適化に任せるのではなく、自社の利益構造や顧客分析を反映させるための重要な仕組みです。
この機能を活用することで、次のような成果が期待できます。
- コンバージョン数だけでなく、LTVや収益性を重視した配信設計が可能になる
- 不要なセグメントへの配信を抑制し、広告費用対効果を改善できる
- ファネル下流に位置する「質の高い行動」へ最適化を誘導できる
- AIの自動化と広告主の戦略的判断を組み合わせられる
一方で、データ不足での早期利用や、ルール間の競合、適用不可の戦略やカテゴリといった落とし穴も存在します。導入する際は、十分な配信データをもとに優先順位を明確にし、少しずつテストを重ねながら活用するのが理想的です。
次のステップとしては、自社の顧客データを振り返り「どのセグメントや行動が本当に利益に直結しているか」を洗い出すことから始めてみてください。そのうえで、広告マネージャの「値のルール」設定画面を開き、試験的に1つルールを作成して効果を観察することをおすすめします。
AI任せの運用から、戦略をAIに注入する運用へ。値のルールは、まさにその転換点を担う機能です。今日から少しずつ活用を始め、自社の広告投資をより利益に直結させていきましょう。