「決めるけど、決めつけない」──人事が判断を担う中で大切にしている、”複雑なものを複雑なまま捉える”ということ
入社後に複数の職種を経験したのち、現在は人事のマネージャーを務める小坂さん。学生時代から組織論に興味を持ち、採用・評価制度・研修など多方面から組織づくりに関わっています。今回は、人事という職種に至るまでの経緯や、判断を担う中で大切にしていることについてお話を伺いました。

“複雑さ”に直面して見つけた、目の前の人の役に立ちたいというシンプルな原動力

ーーー小坂さんは人事として働きはじめる前から、組織に興味を持っていたそうですね。

はい、大学時代に組織論に触れる機会があり、そのころから興味を持っていました。

小さい頃からスポーツ観戦が好きで、大学時代にはサッカー部でスタッフをしていたのですが、チームのパフォーマンスを最大化するための理論を色々と学ぶなかで、組織論に出会ったんです。

実はアナグラムのことも、独自の組織運営をしている会社として、転職するよりも前から注目していました。現場に意思決定の権限を委譲する逆ピラミッドという体制や、真にクライアントに向き合うために売上ノルマを設けないといった独自の方針が面白く、サイトも読み込んでいましたね。

ーーーもともとアナグラムのことは知っていたんですね。そこから転職に至るまでを教えてください。

昔からスポーツ業界で働きたいと思っていたこともあり、新卒ではスポーツに関わる企業に入社しました。でも、コロナの影響で、スポーツビジネスを思うように動かせるタイミングではなくなってしまって。加えて、実際に好きなことを仕事にしてみて、まだまだ自分の力が足りないな、と思った部分もあったので、キャリアを見直すことにしました。

そんな時期に、アナグラムの方が個人のSNSで「売上ノルマがないからお客様に喜んでもらうことを第一にできる」と投稿しているのをたまたま見かけたんです。

以前から売上ノルマを持たない会社だということは知っていましたが、それが現場で機能しているのかは半信半疑なところもありました。でも、理想論ではなく実践されていると知って、アナグラムで働く選択肢が一気に現実味を帯びてきたんです。そこから、応募に至るまでは早かったです。

ーーー最初はマネージャーアシスタントとしての入社だったそうですが、どういう経緯だったんでしょう?

当時は勉強にも力を入れたかったので両立できる働き方を探していて、アシスタント職で応募をしたんです。

ただ、「目の前の人の役に立つ、そのときにやるべきだと思ったこと」を淡々とやっていたら、結果的に運用型広告エキスパートや人事など複数の職種を経験していました。これだけ色々な職種を経験しているのは社内でもかなり珍しいですね。

ーーー「目の前の人の役に立つ」というのが小坂さんの仕事の原動力なんですか?

そうですね。「目の前の人の役に立ちたい」「身近な人を幸せにしたい」という気持ちは仕事の原動力になっています。

このシンプルな原動力に至るまでには紆余曲折あって…。

わたしは中学生の頃からスポーツ業界を志して、逆算的にキャリアを積み重ねてきたこともあって、いざ違う仕事をしようと思っても、なかなかやりたいことが見つからなかったんです。「この仕事は社会の役に立つのか?」「人の幸せにつながるのか?」なんて考え出すと底なし沼で、どんな仕事も誰かの役に立つし、誰かの幸せが誰かの不幸せにつながることもあるし、何を基準に仕事を選べばよいのか全く分かりませんでした。

そんなときに出会ったのが、伊坂幸太郎さんの小説『砂漠』に登場する、ちょっと変わったキャラクターでした。世界平和のために、麻雀を打つときも“ピンフ(平和)”をわざわざ狙うんです。

ーーー麻雀で勝つことよりも、ピンフ(平和)を作ることを優先するのですか?

そうなんです。他人からしたら意味不明な論理だと思うんですが、とにかく今見えている範囲で「いいな」とか「なんか悪くないな」と思うことをとにかくやらなきゃ何も変わらないんだ、と気付いて、意識が変わりました。

世の中も人も複雑なものなので、自分が見える範囲には限界がある。でもその限界にとらわれるあまりに動けないのは嫌だな、と思ったんです。この考えは、今の人事の仕事にもすごく活きていますね。

「決めるけど、決めつけない」──判断を支える、人と組織の捉え方

ーーー人事の仕事にも活きているというのは、どういうことでしょう?

わたしは人や組織というものは本来とても複雑な存在だと思っているんです。だから、まずは出来る限り「複雑なものを複雑なまま捉える」ことを大切にしています。

たとえば学歴や職歴は、相手を理解する上ですごくわかりやすい“フレーム”です。けれどその一方で、あくまで「理解しやすくするための補助線」にすぎないと思っています。

なぜなら「○○大学に受かった」という肩書があったとき、それは本来「その年その大学の試験問題を、ある基準以上に解けた」事実を示すだけだからです。英語がすごく得意な人もいれば、数学が飛び抜けている人やバランスよく解ける要領がよいタイプもいる。肩書で単純化してしまったら、その内訳の複雑さを見落とすことになりかねません。

だから、表面にある情報に引っぱられすぎず、「この人はどういう人なのか」を見たいなと思っています。実際、用意された完璧な回答やわかりやすい職歴よりも、会話の中でふと出てくる素の言葉や表情から、”その人らしさ”が伝わってくることが多いです。だからこそ面接官の立場としても単なる一問一答にならないよう、出てきた回答に対して深堀りすることを意識しています。

ときどき応募者の方から、「自分の考えが整理された」とか「面接が楽しかった」と言っていただけることがあります。そういった感想をもらえると、こちらの“相手を知ろうとする姿勢”が少しでも伝わったのかな、とうれしく感じます。

ーーー選考でも「複雑なものを複雑なまま捉える」ことでしか見えてこないことを重視しているんですね。

その通りです。でも、「複雑なものを複雑なまま捉える」だけだと、わたしがキャリアに迷って動き出せなかったように、何も決められなくなってしまう危険性があるんですよね。

わたしはいつも「もっと知りたい」という気持ちを持って面接に臨んでいます。でも、どれだけ丁寧に対話しても、その人のすべてを知ることはできないと思います。知りえない部分がありながらも、選考を通過していただくかは判断しなければなりません。

「もっと知りたい」という希望と「すべては知りえない」という絶望。その両方を受け入れて乗り越えるためには、「限られた視野の中でも、自分なりに見て、考えて、その判断に責任を持つこと」が必要なんだな、と感じています。

特に面接という特殊な場では、お互いにすべてがうまく伝えられるわけでもないし、訊ききれないこともあると思っています。だからご縁がなかった場合も、それは「知りえた情報のなかで判断した」だけであって、誰かを否定するわけでは決してありません。

誰かの正解じゃなく、自分の答えを引き受けられる人と、働きたい

ーーーアナグラムで人事として働く中で、どんなところにやりがいを感じますか?

まず、人という複雑な存在に関わるという点は、ひとつのやりがいです。1人として同じ人間はいないので、いくらやっても飽きないと感じます。異なる人たち同士が組織としてどうやって最大の成果を上げるか?という領域に直接関われるので、先ほどお話した採用はもちろん、配置を考えたり、社内の仕組み・制度を整えたりなど、終わりがありません。

加えてアナグラムのカルチャーや仕組みが、わたしが大切にしている「複雑なものを複雑なまま捉えながら、自らの決断に責任を持つ姿勢」と自然に重なることも、やりがいにもつながっていますね。

たとえば仕事を工程ごとに分業するのではなく、ビジネス全体を捉えてクライアントを支援する「一気通貫の体制」は、まさに仕事やビジネスといった「複雑なものを複雑なまま捉えること」そのものだと思っています。それと同時に、担当する仕事を自分で決める「挙手性」は、仕事を選り好みするためではなく、自分のキャリアを主体的にかたちづくっていくことで「自分の選択とその結果を引き受ける」ためのものと捉えています。

「働きやすそうな会社」と言ってもらえることも多いのですが、そこには“自律している人にとって”という前提があるんですよね。アナグラムの制度や仕組みは、単なる居心地の良さを追求したものではなく、「意思を持って選び、考え、行動する人」が力を発揮しやすくするためのものです。自由度の高さは、責任とセットで成り立っています。

ーーー最後に、小坂さんが今後どんな方と一緒に働きたいか教えてください。

今の世の中には“こうあるべき”という価値観が溢れていますよね。でも、その人が何を実現したいのかによって正解は違いますし、本来複雑なものを単純化してどちらが正しいと断定することはできないはずです。だから、そういう一括りの物差しに流されるのではなくて、「自分の正解を自分で選べる人」と仕事がしたいと思っています。

たとえば「とにかくがむしゃらに働いた方がいい」という意見もあれば、「ワークライフバランスを大切にしたほうがいい」という意見もあるじゃないですか。SNSなどでは極端な意見のほうが目立ってしまいますが、物事のあらゆる面をフラットに捉えたうえで、ネガティブな面もまるっと引き受けて「自分はこうするんだ」と決められる人がアナグラムには向いているんじゃないかな、と感じています。

アナグラムで数年働いてみて、分業やノルマでガチガチに管理しないということは、自由を扱いこなす力が求められるということなんだ、とより深く実感するようになりました。わたし自身もいまだに手探りな部分がありますし、言葉でいうほど簡単なことではないとも思っています。

ですがだからこそ、正解や環境を“与えられる”側にいるのではなく、自分なりの判断軸を持って、“選んだ結果を引き受ける”側に立っていたい、という人と、一緒に働けたらうれしいですね。