2021年10月26日と27日にかけてAmazon広告のカンファレンスunBoxedが開催されました。以前はAdConと呼ばれていたこのイベントは、今年もコロナパンデミックの影響によってオンラインで開くことになりましたが、キーノートをはじめ、複数のトピックスにわたる深掘りセッションとトークが行われ、Amazon広告の最新のサービスと今後期待できることに関する見解を得られる機会でした。
今回の記事では、このunBoxedで取り上げられたテーマを中心にご紹介していきます。
目次
キーノート
Amazon社のCEOであるアンディ・ジャシー氏の歓迎の言葉に続いて、Amazon広告のグローバルマーケティング&トレーニングディレクターのクレア・ポール氏の司会で、キーノートが始まりました。
複数のトピックスの中で、やはり購入行動の習慣から余暇の過ごし方、利用するサービスに至るまでコロナ禍で日常生活に起きた様々な変化にAmazonが広告周りのソリューションでどうやって対応していくか、という課題感が垣間見えました。
最新の広告プロダクトには、特にユーザーの日常生活にシームレスに溶け込むようデザインされているものが目だっていたこともあって、キーノートの冒頭に提示されたスローガン「Your Brand, Their World」(あなたのブランド、ユーザーたちの世界)と一環としていた姿勢がうかがわれました。
注目のプロダクトについて
キーノートとその後のセッションでの話題を振り返ると、紹介されたプロダクトには特に下記の3つのテーマに焦点が当てられていた印象が強かったです。
- アッパーファネル、ミッドファネル領域でのターゲティング機能の拡大
- ストリーミングやオーディオのAmazonプロパティと新しい広告プロダクトとの連携
- 広告効果の測定可能性の向上
以下では、これらのテーマに沿って発表されたプロダクトやソリューションをご紹介します。
広告プロダクト(セルフサービス)
Amazon広告のセルフサービスソリューションの中でかなり注目されたのは「スポンサーディスプレイ広告」でした。
購入リマーケティングとルックバックウィンドウ
「購入リマーケティング」と「カスタムルックバックウィンドウ」は、広告コンソールにはすでに用意されている機能ですが、前者は、オーディエンスターゲティングの新しいカテゴリーで、過去に広告商品(または関連商品や補完商品)を購入したことのあるユーザーを対象にリターゲティングを行うものです。こちらは、再購入率の高い製品の出品者にとっては特に興味深い機能と思われます。
また「カスタムルックバックウィンドウ」を設定することで、商品購入時の検討期間や平均的な再購入頻度にあわせてリターゲティングのタイミングを調整できる機能です。ユーザーの自然な購買行動を参考に広告出稿を柔軟にコントロールできるということで、スポンサーディスプレイ広告のオーディエンスターゲティングへのありがたい追加です。
※カスタムルックバックウィンドウは7日、14日、30日のいずれかに設定できます。
参考:購入リマーケティングとカスタムルックバックウィンドウによって、スポンサーディスプレイ広告のオーディエンスが拡大 | Amazon Ads
スポンサーディスプレイ広告の在庫がTwitchに拡大
現在、北米と欧州の一部の国を限定に提供されていますが、Twitchのライブストリームにスポンサーディスプレイ広告を表示することが初めて可能になりました。
コロナ禍で大きな成長を遂げたTwitchは、従来の中心的な存在であったゲームのライブストリーミングに加えて、様々なコンテンツジャンルを網羅したプラットフォームとして確立したため、リーチできそうな視聴者の幅が広いと予想できます。こうして、スポンサーディスプレイ広告で大事な新たなタッチポイントを作る可能性が大きいと思われます。
参考:スポンサーディスプレイ広告がTwitchのライブストリームで利用可能に | Amazon Ads
広告プロダクト(その他)
インタラクティブ広告
今回のunBoxedカンファレンスでのもう一つの注目点は、いわゆるAmazon Interactive Adsというプロダクトです。これらは、Amazonが提供する大規模なメディアネットワーク(例えば、動画ストリーミングサービスのIMDb TVやポッドキャストネットワークのWonderyなど)内で表示可能な動画広告や音声広告であり、視聴中のコンテンツに大きく干渉することなく、リモコンやAlexaによる音声入力で「詳細を調べる」「カートに追加する」、「購入する」などのインタラクションを行うことができます。
これらのプロダクトは現在、北米限定で利用可能となっているベータ版ですが、Amazonのプロパティやテクノロジーを連携させて、シームレスで新しい広告フォーマットを作ることができることは、これからの広告の在り方についてかなり示唆的だと言えます。
ご参考:ブランドとオーディエンスのエンゲージメントを高めるのに役立つ2つのインタラクティブ広告ソリューション | Amazon Ads
測定、分析とアトリビューション
新しい広告プロダクトに加えて、測定と分析の話題も比較的大きな時間が割かれました。特に今後訪れるクッキーレス化から考えると、ますます緊急性の高いテーマとなっています。
今回のunBoxedカンファレンスでは、コンバージョンファネルの上層部や中層部にいるユーザーに対しても広告の成功を評価できるようなソリューションへ強くフォーカスされていました。
ブランド指標(ベータ版)
新しく登場したブランド指標では、ブランド認知度やユーザーの検討段階の指標が確認可能になり、同じ業種の競合他社のベンチマークと比較することもできます。
ユーザーがブランドとのインタラクションをとったとがあれば、過去のカスタマージャーニーデータに基づいてその行動と購入の可能性との相関性を評価し、エンゲージメントの費用対効果などの値を算出することまで可能です。
こうして、アッパーファネルやミドルファネルの中から購入に繋がりやすいユーザー行動を特定し、スムーズに今後の広告戦略に活かせるのではないかと思われます。
ご参考:ブランド指標がAmazonで利用可能に | Amazon Ads
Amazonブランドリフト(ベータ版)
Amazonブランドリフトは、Amazon DSPコンソールで作成できるブランド認知を測定するためのカスタマイズ可能なアンケート機能のことです。
特にトップファネルのユーザーに出稿した広告評価に役に立つと思われるAmazonブランドリフトは、ユーザーの調査への参加が任意のであるため、データ保護の観点においても安全なソリューションであり、お客様から直接貴重なインサイトを得ることが期待できます。この機能は、今のところ米国でしか利用できません。
ご参考:広告主様はAmazonブランドリフト(ベータ版)を使用してブランドマーケティングの効果が測定可能に | Amazon Ads
Amazon Marketing Cloud(ベータ版)
また、Amazon Marketing Cloud(以下、AMC)というプロダクトも今回のunBoxedカンファレンスで注目されました。
AMCは、クラウドベースのプラットフォームで、Amazon広告のデータに加え、Amazon外の広告媒体のデータを統合し、各チャネルがカスタマージャーニーの中のどう貢献しているかなどのクロスチャネルのインサイトを可視化できます。また、AMCに取り込まれるデータがハッシュ化されているため、データ保護規制に準拠した環境で分析が可能で、データの取り扱いについて敏感な今の時代によくマッチしたプロダクトだと言えます。
AMCはAmazon DSPが使用可能なすべての国で利用できます。
ご参考:Amazon Marketing Cloud(ベータ版)| Amazon Advertising
ユーザー行動にマッチしたフルファネルアプローチの強化
Amazon広と言えば、やはり「購入直前のユーザーに特化した広告」というイメージが強く定着しているかと思いますが、今回のunBoxedカンファレンスではコンバージョンファネルのあらゆる段階のユーザーに的確にリーチできる広告プロダクトだけでなく、各段階に応じて、広告の評価に役に立ちそうツールまで提供していることによって、従来のイメージを一部払拭できたかもしれません。
近年、マーケティングの会話の中でたまに耳にするであろう「disruptive」(干渉的な、秩序を乱すような)という概念があると思いますが、Amazonが今回のunBoxedカンファレンス発表したアプローチは、むしろその正反対のものだと言えます。Interactive Adsやスポンサーディスプレイ広告のtwitchへの広告在庫の拡大のように、紹介された新しいプロダクトによく共通していたのは、ユーザーのオンライン上の行動に自然にマッチし干渉を避けることでした。
ただし、進むクッキーレス化や新たなデータ保護の影響もさることながら、デジタルコンテンツの視聴習慣の細分化もあり、複合的な要因でユーザーが広告主にとってますます捉えにくくなってきているため、広告をそのユーザーに「自然にマッチ」させることが困難な課題であることは簡単に想像できます。
ここでAmazonで特徴的なのは、自社のECサイトをはじめ、動画・オーディオのストリーミングサービスやスマートスピーカー・コネクテッドTVなどの技術にいたるまで、膨大なユーザーインサイトを得られるエコシステムと連動していることです。これがあるからこそ、ユーザーの購買行動が依然として比較的「とらえやすい」状況にあるのではないかと思います。
とにかく、これからもAmazon所有のプロパティの融合から生み出されるソリューションがロードマップに載せられていく可能性が非常に高いと考えられます。