
運用型広告の代行についてさまざまな会社に相談をするとき。「共有ごとってこれで全部だっけ……」と思うことはありませんか?
商談はナマモノですから、数十分~数時間の短い打ち合わせでは、つい伝え漏れてしまうこともあるでしょう。聞かれなかったから必要ないと思ってしまうのもまた然りです。
もちろん、相談相手が稀代の聞き上手ならそこまで問題になりません。ただ、いつもクリティカルに課題を見つけ出し、抜け漏れなくヒアリングしてくれる相談相手ばかりとは限らないのが現実です。
相談元の会社にいないと分からない社内体制や外部事情もあるでしょう。そういった外から見えない情報も漏れなく共有できていれば、より芯を食った提案がもらいやすくなり、プロモーション戦略や広告運用のクオリティもグッと引き上げることができます。
そこでおすすめしたいのが、与件メモの作成。プロモーションしたい商材のことを記したメモを手元にもっておき、相談相手との打ち合わせでカンペに使うのです。世間ではRFP(Request for Proposal:提案依頼書)、オリエンテーションリストと呼ばれることもありますが、本記事ではシンプルに与件メモと呼んでみます。
わざわざ依頼側がそんなものを作る必要はないのでは……と思われるかもしれません。しかし与件メモの作成には、依頼する側にこそ大きなメリットがあります。少し手間に思われるかもしれませんが、その後のコミュニケーションや提案・運用の質は間違いなく向上するので、ぜひ作ってみてください。
本記事では、運用型広告の代行を相談する際に、与件メモに書いておくといいことを紹介していきます。


与件メモの形式
仰々しいスライドを作る必要はなく、EvernoteやGoogleスプレッドシート、メモ帳などにテキスト書きしたもので全く問題ありません。
与件メモを作るメリット
与件メモには次のようなメリットがあります。
- 伝え漏れ、聞き漏れ、言った言わないの防止
- 与件メモを事前に共有すれば、打ち合わせの時間を不明点のみに絞って議論できる
- 与件メモを事前に共有すれば、複数の相手に同じ説明を繰り返さなくても良い
- 意図や背景を明確に伝えることで、ほしい情報が網羅された提案が出てきやすい
- 相談する側でも現状の整理ができる
大前提として、相談される側から漏れなくヒアリングすることは必要です。ですが口頭でのヒアリングは、その場の話の流れで伝え漏れ、聞き漏れが出る可能性は常に生じます。
特にWebミーティングでは、「他に何かありませんか?」となったとき、沈黙が続くと放送事故感が漂ってしまうことから、聞き取り不十分な気がしつつも「大丈夫です!」と切り上げられてしまいがち。その点、与件メモを手元においておくと、情報を漏れなく正確に伝えやすく、より状況を汲んだ提案が出てきやすくなります。
与件メモに盛り込むべきこと
相談する側もされる側も、それぞれの希望、状況、得意領域があります。話が進んで契約を締結する段になって、そもそもその条件だと受けられないことが判明すると、それまでの時間が水泡に帰し、残るのは徒労だけ、なんて事態に。お互いにそれは避けたいですよね。
より良い提案や運用をしてもらうため、惜しまず相互に情報共有をしていくことが大切です。
以下、与件メモに盛り込むべきことと記載例です。
項目 | メモ例 | 解説 | |
---|---|---|---|
必須 | プロモーション対象 | https://〇〇〇.jp/ | 商材のURL。説明。競合に対しての強み、独自性、特色を記載 |
目的 |
オンライン販売の強化が急務。 約400件の月間売上件数を、来年3月までに600件以上にしたい | KGIの現状と展望。ここが抜けるとKPI達成に躍起になって主目的を見失ったプロモーションになりがちです | |
目標 | 現在のCPAは¥5000。目標は¥4000以下だが、売上件数重視でCPA¥6000までは許容ラインとして、より件数を多く取っていきたい | KPIの現状と展望。CPA、ROAS、ROIなど、ビジネスに合わせた目標値を書きましょう。許容できる限界のラインと、目指したい目標ラインを書いておくとGoodです | |
予算 | 月額200万円~400万円(手数料込、税抜き) | 月額予算の目安。予算を年間立てしている場合は、年間予算を書きましょう。また、依頼する手数料や消費税込の予算かどうかは、非常にすれ違いが生まれやすい部分なので必ず記載しましょう | |
現状の課題 | 来期3月の決算に向けてよりオンラインでの売上を拡大していきたいが、現状Web広告を自社運用していて改善が追いついていない。事業を理解し売上拡大に向けて、広告の成果向上はもちろん、広告領域以外も相談にのってくれる依頼先を探している | 今困っていること、依頼の背景、叶えたいこと。こんなことまで書いていいのかな?ということもとにかくメモっておきましょう。話す必要ないと思っていることでも、意外に貴重な情報が隠れていることがあります | |
市場環境 | 繁忙期は年末のクリスマス商戦。ここ5年で業界全体で急速にオンライン化が進んでいる。当社はオフライン・オンライン合わせると業界3位だが、オンラインで出遅れており、デジタルシフトして遅れを取り戻したい。最大のライバルは業界2位の××社 | 市場の動向やトレンド、業界内での立ち位置、ベンチマークしている競合など | |
メイン顧客像 | 顧客の8割が女性。そのうち20~30代が半数を占める。ギフト需要で2割ほど男性の購入もあり。競合よりも価格が高いがその分デザインが良いという声が多く、多少高くてもオシャレで満足度の高いアイテムを求めて購入されるお客様が多い認識 | 商材を主に購入してくれている人について。今メイン顧客でない層でも、適切にリーチできていないだけという可能性もあるため、できる限り詳細に | |
依頼領域 | メインは広告運用。LPは自社内に制作体制があるが改善案は大歓迎。商品開発やPR領域も相談にのってほしい | 依頼が決まってから、ここまでやってくれると思っていたけどやってくれなかった、という期待外れを防ぐ意味合いで、依頼したい領域は必ず伝えましょう | |
出稿状況 | Google 広告、Yahoo!広告、Facebook広告を自社で運用中。売上の7割がGoogleの検索連動型広告とショッピング広告で、ディスプレイ広告にはあまり力を入れられていない状況 | 今運用している広告媒体、獲得状況、代理店運用か自社運用か。Webだけに限らず、TVCMや雑誌、チラシ、交通広告なども実施していればすべて書いておく | |
配信開始時期 | 希望は2020年10月スタート、遅くとも2020年11月にはスタートしたい | スケジュールによっては対応が難しい場合もあるため、必ずスケジュールは伝えましょう。契約後にギリギリのスケジュールが公開⇒納期にムリに合わせようとして不完全なクオリティで開始⇒全員が不幸になります | |
支払サイト | 末締めの翌月末払い希望(8月分の広告費を9月末までに支払う形式) | 会社同士の取引の場合、支払、決済でつまづくことは意外と多いため、こちらもメモして共有できると良 | |
求める提案形式 | 与件メモの内容に問題なければWebミーティングかメールで質疑応答を実施。その後NDAを締結し、現状の広告アカウント状況を見てもらった上で、7月末までに提案をいただきたい。提案には、今後の方針、具体的な改善施策、スケジュール、シミュレーション、担当体制がほしい | 提案に求めること、形式などあれば書いておく | |
必要に応じて | 求める体制と担当者像 | 広告運用以外の領域も相談にのっていただける方、また当方であまりGAに詳しくなく、Webサイト全般にわたってGA分析の視点からもアドバイスいただける方がありがたいです。 | どんな人に運用してもらいたいか、担当してほしいか伝えておくと、より臨んだ担当をアサインしてくれやすくなります |
成果計測ツール | GA(Google Analytics)で計測している | KPIの計測方法です。各広告媒体の計測タグなのか、GAなのか、アドエビスなのか、他独自ツールなのか。どのツールで成果を計測しているか共有しておくと、広告アカウントを分析する際や最終的な成果を判断する際、認識のズレが防げます | |
レポート頻度、手段 | 毎週月曜16時から全体会議があるため、毎週月曜15時までに簡単な週次レポートをいただきたい。各媒体の数値と100文字以内の簡単なコメントがあると | レポート頻度・粒度・深度で対応困難な場合もあることと、レポートにリソースを全振りして肝心の運用改善がおろそかになると本末転倒なため、現実的に実行可能なラインをあらかじめ話し合っておきたいところ | |
打ち合わせ頻度、手段 | 月に1度、振り返りと今後の方針すり合わせのWeb会議を行いたい | 同上 | |
配信地域 | 日本全国 | 実店舗ビジネスや、あえて配信エリアを絞っている場合、配信したい都道府県とその理由を合わせて共有できると◎ | |
過去施策 | 過去、Twitter広告のフォロワーターゲをやってみたがCPAが1万円近くなり費用対効果が合わず撤退。配信は20万円分をテスト的に行った。やり切れていない実感はあるので、Twitter以外も含め、相性の良さそうな施策はチャレンジしていきたい | 車輪の再発明を避けるため、過去行って良かった施策、いまいちだった施策はできるだけ共有したいです。いまいちだった施策の原因と対策を考えることで、次の一手へのショートカットができることも多々 | |
広告アカウントの所在と閲覧権限 | 広告アカウントは貴社の代理店アカウントで実施。閲覧権限をいただきたい | 相談側の広告アカウントでは実施できない、閲覧権限付与ができないなど、思わぬ縛りが生じることもあるため、希望に沿った内容でオーダーできるか確認しておきましょう | |
会社独自の方針 | ブランド名としている通販サイト名〇〇では出稿しない方針をとってきたが、その是非含め相談したい | ブランド名出稿の是非、リピーターと新規顧客でKPIを分けている、あえて獲得に力を入れていない領域の話など、ズレのないオーダーメイドな提案を引き出すためにとても重要な要素です。外からも見えづらい部分ですし、是非じっくり時間を取って協議したいですね |
同じものを以下のスプレッドシートに用意していますので、必要に応じてファイルをコピーしてご利用ください。
https://docs.google.com/spreadsheets/d/1SskBadQ0NLwMq9OGBcIgs36S1hsRz-iXXTygmlHLU6I/edit?usp=sharing
以上をメモってミーティングに臨めれば、口頭だけの手ぶらよりも、格段に円滑なコミュニケーションができるはずです。
最後に
与件メモを相手に事前に共有してもいいですが、ちょっとズルい使い方として、相手が漏れなくヒアリングしてくれるか、与件メモに書いてなかった課題まで聞いてくれるかの答え合わせに使うのもアリだと思います。
とはいえ、与件メモは万能ではありません。初めて広告を出稿する場合、どれぐらいのKPIが適切なのか良く分からないこともあります。与件メモに書かれてない、気づいていないことにこそインパクトのある伸びしろが埋もれているものです。
そのため、与件メモはあくまで滑り出しをスムーズにするジャンプ台に過ぎない、ということは意識しておきたいところです。与件メモを食材に例えると、この食材をどう料理するのか、スパイスを足すのか、そもそも食材はこれで全部か、この料理は美味しいと思ってもらえるかなど、相談する側とされる側で協議しながら、埋もれた課題の発見をしていけるといいですね。
コロナ禍でWebミーティングでの相談も増えています。ZoomやGoogleハングアウトでのWebミーティングは確かに便利ですが、画面越しでのコミュニケーションは、ともすれば三次元で表情や雰囲気が伝わりやすい対面コミュニケーションより伝達不十分になることもあります。
こんな時代だからこそ、与件メモ。ぜひ作ってみてください。
本記事が最良のビジネスパートナーを見つける一助となれば、これに勝る幸せはありません。