海外市場から見る、リテールメディアの「今」と「これから」

海外市場から見る、リテールメディアの「今」と「これから」
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最近、「リテールメディア」という言葉を耳にする機会が増えているのではないでしょうか。簡単に言えばAmazonやWalmartなどの小売業者のページやアプリに掲載される広告のことを指していますが、特に英語圏では話題を集めているテーマの一つです。今のところ、日本では海外ほど注目されていないものの、世界規模で起きている現象なので、早めに目を向ける価値があるのは間違いありません。

2022年1月21日、デジタル広告の市場調査会社のeMarketerがGoogleと共同でウェビナーを開催し、リテールメディアの現状とこれからの課題について、データとともに非常に丁寧に解説をしてくれていました。

リテールメディアについての日本語リソースがまだ少ない中、今回は考察を交えながら中心となるポイントをまとめていきます。

参考:Retail Media 2022: What's Next for Digital Advertising's Third Big Wave? | Meet the Analyst Webinar | January 21, 2022 - Insider Intelligence Trends, Forecasts & Statistics



デジタルマーケティングの第3の波が到来?

デジタル広告の歴史を振り返ると、ある種の「波」が見えてきます。2000年代の始めはGoogle Ads(旧Google AdWords)の登場により検索がデジタルマーケティングを強く牽引していましたが、2010年代に入るとFacebookやTwitterなどを筆頭にソーシャルメディアが脚光を浴びるようになりました。

そして、2020年代の今、第3の大きな波として「リテールメディア」が台頭している、とeMarketer社の主席アナリストであるアンドリュー・リップスマン氏は主張しています。

※引用元:Retail Media 2022: What’s Next for Digital Advertising’s Third Big Wave?

リテールメディアが注目される要因は、主に下記の5つにまとめられます:

  • ファーストパーティデータ
  • マーケティングファネルの各段階のアトリビューション
  • コンテクストへの関連性が高い広告
  • スケール可能なオーディエンス
  • マーケティングファネル全体を網羅したキャンペーン

加えて、特に興味深かったのは「テレビ離れ」、「サードパーティCookieのサポート終了」、「実店舗のデジタル化」という3つの要素が現在のリテールメディアの台頭と関連づけている点です。時代背景に自然にフィットしているメディアがリテールメディアである、と言えると思います。

※引用元:Retail Media 2022: What’s Next for Digital Advertising’s Third Big Wave?

すでに多様なエコシステムを形成

リテールメディアネットワーク(RMN)というと、Amazonのような大企業をイメージする人が多いかもしれませんが、それに留まりません。米国の市場のメジャーなRMNを見ますと近年では規模、アプローチ、専門性などが多彩なサービスが参入していることが分かります。eMarketerの分析では、トラフィック量とサードパーティマーケットプレイスとしてのダイナミクスの特徴を軸に、下記のように分類しています。

※引用元:Retail Media 2022: What’s Next for Digital Advertising’s Third Big Wave?

補足しますと、Walmart ConnectとDSPのThe Trade Deskの連携のような戦略的パートナーシップや、CriteoによるMabayaの買収や、MicrosoftがXandr(旧AppNexus)を買収したことも、同じ文脈の中で起きている出来事として、今後のリテールメディア分野の重要性を物語っているように思います。

参考:Walmart Connect Launches Its New Demand-Side Platform, Walmart DSP, To Expand Its Off-Site Media Offerings at Scale

参考:Criteo Acquires Mabaya, Expanding its Retail Media Solutions for Online Marketplaces | Criteo

※日本語リソースだと、こちらの記事でまとめられています:リテールメディアはECサイトの次の収益源になりうるのか? 〜CriteoのMabaya買収から考える | REWIRED 

参考:Microsoft to acquire Xandr to accelerate delivery of digital advertising and retail media solutions - Microsoft Advertising

広告予算の大きな変動

今後もリテールメディアへの投資が進む指標として、eMarketerが挙げているデータの中で特に以下の2つが示唆的です。

まずは、伸びているセグメントとの相性です。米国でデジタル広告の予算を増やしている業界を見てみると、特にCPG(消費者向けパッケージ製品)と小売が伸びていることが分かりますが、どちらもリテールメディアとの親和性が非常に高いセグメントです。

※引用元:Retail Media 2022: What’s Next for Digital Advertising’s Third Big Wave?

もう一つは、投資意欲の上昇です。興味深いことに多くのノンエンデミックブランド(プラットフォーム上で直接商品を提供していないが、ユーザーに潜在的な顧客としての価値を見出しているブランド)が、リテールメディアへの投資を増やしているようです。2020年にこのテーマに積極的に取り組んでいないブランドが19%だったのに対し、2021年にはその割合が4%にまで減少しています。eMarketer社は、この意識の変化の決定的な要因として、ファーストパーティデータへのアクセスを挙げています。

※引用元:Retail Media 2022: What’s Next for Digital Advertising’s Third Big Wave?

新たな課題と可能性

最後に、アンドリュー・リップスマン氏は、広告主や小売業者がリテールメディア分野で直面する主要な課題と、それを克服するためのヒントについて述べていました。

1. チャネルシフトに注目

小売店の予算はますますデジタル広告に流れていく中で、リテールメディアの強化によって効率化と売上の純増へ貢献しているかどうか注意する必要があります。また、オムニチャネルのアトリビューションも今後重要な課題となるでしょう。

2. 複数RMNの管理の負担について

ポートフォリオの中にどんどんリテールメディアが増えていくと、それだけ運用に負担がかかり、注意が必要です。現時点では、リテールメディアの導入社数は2~3つがある種のスイートスポットになっているようです。RMNの統合や一元管理に関して自動化にも今後期待できます。

3. 導入は積極的な反面、解約率が高い

現在、複数プラットフォームをテストする姿勢が見られますが、長続きしないケースは決して珍しくありません。前述の項目も含めて、下記のDigidayの記事で示されているように、広告主が結局リテールメディアの大手企業に行き着く傾向に関連する可能性も高いです。

参考:Digital media budgets prioritize Walmart, Amazon

4. 運用の利便性を向上

メディアバイイングに最適なUI作りは普段、リテール企業のコアコンピタンスではないためか、利便性に改善の余地がありそうです。今後セルフサービス化が進めば、広告主にとってこの問題を解決する可能性があります。

5. ユーザー体験にも注意

プラットフォーム上の広告の密度は、今後ますます高まっていくことが予想されます。Amazonでは現在、検索結果の最初のページに約9本のスポンサープロダクト広告を掲載しています。ここで注意しなければならないのは、多くの広告を表示することでユーザーエクスペリエンスを低下させないことです。

まとめ

eMarketerのウェビナーでは主に米国の市場状況に焦点が当てられており、日本のリテールメディアの状況は細部ではまだ異なっているかもしれませんが、一つだけはっきりしてのは、リテールメディアが成長を遂げている基本的な条件は、世界的な現象です。

コロナ禍によるユーザーの購買行動の持続的変化や、差し迫ったサードパーティCookieの廃止などは、実質的にグローバルな規模の不可逆な出来事だからこそ、遅かれ早かれ日本においてもリテールメディアが今後のEコマース分野の広告手法に大きな影響を与えることが見込まれるので、今回のように海外の動きに注目を払う価値が高いと思います。

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