ショッパブルCTV広告の可能性とチャレンジ|インタラクティブなテレビ広告は、ネットショッピングの未来を変えるのか?

ショッパブルCTV広告の可能性とチャレンジ|インタラクティブなテレビ広告は、ネットショッピングの未来を変えるのか?

コネクテッドTV(以下:CTV)とリテールメディアは、近年のデジタルマーケティング分野において最も成長が著しい領域のひとつと言えます。そして、両者をつなぐ広告手法として注目を集めているのが「ショッパブルCTV広告」という、視聴者がその場で商品の購入へと進めるインタラクティブな広告です。

テレビの視聴体験にコマースの要素を加えるこのフォーマットは、ブランドコミュニケーションと購買決定の間における接点として確立される可能性があり、今後、小売業界の広告戦略の中で大きな影響を与えると推測できます。

では、このショッパブルCTV広告の可能性やチャレンジについて詳しくみていきましょう。


ショッパブルCTV広告とは?

ショッパブルCTV広告とは、視聴者がテレビ画面から直接商品を購入できるインタラクティブな広告のことを指します。広告には製品リンクやQRコードが含まれており、視聴者はスマートフォンまたはスマートテレビのリモコンを使って簡単に詳細情報を確認し、そのまま視聴体験を中断することなく購入を完了することが可能です。

たとえば、テレビでYouTubeを視聴しているときに、QRコードつきの広告を見たことがある方もいるのかもしれません。

こうして視聴中に受けたインスピレーションからリアルタイムで購入判断へとつながる、ダイレクトな接点がテレビ上に生まれるのが、ショッパブルCTV広告の大きな特徴と言えます。

CTVはフルファネル施策に

CTVは、従来のリニアテレビ(地上波・ケーブル)に取って代わる存在として急速に成長しています。米国ではすでに88%の世帯がインターネット対応のテレビ端末を保有しており、この技術の普及が進んでいることは明らかです。

参考:Connected TV Stats Every Advertiser Should Know | StackAdapt

このような背景から、CTV広告の重要性も年々高まっています。

画像引用元:One of largest sources of new video ad inventory and spending is CTV

デジタルマーケティングを専門としている市場調査会社のeMarketerの予測によれば、米国におけるCTV広告の売上は2025年までに333.5億米ドル(約5兆円)に達し、2028年には初めてリニアテレビの広告売上を上回る見通しです。

従来、CTV広告はどちらかといえばアッパーファネル(認知向け)施策と見なされてきました。これは主に、大画面でのドラマ、スポーツ、映画などといった高品質なコンテンツをいわゆる「リーンバック」(リラックスして視聴する)環境で配信されるためです。この文脈では、特にブランド認知の向上や初期接点の構築に適していると考えられます。

しかし、その状況が変わりつつあります。ショッパブルCTV広告の台頭により、CTV広告をパフォーマンス重視の施策として活用する新たな可能性を示唆しています。

つまり、認知だけでなく、コンバージョンまでを視野に入れたフルファネルでの活用が現実味を帯びてきているわけです。ここからは、この分野で起きている新しい動きについて詳しく見ていきましょう。

リテールメディアとのシナジー効果

CTVがパフォーマンス重視の広告チャネルとして成長する上で、重要なドライバーとなり得るのが、リテールメディアとの融合です。リテールメディアは、現在のデジタル広告市場でも特に注目されるセグメントのひとつだと言えます。

画像引用元:Albertsons integrates retail media with connected tv advertising

上述のeMarketerの予想値によれば、リテールメディア分野の広告費は継続的に増加しているだけでなく、CTVの広告在庫に占めるリテールメディアの割合も顕著に増えている模様です。(※2027年まで2割を超えると予測)

このトレンドは、ショッパブルCTV広告が今後、パフォーマンスを重視したマーケティング戦略の中でも重要な役割を担う可能性を示しています。

現在は主に欧米を中心としているものの、大手プラットフォームの最近の動きを見ると、この流れが進んでいることが明らかでしょう。

Amazonは昨年、Prime Video Ads向けに新たな直接的な購入が可能なフォーマットを導入しました。米国でのパイロットテストを経て好評を得ており、現在はイギリスでも展開が始まっています。反応が良ければ、グローバルでの展開も現実的でしょう。

参考:‘TV to till’: Amazon to bring new shoppable formats to UK in H2 - The Media Leader

また、スーパーマーケットの宅配サービスで知られるリテールメディアアプリのInstacartもショッパブルCTV広告の分野への投資を進めています。一例として、YouTubeとの提携により、CPG(消費財)ブランドがInstacartに直接リンクするショッパブルな動画広告を出稿できるようになりました。

参考:Instacart Makes YouTube Ads Shoppable for CPG Brands

加えて、スマートTVメーカーおよび動画配信サービスのRokuとの協業も発表されており、QRコードを活用したテレビ画面上での買い物機能を導入する発表がありました。

参考:Expanding our partnership with Instacart: Shoppable ads, advanced targeting and more | Roku Advertising

このような形で視聴体験を妨げることなく、商品購入への導線を提供する取り組みが進められています。

ショッパブルCTVはいつ一般化するのか?

ショッパブルCTV広告の成長を後押ししているのは、広告ネットワークとテック業界の動向だけではありません。視聴者自身の行動変化も重要な役割を果たしていると考えられます。

近年、テレビを視聴しながらスマートフォンを操作する人が増えており、チャットをしたり、情報を調べたり、気になった商品を検索したりするのが日常になっています。

CTVの視聴者の場合、71%がコンテンツを観ながら手にスマートフォンを持っているようです。

参考:Is Shoppable TV a Revolution or a Passing Trend?

この利用習慣により、インタラクティブなCTV広告との接点のハードルが下がる可能性は大いにあると考えられます。QRコードやリンクを使ったアクションは、すでに多くの人の生活に根付いており、ショッパブルCTV広告のようなフォーマットは親しみやすいのかもしれません。

同時に、最近の調査では、ショッパブルコンテンツへの関心自体は高いことが示されています。特にデジタルメディアと共に育った若年層にその傾向が顕著です。

画像引用元:Is shoppable CTV the next big opportunity for retail media?

eMarketerの調査によると、18〜34歳のグループの半数以上が過去1年以内にCTVやSNSなどに表示されているショッパブルコンテンツ経由で商品を購入したと述べています。

一方、50歳代以上のユーザーを見ると、8割以上がショッパブルコマースを利用していない結果を加味すると、こうしたフォーマットの「認知度」や「実際の利用機会」にジェネレーションギャップが未だにあることを示唆しています。

そのため、ショッパブルCTVが持続的に市場に定着するためには、技術の成熟や広告予算に加えて、ユーザーにとってその利便性を実感できるような教育的な体験の提供が不可欠でしょう。

ショッパブルCTV広告における成果測定の課題

ショッパブルCTV広告は、デジタルマーケティングにおいて新たな可能性を広げていると言えますが、同時に複雑な測定およびアトリビューションに関する課題があります。

ここで大きな障壁になっているのは「ショッパブルCTV広告」の構成要素とも言えるリテールメディアCTV広告の領域における広告在庫のフラグメンテーション(=断片化)です。

幅広いユーザーにリーチするために複数のプラットフォームを同時に利用することは決して珍しくない上に、プラットフォームごとに測定手法まで異なりますので、パフォーマンスデータの統一性を実現することは未だに困難なケースがあります。

ショッパブルCTV広告はQRコードのスキャンなどといった直接のインタラクションから貴重な顧客データを得られるものの、それらのデータを一貫して収集・評価するのが難しく、プラットフォームをまたいだ比較も容易ではありません。

その結果、ショッパブルCTV広告のポテンシャルを最大限に発揮するためには、より高い透明性、技術的な互換性、そして共通の評価指標が必要でしょう。

ビジョンと現実の狭間:ショッパブルCTVはデジタルコマースを変えるのか?

ショッパブルCTV広告は、デジタルコマースの次なる進化を垣間見せる存在として捉えられます。ブランドのメッセージと購買行動との間に直接的な橋を架けるフォーマットとして、長期的には「リーチ(認知の広がり)」と「パフォーマンス(成果)」の間にある従来のジレンマを解消する可能性を秘めています。

ショッパブルCTV広告は、「リーチはあるが成果が見えにくい」というテレビ広告特有の課題を乗り越える存在として、ブランドの認知と消費者の購買行動をダイレクトにつなぐ橋のように捉えられます。

Adexchangerの記事が示すように、実際、ストリーミングサービスにとっても、ユーザー数や視聴時間といった表層的な指標だけではなく、実際の売上につながる「測定可能な成果」が求められる時代になっています。

参考:Streaming Platforms Must Become Performance Channels To Stay On Wall Street’s Good Side | AdExchanger

そうした中で、ショッパブルCTV広告のようにアクションまで追える広告フォーマットの導入は、メディアの進化においても重要なステップだと言えるでしょう。

とはいえ、投資の増加や技術の進歩が進む一方で、ショッパブルCTV広告はまだ発展途上の若い市場であることも事実です。測定方法の確立と標準化などといった重要な点に関しては、今後の動向を注意深く見守る必要があります。

また、インタラクティブなテレビ広告のどのフォーマットが最終的に業界標準として定着するかはユーザーの受容性も大きくかかわるでしょう。QRコードやリモコンで操作する「従来」のショッパブルCTV広告が主流になるのか、あるいは、NetflixとGoogleが見せたように、Googleレンズのような技術で直接画面に映るものを購入する形に行きつくのか、まだ明らかではありません。

確かなのは、大型スクリーンにおける新たな購買体験の可能性は広がっており、今はまさに「実験をする時期」なのではないでしょうか?

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