EFO(エントリーフォーム最適化)でコンバージョン率(以降、CVR)の改善を狙うとき、「入力項目は少なく、導線は短く」がフォーム最適化の定石とされています。一項目でも減らす、一クリックでも省く。離脱を防ぐ原則として、多くの教科書や記事が同じことを伝えてきました。
これらの原則は、平均的な状況においては確かに機能します。しかし運用の現場で改善を回していると、定石どおりに進めたのに結果が出ないことがあります。「セキュリティ上の理由で項目を減らせない」といった制約に出会うこともあるでしょう。
今回ご紹介するのは、そうした制約のなかで「あえて入力項目を増やす」という逆張りに踏み切り、CVRを約3倍に伸ばした事例です。
目次
ベストプラクティスは「平均」に対する答えに過ぎない
フォーム項目が多いほど離脱しやすい、というのは古典的なEFOの原則です。国内外の研究や事例でも、項目数とコンバージョン率に負の相関があることはたびたび報告されてきました。
この相関自体を否定するつもりはありません。意識したいのは、ベストプラクティスはあくまで「他の条件が同じであれば」を前提にした、平均的な答えに過ぎないということです。
実際のサービスには、業界特有のセキュリティ要件、ユーザーの動機、競合との比較、認証フローの制約など、平均では捉えきれない固有の文脈があります。文脈を見ずに定石をそのまま当てはめると、本当のボトルネックを見落としかねません。
ケーススタディ:BtoB SaaSの新規アカウント登録フォーム
課題:メール認証を挟む長い導線で離脱が多発
事例は、あるBtoB SaaSの新規アカウント登録フォームです。
オリジナルの導線は、次のような流れでした。
- フォーム入力(基本情報)
- メール認証コードの送信
- ユーザーがメールを確認し、コードを入力
- パスワード設定、ユーザーID入力など詳細情報の入力
- サンクスページ到達
GA4で離脱地点を確認したところ、メール認証のステップで圧倒的に脱落していました。

ユーザーは別タブやメールアプリへ移動した瞬間に意識が途切れ、戻ってこない。ブラウザを切り替えるという物理的な動作が、想像以上に重い摩擦になっていたのです。
仮説:理想と制約のあいだで打ち手を考える
理想は「メール認証ステップ自体を廃止すること」でした。しかしクライアントのセキュリティ要件上、これは選択肢から外れます。
ここで思考を止めると「制約があるから仕方ない」で終わってしまいます。ベストプラクティスを字義通りに当てはめるなら、次の打ち手は「フォーム項目を減らす」になるはずです。しかしボトルネックは項目数ではなく、認証のために一度サイトを離れる行為そのものにありました。
そこで仮説を逆方向に立て直しました。
ユーザーがメール認証を乗り越える動機をどうつくれるか。
あえて先に多くの情報を入力してもらうことで、「ここまで入力したのだから最後までやり切りたい」という心理を発生させられないか。
行動経済学でいうコミットメント効果やサンクコスト的な心理を、意図的に導線に組み込む発想です。
施策:パスワード設定をメール送信「前」に前倒し
具体的には、次のように構成を変更しました。
- 変更前:基本情報入力 → メール送信 → 認証 → パスワード設定 → 詳細情報入力 → サンクスページ
- 変更後:基本情報+パスワード+詳細情報をまとめて入力 → メール送信 → 認証 → サンクスページ
ユーザーID入力など一部の手順は、登録時にリアルタイムで重複チェックができる仕様だったため不要と判断し削除しました。

ただし全体としては、ユーザーがメール送信前に行う入力量は増えています。フォームの「重さ」だけを見れば、ベストプラクティスとは逆方向の変更です。
結果:CVRが約3倍、CPAは約3分の2
施策の結果は次のとおりでした。数値はいずれも丸めています。
| 指標 | 改善前 | 改善後 | 変化 |
|---|---|---|---|
| CPA | 約3万円 | 約2万円 | 約3分の2 |
| CVR | 1%弱 | 2%弱 | 約3倍 |
| フォーム→認証コード入力 | 2割強 | 3割弱 | やや改善 |
| フォーム→サンクスページ | 約1割 | 約3割 | 約2倍 |
入力項目を増やしたにもかかわらず、フォーム通過率もサンクスページ到達率も大きく改善しました。
なぜ機能したのか
結果の背景には、少なくとも3つの要因があると考えています。
1. 入力項目の多さがユーザーの意思を固めた
入力項目が増えたぶん、フォーム送信まで進むユーザーは減りました。しかし入力を重ねる過程で「自分はアカウントを作ろうとしている」という意識が固まりやすくなり、メール認証を完了する人の割合(CVR)が上がりました。フォーム送信数は減ってもコンバージョン数は増えたため、結果的にCPAも下がっています。
2. コミットメント効果が認証を乗り越える動機になった
パスワードを設定し、詳細情報を入力し終えたユーザーにとって、メール認証は「最後の一押し」になります。「ここまでやったのに、ここでやめるのはもったいない」という感情が、ブラウザを切り替える摩擦を上回るようになりました。
3. 導線自体はむしろシンプルになった
「項目を増やした」と書くと複雑化したように聞こえますが、ユーザー目線では「入力 → 認証 → 完了」の3ステップに集約されています。確認すべきステップが減ったぶん、迷いも減ったと考えられます。
学び:ベストプラクティスは出発点であって、ゴールではない
この事例から得た学びは、大きく2つあります。
ひとつは、ベストプラクティスは「平均的な状況に対する答え」であって、目の前のユーザーや制約に対する答えではないということです。「フォーム項目は少なく」「導線は短く」は手段であり、本当の目的は「ユーザーが完了するまで進める導線をつくる」ことにあります。手段と目的を取り違えると、目的から遠ざかる打ち手を選んでしまいかねません。
もうひとつは、制約は思考の出発点になり得るということです。「セキュリティ上の理由で変えられない」と言われたとき、そこで止まらず「別の角度から同じ効果を狙えないか」と問い直すことで、見えなかった選択肢が出てきます。
こうした逆張りの仮説を立てるには、GA4などのデータでボトルネックを正確に特定しておくことが欠かせません。どこで、なぜ離脱しているかを数字で押さえているからこそ、定石を疑う根拠を持てるのです。
明日から取り組むなら:3つのアクション
事例を踏まえて、フォーム改善に取り組む際の具体的なアクションを3つ挙げます。
1. GA4で離脱地点を特定する:CVR改善は「平均的な処方」ではなく「自社のボトルネック」から始めます。フォームの各ステップで離脱率を可視化し、最も歩留まりが悪い箇所を1つに絞り込みます
2. 離脱の原因が「項目数」か「導線」かを切り分ける:項目数を減らしても改善しない場合、認証や外部リダイレクトなど別の摩擦が効いている可能性があります。仮説を立て、A/Bテストで検証します
3. ベストプラクティスの逆方向にも仮説を置く:「短くする」「減らす」だけが解とは限りません。ユーザーがやり切る動機をどうつくるかという視点で、入れる順序や情報量を再設計します
おわりに
ベストプラクティスを疑う、というと過激な姿勢に聞こえるかもしれません。実際にやっていることは、「自分たちの文脈ではどうか」「本当にここが効くのか」を立ち止まって検証する、地味な営みです。
定石を知ったうえで、目の前の状況に合わせて使い分ける。必要であれば外す。広告主にとって本当に意味のある結果は、ベストプラクティスへの忠実さではなく、ユーザーの行動と感情を観察した先にあるはずです。



