非エンジニア向けの「BigQuery」入門|マーケ分析と業務効率化の第一歩

非エンジニア向けの「BigQuery」入門|マーケ分析と業務効率化の第一歩

「関数だらけのスプレッドシートが重すぎて開けない...」
「CRMとGA4のデータを組み合わせて分析したいけど、手動では限界...」

データ分析を行っているとこうした課題に直面することがあるかもしれません。

そんな課題を解決してくれるのが「BigQuery」です。

BigQueryとは、Googleが提供するクラウド型データウェアハウス。データを高速で処理・分析できるサービスです。

しかしBigQueryを調べると、専門的な用語も多くさまざまな疑問が出てきます。

「社内にエンジニアがいなくても扱えるのか?」
「お金はいくらかかるのか?」
「どんなスキルが必要なのか?」

実はわたし自身、つい半年前までは「BigQuery?なんだか難しそう...」と思って敬遠していた一人でした。SQLも全く分からない状態からのスタートでしたが、今では基本的な分析レポートを作成できるようになっています。

本記事では、BigQueryとは何なのか、どんなことができるのかから必要なスキルまで分かりやすく解説します。


BigQueryとは

BigQuery(ビッグクエリ)は、Googleが提供するクラウド型のデータウェアハウスサービスです。簡単に言うと「大量のデータを高速で分析できるクラウド上の倉庫」といったイメージです。

大量のデータを分析するには高性能なサーバーや専用のソフトウェアが必要ですが、BigQueryを使えばブラウザ上でSQL(データベースに対する命令※後述)を書くだけで、数秒から数分で結果を得ることができます。

参考:BigQuery の概要

なぜBigQueryが必要なのか?

その答えは、多くの企業が抱える「データの散在」という課題にあります。

例えば、あなたの会社にはこんなデータが散らばっていませんか?

  • Webサイトのアクセスログ(GA4)
  • Google広告やYahoo!広告データ
  • FacebookやInstagram広告のデータ
  • 顧客管理システム(CRM)のデータ

これらのデータはそれぞれが貴重な情報源ですが、保管場所がバラバラなため、横断的に分析して全体像を把握するのは非常に困難です。

この「データの散在」問題を解決するのが、データウェアハウス(DWH)という概念です。

データウェアハウスとは、直訳すると「データの倉庫」です。様々なシステムから収集したデータを一箇所に集約し、分析しやすい形で保存・管理する仕組みのことを指します。

このデータウェアハウスの仕組みを、だれでも手軽に使えるようにしたクラウドサービスがBigQueryです。

Excelやスプレットシートとの違い

「データを貯めて分析するなら、Excelやスプレッドシートでもできるのでは?」そう思いませんでしたか? まさにその通りです。ただ、扱えるデータの「量」と「速さ」が、桁違いに異なります。

わたしも以前は「スプレッドシートで十分だろう」と思っていました。実際、今でもスプレッドシートは毎日使っていますし、重要なツールです。ただ、BigQueryを併用してみると、明確に役割が違うことが分かりました。

ツール比較した時のそれぞれの強み
Excel / スプレッドシート資料作成、グラフ化、共有が簡単、誰でも扱える
BigQuery大量データの処理、複雑な集計、データの蓄積

例えば、数年分の全媒体データを集計する場合、スプレッドシートでは処理が重くなりがちです。BigQueryであれば数秒で処理でき、その結果をスプレッドシートに出力して資料作成に活用できます。

「スプレッドシートかBigQueryか」ではなく「スプレッドシート + BigQuery」という考え方がおすすめです。今後データが増えたり、より詳細な分析が求められるようになった時の解決策として有効です。

マーケターにおすすめBigQuery活用例3選

では、BigQueryを使うと具体的にどんな良いことがあるのでしょうか。マーケターにとって特にインパクトの大きい、代表的な活用例を3つご紹介します。

広告パフォーマンスなどの全チャネル統合レポート

Google広告、Yahoo!広告、Meta広告など、各媒体の管理画面でバラバラに見ていたデータをBigQueryに集約。全ての広告費用と、GA4から取得したサイト上での成果(CV)や売上を紐づけて、媒体を横断した正しい広告費用対効果を算出できます。

これはスプレッドシートでも可能ですが、BigQueryなら数百万行を超える長い年月のデータでも高速に処理でき、日次での自動更新も簡単に設定できる点で効果的です

CRM データと連携して LTV (顧客生涯価値)の算出

自社の顧客データ(CRM)と、GA4やWEB広告のデータをBigQuery上で結合することで「LTVの高い顧客は、初回訪問時にどの参照元経由で来ていたのか?」といった分析が可能になり、より収益に繋がる広告戦略のインサイトが得られます。

例えば、「高LTV顧客の多くは、実はセール訴求ではなく、商品を丁寧に紹介した動画広告から流入し、その後CVしていた」といったインサイトが得られれば、予算配分を大きく変える判断材料になりますよね。

GA4と連携した深いデータ分析

GA4を使っているなら、BigQuery連携は「やらない理由がない」と言えるほど強力です。

メリットは大きく2点です。

1.しきい値・サンプリングからの解放

GA4では、個人情報を保護する「しきい値」データ集計を早める「サンプリング」の2つの仕様があるために正確な数値分析が出来ないケースがあります。

しかし、BigQueryと接続することで唯一GA4の生データを扱うことができ、より詳細な分析が可能になります。

2.データ保持期間が実質"無制限"に

またGA4は通常、2か月 or 14か月のデータしか保存できませんが、BigQueryに連携することで過去データを半永久的に補完ができます。前年比だけでなく数年分の長期的な分析も可能になります。

注意点としてBigQueryと接続した日からデータが蓄積されます。過去に遡ってデータを取得することはできないので、まずは連携設定だけでも済ませておくことを強くおすすめします。

次はBigQueryの導入時に気になるポイントをご紹介します。

BigQueryの料金・連携ツール・セキュリティ

「色々できそうなのは分かったけど、専門知識が必要そう…」「料金やセキュリティが心配…」と感じるかもしれません。しかし、ご安心ください。BigQueryは、技術的なハードルやコスト、セキュリティの心配を抑えた仕様になっています。

サーバー管理が不要

従来のデータベースシステムでは「そもそもサーバーについて知識がない」「サーバーの容量が足りない」「エンジニアのリソースがない」といった課題に悩まされることがありました。BigQueryは完全にGoogleが管理するクラウドサービスなので、こうした心配は基本不要です。

従量課金制で少額から始められる

データの規模によって3つプランはありますが、基本従量課金制のサービスです。つまり、使った分だけ支払う仕組みで、初期費用や月額固定費はかかりません。

料金が発生するのは大きく2つ「データを保存するための料金」と「SQLを実行するための料金」です。

1. ストレージ料金(データの保存)

アクティブストレージ:$0.023/GB/月(約3円/GB/月)
長期保存:$0.016/GB/月(90日間更新されていないデータ)
最初の10GBは無料

2. コンピューティング料金(SQLの実行)

オンデマンド料金:$7.5/TB(約750円/TB)
毎月1TBまで無料
クエリ結果は24時間キャッシュ(同じクエリは無料)

少額でテストしてみる分にはストレージもクエリも無料分で足りる量ですので、まずは触って慣れてみる事をおすすめします。

最新の正確な料金については必ずGoogle Cloud公式の料金ページをご確認ください。

参考:BigQuery の料金

連携ツールが豊富

GoogleアナリティクスやGoogleスプレッドシートなどGoogleが提供する各種プロダクトとの親和性が高いのはもちろん。様々なデータソースや外部ツールと連携して、大量のデータを格納・整理できます。

下記は連携可能なツールの一部です。

データの取り込み
(様々なデータをBigQueryに集める)
・Amazon S3
・Amazon Redshift
・Azure Blob Storage
・キャンペーン マネージャー
・Cloud Storage
・ショッピング比較サービス(CSS)センター
・ディスプレイ&ビデオ 360
・Facebook 広告
・Google アド マネージャー
・Google 広告
・Google アナリティクス 4
・Google Merchant Center
・Google Play
・MySQL
・Oracle
・PostgreSQL
・Salesforce
・Salesforce Marketing Cloud
・検索広告 360
・ServiceNow
・Teradata
・YouTube チャンネル
外部データソース
(データを移動させず参照して分析する)
・Google ドライブ
・Cloud SQL
・Cloud Storage
・Spanner
・Salesforce Data Cloud
・AlloyDB
データの可視化
(グラフなどで分かりやすく見せる)
・スプレッドシート
・Looker Studio
・Tableau
・Power BI

参考:BigQuery Data Transfer Service を有効にする

エンタープライズレベルのセキュリティ

企業の売上や顧客情報など、大切なデータを預ける上でセキュリティは最重要です。BigQueryは、Googleの持つ世界最高水準のセキュリティで保護されているため、安心して利用できます。

1. 自動でデータを暗号化

保存されているデータも、送受信中のデータも自動で暗号化され、第三者による盗み見を防ぎます。

2.国際基準の認証

金融機関や医療機関でも採用される、ISO27001などの厳しい国際セキュリティ認証を取得済みです。

3.詳細な権限管理

「Aさんには広告データだけ」「B部長には全ての売上データ」のように、誰がどのデータを見られるかを細かく設定できます。

参考:BigQuery のセキュリティとアクセス制御の概要 - Google Cloud

上記のようにBigQueryは非エンジニアの方でも始めやすい仕様や料金やセキュリティ体制などの条件が整っています。

次はBigQuery導入時の注意点や必要なスキルを解説します。

導入時の注意点と必要なスキル

BigQueryについて調べると「SQL必須」「データベース設計が重要」といった情報が出てきて、ハードルが高く感じられるかもしれません。

これは当然の反応です。 なぜなら、SQLやデータベースは、これまでWEB広告運用者が日常的に触れてこなかった分野だからです。しかし、スプレットシートの関数のように簡単な指示から覚えていく事で身につくスキルだと考えています。実際にどんなスキルが必要なのかを解説します。

1.SQLを覚える必要がある

SQLとは、データベースに対して「こんなデータを取ってきて」と指示するための言語です。例えば、図書館の司書さんに「去年出版された料理本を全部見せて」とお願いするようなもの。BigQueryという巨大な図書館から、必要な本(データ)を取り出すための共通言語がSQLです。

「具体的にSQLって何を書くの?」と思いませんか。 実際のSQLは、意外と日本語に近い表現です

例:2024/1/1日の広告データを取得したい場合

①集計前の元データ(名前:広告データテーブル)

②SQLを作成

SELECT 日付, 媒体名, クリック数, 費用, コンバージョン
FROM 広告データテーブル  
WHERE 日付 = '2024-01-01'
ORDER BY クリック数 DESC

このSLQの指示は「広告データテーブルから、媒体名・クリック数・費用、コンバージョンを選んで、2024年1月1日のデータで、クリック数の多い順に並べて表示して」という意味になります。

実行するとこんな形で指示を出して結果が返ってくる流れになります。

③SQLの出力結果

わたしも最初は「SELECT って何?」というレベルでしたが、テンプレートやChatGPT、Geminiなどを活用しつつ基本的な分析に必要なSQLは書けるようになりました。

2.データベース設計が重要

効率的な分析のためには、適切なテーブル設計が必要です。例えば、CRMと接続するだけではデータは整っていないので集計しやすいように変換など調整をしてあげる必要があります。

例えば、下図のように「営業部」と「経理部」で管理しているデータの形式が異なっているケースです。営業部のリストでは会社名が「(株)サンプル商事」となっている一方、経理部のリストでは「株式会社 サンプル商事」となっています。

このままでは集計時、2つを別の会社だと判断してしまい、「サンプル商事」の正しい売上を合計することができません。

そこで、図右のように、会社名の表記を「株式会社」に統一し、バラバラだった「担当者」と「売上」のデータを1つのテーブルに統合します。

このように、分析の目的に合わせてデータを使いやすくする作業が「データベース設計」です。この手間をかけることで活用できる分析基盤を得られるようになります。

3.大量データでは費用に注意

BigQueryは、基本料金0円で始められる従量課金制のサービスです。水道や電気と同じで、使わなければ料金は発生しませんし、少し使うだけなら無料枠で十分に収まります。

ただし、非常に大量のデータを、非常に頻繁に分析するようになると、費用には注意が必要です。イメージとしては、「巨大な倉庫(数TBのデータ)の隅から隅まで、毎日何度も探し物(分析)をする」ような使い方をすると、費用が月額数万円になる可能性があります。

もし将来的に扱うデータが増えても、以下のような使い方で費用はコントロールできます。

例えば

  • 全てを参照するのではなく分析範囲を絞る
  • 一度分析した結果はキャッシュを再利用する
  • BigQueryで利用料金の制限を設定 など

データ量が少ないうちは気にする必要はありませんが、扱うデータ量が増えてきたタイミングでは非常に重要です。しっかり調べるほか、可能であれば最初は専門家にアドバイスを受けることをおすすめします。

BigQueryの事例

Google公式でも事例を出しています。どんなふうに活用されているか簡単に紹介します。

【小売】イオンリテール:年間数億人の購買データを瞬時に分析

課題: 1つの分析に30〜40秒もかかってしまい、複数の施策の分析に時間がかかり過ぎていました。

成果: BigQueryに移行した後はわずか5秒程度で終わるようになり、分析スピードが約8倍に向上。700万人を越えたアプリ会員の購買データも、20〜30のワークフローを毎晩回しているのですが、全てを合わせても1時間半くらいで終わるように。

【アパレル】アダストリア:データ準備の時間を75%削減

課題: ECサイトや店舗など複数チャネルのデータを分析可能な形に整える作業に、多くの時間がかかっていました。

成果: データ分析の準備作業を1ヶ月から1週間に短縮。BigQueryだけでデータレイクを実現できるので、扱いやすく、構成もシンプルになり、本来の分析業務に集中できるように。

【グルメサイト】ぐるなび:データ基盤を刷新し、サービスを進化

課題: お店情報、ユーザー行動、営業データなど社内のデータが点在し、素早い活用ができていませんでした。

成果: BigQueryを中心にデータ収集からデータの可視化や活用まで Google Cloud でデータ分析基盤を刷新。一人ひとりに合った店舗レコメンドの精度向上や、加盟店への的確な経営サポートを実現。

ご紹介した企業は、BigQueryを「単なるデータベース」ではなく「ビジネスを加速させる武器」として活用し優位性を獲得しています。自社のどんな課題を解決できるかを考えるとより有意義な取り組みになると考えます。

BigQueryは怖くない。マーケ分析の次の一手に

今回は、BigQueryとは何か?という基本から、具体的な活用例、料金、必要なスキルまでを解説しました。

BigQueryは決して「大企業のための難しいツール」ではなく、私たちマーケターが日々の業務でも使える強力なツールです。全社的なデータ基盤の構築といった話だけはなく、まずは目の前の分析課題を解決する、そんなミニマムな用途からでも、その価値は十分に発揮されます

SQLなど必要なスキルはありますが、ChatGPTやGeminiなどAIも活用していくことで、学びやすくなっているのでは?と感じています。難しそうだと敬遠せずに、まずはGA4と連携して、無料枠で触ってみるところから始めてみてください。

その小さな一歩が、あなたのマーケティング分析を次のステージへと引き上げてくれるはずです。

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