
Microsoft広告を運用している方なら、「入札戦略や広告文を変更してみたけれど、結局どの施策が効果的だったのか確信が持てない」と感じた経験があるのではないでしょうか。
特に、広告運用における施策検証は、配信条件がわずかに異なるだけでも結果に大きな影響を与えるため、“なんとなくの比較”では正しい判断ができません。
そのような中で、成果改善を目指す広告担当者にとって頼れる機能が、「Microsoft広告のABテスト機能」です。
テスト機能を活用することで、テスト項目以外の配信条件を揃えた状態で広告を配信し、成果の違いを正確に検証できます。
本記事では、Microsoft広告を日々活用している方向けに、ABテスト機能の基本的な使い方から、検証の設計、結果の読み取り方までをご紹介します。


目次
Microsoft広告のABテスト機能とは?
Microsoft広告のABテスト機能とは、検索キャンペーンにおいて特定の設定要素を変更したテストパターンを用意し、その他の条件を統一した上で効果を比較できる機能です。
広告文やランディングページの違いはもちろん、入札戦略やオーディエンス設定、プレースメント(掲載面)の違いまで、様々な要素をピンポイントでテストできます。
間違いやすいポイント:表示回数ではなく配信の「機会」を揃える機能
ABテスト機能を使うと、「広告の表示回数(インプレッション数)が自動的に半分ずつになる」と思われがちですが、実はそこに少し誤解があります。
ABテスト機能が制御しているのは、「配信の機会(チャンス)」の比率です。
たとえば、「A案とB案を50:50で配信する」と設定した場合、Microsoft広告は検索が発生するたびに、どちらの広告を表示するかをオークションにより決定します。オークションでは次のようなさまざまな要素が加味されます。
- 広告の品質
- 入札価格
- 推定クリック率
- キーワードとの関連性
など
そのため、オークションの結果により広告配信がされないケースも出てくるため、テストの比率を50:50で設定したとしても、表示回数は必ずしも均等にはなりません。
ABテスト機能を使用するメリット
従来の施策検証では、キャンペーンや広告グループを複製し、それぞれに異なる設定を加えることで比較を行うケースが一般的でした。また、広告文のABテストとして複数クリエイティブを並走させたり、期間を分けて効果を比較したりする運用も多く見られます。
しかし、こうした方法では配信量やユーザー層に差異が生じやすく、得られた結果が本当にテスト項目の違いに起因するものかを正確に判断するのは困難です。
Microsoft広告のABテスト機能を活用することで、こうした課題を解消し、より信頼性の高い検証を実現することが可能になります。主なメリットは以下のとおりです。
①条件を揃えて正確に比較できる
ABテスト機能では、テスト項目以外の条件を揃えるようコントロールができるため、成果差の要因がテスト項目に起因しているかを明確に判断できます。
これにより、成果の差異がテスト対象に起因しているかどうかを明確に把握でき、施策の精度を高める判断材料となります。
②テスト対象の配信比率をコントロールできる
テスト対象の配信比率を、全体の10%や30%といった単位で調整可能なため、新しい施策や未検証の設定に対しても段階的に導入することが可能です。
特に、成果の読みづらい場合でも、リスクを抑えながらのチャレンジができます。
③テスト後の対応もスムーズに行える
ABテスト機能を使わない場合、変更後の成果がよくなかった場合には、元の状態に戻すために再度設定が必要です。
一方、 ABテスト機能を活用した検証では、テストを停止するだけですぐに元の配信に切り替えられるため、柔軟な運用が可能です。
また、テストの結果が良好であった場合には、その設定をワンクリックで本番配信に反映することも可能です。成功・失敗にかかわらず、学びを次の改善につなげやすい環境が整います。
④データに基づき、根拠ある意識決定ができる
ABテスト機能では、実際の配信データに基づいた施策評価が可能になります。勘や経験といった属人的な判断ではなく、主要指標の比較や統計的な有意差を管理画面上で確認できるため、再現性の高い意思決定が実現します。特に、最適な入札戦略や広告文を選定する際に、データドリブンな根拠があることで社内合意形成やレポート作成にも役立つでしょう。
⑤管理画面上で簡単に成果の比較ができる
ABテストの設定から進捗管理、結果分析に至るまで、すべてをMicrosoft広告の管理画面上で完結させることができます。テスト結果の差分は視覚的にわかりやすく表示されるため、データ分析に不慣れな方でも判断しやすく、社内共有にも適しています。
日常の運用フローに負担をかけずに、確実な改善施策の実行が可能です。
Microsoft広告でテストできる項目
Microsoft広告では、ABテスト機能を使ってさまざまな施策を比較・検証することができます。なかでも、特に活用される主なテスト項目は以下の5つです。
①入札戦略
②オーディエンス
③遷移先や広告文
④広告表示オプション
⑤広告を表示する場所
これらの項目は、いずれも広告パフォーマンスに直結する重要な設定要素です。この5項目について「どのような検証が可能か」「どんなシーンで活用すべきか」を、詳しく解説していきます。
①入札戦略
入札戦略の選定は、コンバージョン単価や獲得件数に大きな変動を与える重要な要素です。 しかし、いきなり入札戦略を切り替えると、配信量の減少や機械学習の阻害要因といったリスクも伴うため慎重にならざるを得ません。
ABテスト機能を利用すれば、次のようなケースでリスクを抑えながら入札戦略の変更によるパフォーマンスのテストを行えます。
- 手動入札から自動入札への切り替え
- コンバージョン数の最大化から目標コンバージョン単価への切り替え
「自動入札に切り替えたいが失敗が怖くて踏み出せない」、「どの戦略が合っているのか見極めたい」といったケースにおすすめです。
②オーディエンス
※オーディエンス:年齢、性別、興味関心、行動履歴などのユーザーデータ・行動データに基づいて、特定のユーザーグループを抽出し、そのグループに対して広告を配信する機能
オーディエンスの選定は成果を左右する最重要項目の一つですが、「今の設定が最適かどうか」は判断しづらいものです。しかし、単にキャンペーンや広告グループを分けてテストを行うと、配信対象となるユーザーが重複したり、配信結果のデータも分散してしまい、広告のパフォーマンスも把握しづらくなる可能性があります。そこで活用したいのが、オーディエンスターゲティングのABテストです。
これにより、異なるオーディエンスの効果を比較し、効果的なターゲットを明確にできます。
例えば、以下のようなテストが可能です。
- リマーケティング vs. 新規ユーザー
- 購買意欲の高い層 vs. 潜在層
- 新しい属性へのターゲティング効果検証
配信データに基づき、より成果の出やすいオーディエンスを見つけていきましょう。
③遷移先ページや広告文
遷移先(ランディングページ)や広告文の変更は改善施策の基本ですが、レスポンシブ検索広告を追加して検証する場合、配信の最適化や表示される広告テキストの組み合わせによる影響で正確な比較が難しくなりがちです。
ABテスト機能の活用すると、配信量をそろえて均等に配信をすることができ、正確な検証をすることが可能です。
- ランディングページのファーストビュー変更によるCVR差
- 既存見出し vs. 訴求を変えた見出しによるCTR・CPCの比較
条件を揃えて検証することで、より正確な成果判断を行い、最適な遷移先や広告文を見つけていきましょう。
④広告表示オプション
広告表示オプションは、つい後回しにされがちですが、ユーザーに広告本文にプラスして表示され、内容次第で成果改善につながる大切な要素です。
内容の変更や新たに追加した際の変化を比較することができます。
各広告表示オプションの詳細については、以下の記事をご参照ください。
⑤広告を表示する場所
Microsoft広告では、BingやMicrosoft EdgeなどのMicrosoft社が保有しているサービス面に加えて、さまざまなパートナーサイトにも広告配信が可能です。
配信するサービスによってリーチできるユーザー層は異なり、CPCやCVRも変わってくるため、パートナーまで配信を広げるのか、あるいはパートナーへの配信を絞るのかでパフォーマンスが大きく変わることも少なくありません。
主な配信先と設定方法は以下で説明していますので、最適な配信設定を見つけるようにしましょう。
広告を表示する場所の範囲を2つの選択肢から選択できます。
- Microsoft サイトと選択トラフィック
Bing、MSN、Edge などの自社メディア+成果が期待できる一部パートナーサイト
→ ブランド保護や予算効率を重視する場合に最適
- Microsoft Advertising ネットワーク全体
上記に加え、より広範囲なパートナー(AOL、Yahooなど)にも配信
→ トラフィック拡大を狙う場合に適する(ただしCPC設定には注意)
ABテストの設定方法
Microsoft広告のABテスト機能は、広告管理画面上で簡単に設定・管理できます。ここでは、基本的な操作手順を6つのステップで解説します。
①広告管理画面にログインし、「キャンペーン」を選択しましょう。次に、表示されたタブの中から「実験」をクリックします。
②赤枠の「キャンペーンを選択」を選択しましょう
③キャンペーン一覧が表示されますので、ABテストを行うキャンペーンを選択しましょう
④テスト名、テスト開始日、テスト終了日、テストの分割、分割オプションの部分を順番に選択します。
- テストの分割:元のキャンペーンとテストを行うキャンペーンの配信割合を任意の数字で設定できます
- 分割オプション:「検索ベース」と「Cookieベース」の2つから選択できます。違いは以下に記載していますが、テストを行う項目によって使い分けることが推奨されています。
分割オプションの選び方は後述の「「検索ベース」と「Cookieベース」の違い」で詳しく解説します。
⑤作成したABテストのキャンペーンが表示されますので、設定内容のダブルチェックをしましょう。問題がなければ、作成されたキャンペーンや広告グループを確認し、テストしたい項目の変更をしましょう。
⑥テスト期間が終了したら、テスト内容を既存のキャンペーンにて適用するか、停止するかを選択しましょう。適用する場合は、「テストの適用先...」を選択します。テストを途中で中断する場合は、「今すぐテストを終了する」を選択しましょう。
「検索ベース」と「Cookieベース」の違い
通常の検証方法との大きな違いがこの分割オプションで「検索ベース」と「Cookieベース」を選択できる点です。
この選択は、テスト結果の精度や適した検証期間に影響するため、目的に応じた使い分けが重要です。
以下、それぞれの特徴と違いを整理しました。
分割オプション | 検索ベース | Cookieベース |
---|---|---|
広告の表示方法 | 各検索時にランダムに広告を表示 | 表示された広告を Cookie に保存し、同じユーザーに対しては、同じ広告を表示 |
メリット | 比較的短期間でデータ収集可能 | 同一ユーザーには常に同じ広告が表示されるため、ユーザー体験が一貫している |
デメリット | ・同一ユーザーに異なる広告が表示されるため、一貫したユーザー体験にならない ・ユーザー単位ではなく、検索単位で広告が切り替わるため、検証の正確性がやや下がる | ・データの収集に時間がかかる場合がある ・Cookieを削除したユーザーや無効設定の場合、追跡が不完全になる |
活用場面 | クリック率などユーザーの初期反応を見たい場合(広告テキストの表現のテストなど) | コンバージョン率などユーザーの最終行動を比較する検証(別々のランディングページによるCVR向上のテスト、オーディエンス比較、など) |
検索ベース
「検索ベース」は、ユーザーが検索を行うたびに、テストキャンペーンの広告または元のキャンペーンからの広告がランダムに表示されます。各検索時に広告がランダムに選択されるため、同一ユーザーでも異なる広告が表示されることがあります。
Cookieベース
一方で、「Cookieベース」の場合はユーザーに表示された広告が Cookie に保存され、以降、同一ユーザーに一貫して同じ広告が表示されます。※
※ユーザーが Cookie を削除した場合や、ブラウザの設定で Cookie が無効になっている場合、正確な追跡が難しくなります
おもに、ユーザーの初期反応を示すクリック率を検証する場合には「検索ベース」、コンバージョン率や収益性など最終的な成果に基づく評価を行いたい場合には「Cookieベース」という具合に、目的や検証項目に応じて、適切な方式を選ぶことで、ABテストの結果精度と再現性を大きく高められます。
効果的にABテストを行う4つのステップ
ABテストは、単に設定して結果を見るだけでは十分な成果につながりません。やみくもにテストを行うのではなく、あらかじめ目的を明確にし、仮説に基づいた設計と評価のサイクルを回すことが、再現性ある改善につながります。
以下の4つのステップをもとにテストの設計と評価を行うことで検証の質を高め、意思決定の精度を向上させていきましょう。
ステップ①事前に仮説を持つ
まずは「どの要素を変更すれば、どのような成果に影響を与えるか」という仮説を明確に定めましょう。
仮説の例:
- 入札戦略を変えれば、確度の低いオークションへの入札額を削減でき、CPAが下がるのではないか
- 広告文を訴求Aから訴求Bに変えれば、よりターゲット層の課題を解決できると分かりやすくなりCTRが改善するのではないか
この仮説は、後の検証結果と照らし合わせて考察を深める基準にもなります。正解かどうかにこだわるのではなく、学びの起点として設計することが重要です。
ステップ②仮説を検証するための条件を設計
仮説を検証するためには、成果を判断する指標(KPI)と、必要なデータの母数をあらかじめ設計する必要があります。
- 成果指標の例:CPA、CTR、CVR、ROAS など
- テスト期間や予算:統計的に意味のある差を確認できる十分なボリュームを確保
また、1回のテストで複数の要素(例:広告文+オーディエンス)を同時に変更すると、成果差の要因特定が困難になります。1テストにつき1要素に絞る「単変量テスト」が基本です。
ステップ③ABテスト機能を使って検証を実施する
設定が完了したら、Microsoft広告のABテスト機能を活用して検証を行います。
テストが始まった後も、ただ完了まで待つのではなく、進捗データや統計的有意差を定期的に確認し、必要に応じて期間の調整や有意差や傾向が出た段階でのテストの切り上げなどを判断していくことも大切です。
ステップ④結果をもとに事前の仮説を評価
事前に考えた仮説と結果を比較して、仮説が妥当だったかどうかを確認しましょう。
事前の仮説はあくまで手元にある情報から推測した推測のため、仮説と結果が違っていた場合は、事前の仮説にこだわらずに、なぜそのような結果になったのか考察するのが重要です。
結果から得られた示唆をもとに、新たな仮説を考え、次の検証を行うサイクルを作っていくことで、継続的な改善を図ることができます。
まとめ
Microsoft広告のABテスト機能は、容易に条件をそろえてテストを行うことができる非常に便利な機能です。
うまく活用することで、検証の正確さを高め、検証を迅速に行うことができます。
検証自体は容易に行えますが、広告主の大切なお金を使っているという意識を忘れず、仮説の精度を高められるように日々のリサーチや思考を十分に行うことが大事です。
検証のサイクルを早める努力に加えて、今後の事業拡大に貢献できる本当に価値のある検証かどうかを見極める視点も忘れないように心がけましょう。
