コロナ禍になってから、私たちの買い物の仕方、場所、内容が確実に変わったと言えます。Eコマースは空前のブームとなり、技術的にも通常は5年から10年かかるであろう進歩が、小売の世界を約1年で飛躍させました。
そしてパンデミックの3年目を迎えた現在では、実はショッピングの有り方がさらに進化し、2020年に正解だったことは果たして今年も来年も正解になるのか、という疑問もところどころに上がることがあります。
そこで、いわゆる「ウィズ・コロナ」や「アフター・コロナ」におけるリテールに関して、注目すべき5つのトピックやトレンドについてご紹介していきたいと思います。
1.帰ってきたオフラインはかつてのオフラインではない
2020年から2022年にかけて、買い物客の行動や意識にいくつかの変化が観察されています。その中の傾向の一つは、2年以内に外出に関する抵抗が確実に減ってきていることですが、購買行動にも大きく影響しています。
例えば、米国の市場調査会社Morning Consult社の調査では、2020年4月に「ショッピングセンターに行く抵抗はない」と答えた人はわずか17%に過ぎなかったのに対し、2022年7月では同じ回答の割合は70%にまで上昇しています。
パンデミックによってEコマースへの追い風があっても、やはり実店舗の需要は相変わらず高い水準にあるからこそ、回復し始めていると解釈できます。ただし、お店に客足が復活した状況は、コロナ前の時代への回帰の兆しではなく、むしろ過去2年間で培われたデジタルの技術と変容した購買行動によって新たに形成された「ニューノーマル」と理解された方が良いでしょう。
2.フリクションレス・コマースの拡大
オンラインであれオフラインであれ、ショッピングは買い物客にとってできるだけ快適であるべきなのは、言うまでもないことですが、家で過ごす時間が増えたコロナ禍によって、顧客が以前にも増してブランドに良いユーザー体験を求めていると考えられます。
この期待に応えるかのように、最近顕在化しているもう一つのトレンドが、フリクションレス・コマースです。簡単に言えば、技術革新によって購買プロセスを、できるだけハードルやフラストレーションを感じないようにデザインする取り組みのことです。
例えば、レジでの待ち時間を短縮したり、決済の利便性を高めたりするために普及が進んでいるモバイル決済はその中の代表的な技術の一つでしょう。
デジタルマーケティングを専門とする市場調査会社eMarketerは、米国におけるモバイルウォレット経由の一人当たりの売上データをもとに、2026年までにその数字が概ね倍増すると予測しています。
その他にも、より柔軟な配送の仕方(店舗での受け取り、カーブサイドピックアップなど)をはじめ、複数の返品オプションの提供まで、顧客の利便性を重視したサービスの導入が近年進んでいます。
後者については上述のMorning Consult社の調査によると、オンラインで購入した商品の返品の3割近くが実店舗で行われるようになったそうで、オンラインとオフラインの従来の境界線が徐々に消えかかっているとも捉えられます。
あくまでもいくつかの例ですが、そもそも上記ようなサービスの出現の背景には、コロナ禍でユーザーが購買プロセスにおけるフラストレーションに対してより敏感になっていると考えられます。そのため、現在の小売業にとって、満足度を高めるためには「顧客がどのようなサービスを求めているか」「ニーズが変わっていないか」などを常に自問することは非常に重要です。
3.ブランド・ロイヤリティの変動に注意
コロナ禍では、実は多くの顧客の間でブランドロイヤルティが揺らいでいることがあります。仮にこれまでは顧客との関係が良好なブランドであったとしても、パンデミック以降そのまま信頼関係が変わらないとは限りません。
コンサルティング会社のMcKinsey & Companyのレポートによると、小さいながらもパラダイムシフトが起きているところがあるようです。例えば、利便性やコスパを理由に75%の買い物客が新しい購買行動を取り入れたと回答していますが、その中から39%の回答者が今まで利用していたブランドから新しいブランドに乗り換えた、という結果がありました。
一部は、ブランドのイメージ作りにも関連しているかもしれません。例えば、コンサルティング会社のAccenture社の調査によると、コロナ禍でブランドが選ばれる理由として、「商品が入手しやすい」といった要因に加え、「健康に良い」「環境への配慮」「地元産の製品」という回答も多かったそうです。
参考: How will COVID-19 change the consumer - Accenture (PDF)
このような局面を加味すると、今後ブランドはロイヤリティ形成と維持という観点からも顧客のニーズにさらに注意深く耳を傾け、コミュニケーションから商品開発までそれに応じたポジションをとることが特に大事になりそうです。
4.オンラインとオフラインのデータの連携
宣伝においては、Google 広告などのデジタル広告媒体のオンラインとオフラインデータの連携を活かせる場面も増えるでしょう。一つの例として、Google 広告が提供しているオフラインコンバージョンインポートという機能があります。
参考: Offline Conversion Tracking Just Got a Whole Lot Easier with Enhanced Conversions from Google
オフラインデータのインポートによってオンラインだけで収集できないデータも計算に含めることができるため、AIがキャンペーンを最適化する精度が高くなることを期待できそうです。多少理想論ではありますが、こういったデータは場合によって、新しい戦略を成功させるために必要な「ミッシングリンク」になるかもしれません。
GoogleのP-MAXのような、ほとんど自動化で動くプロダクトの台頭から考えると、今後デジタル広告における機械学習がますます重要な役割を果たすことは想像に難くないと言えます。
そのため、オンラインだけではなく、オフラインを含めたより多くのデータをシステムに提供することは、戦略的な価値を高める要素になることはほぼ間違いないでしょう。
5.テストを恐れずに
もちろん、パンデミック時やその後に、どの技術がブランドにとって最終的に正解になるのか、答えは一つではありません。しかし、上述のMcKinsey&Companyの調査が示唆するように、コロナ禍に際しての成功には、技術への適応スピードと投資意欲が重要であることは明確です。
本調査では、パンデミックの最初の2年間を非常にうまく乗り切ったという企業のうち、72%が新しいテクノロジーをいち早くテストし、67%がパンデミック中にデジタルテクノロジーに平均以上の投資を行っているという結果がでました。
このような調査結果も含めて、先に述べたトレンドやテクノロジーは、OMO(Online merges with Offline)やDX(Digital Transformation)といった用語がもはやただのバズワードではなく、小売業者が直面する危機をよりうまく切り抜けるための不可欠な要素であることを示しているのではないでしょうか。
コロナ後のリテール界がどの方向に赴くかを完全に知る術はないかも知れませんが、デジタルとリアルの接点に答えが見つかる可能性が非常に高いと思われます。