リターゲティングのCPAが安いと、「うまくいっている」と感じやすいものです。実際、CVRも高く出やすく、成果が出ているように見える場面は少なくありません。
ただ、そのコンバージョン(以降、CV)は本当に広告が生み出したものなのでしょうか。
オーディエンスを訪問期間ごとに分けて検証したところ、「広告がなくても購入していたユーザー」への配信に偏っている実態が見えてきました。
本記事では、その事例をもとに、検証結果と改善の考え方を紹介します。
目次
リタゲのオーディエンスリスト、「ざっくり30日」で設定していませんか?
リターゲティングは、すでに接点を持っているユーザーに配信するため、CVRが高く、結果としてCPAも安価になりやすい手法です。
一方で、成果は配信してみないとわからないことも多く、訪問期間を短く絞りすぎると配信量が出ない可能性もあります。そのため、まずはボリュームを確保しながら様子を見るために、オーディエンスを「訪問から30日」といった形でまとめて設定するケースは少なくありません。
私自身も同様に、立ち上げ初期や初めて扱う業界では、広めのオーディエンスで配信し機械学習に委ねることが多くありました。
しかし、この設計のままで本当に問題はないのでしょうか。
自動入札は、CVに至りやすいユーザーへ配信を寄せていきます。その結果、「広告がなくても購入していた可能性が高いユーザー」に配信が集中してしまうことがあります。CPAが安く見えていても、それが広告によって新たに生まれた成果とは限りません。
実際に、オーディエンスを「訪問から30日」といった形でまとめていたことで、本来リーチしたいユーザーに十分届いていなかった、という状況に直面しました。
その検証プロセスをもとに、リターゲティングの見直し方を整理していきましょう。
ある日用品宅配サービスで直面した「CPAは安いのに、広告の意味がない」問題
まずは、リターゲティングのオーディエンスの設定方針について、筆者が考え直すきっかけになった事例について紹介します。
サービスの特徴と、広告で獲得したいユーザー像
詳しい施策の内容や数値に入る前に、サービスの前提を整理しておきます。
- サービス内容:食料品・飲料・日用品などを即日配達
- 強み:購入金額によらず送料無料
ここで重要なのは、広告で獲得したいユーザー像です。
サービスの特性上、少量の商品を数日おきに注文するユーザーが一定数存在します。ただ、このような利用は配送網の圧迫や利益率の観点から、広告費をかけてまで積極的に増やしたいとは言えません。
広告で獲得したいのは、買い置き商品などを、ある程度まとまった金額で購入してくれるユーザーでした。
ディスプレイ広告が「自然とリタゲ状態」になる問題
このサービスは、「日用品の即配」という性質上、数日おきなどの短いスパンでリピート購入が発生しやすいビジネスです。
オーディエンスリストを「訪問から30日」といった形で作ってしまうと、直近利用したユーザーが多く含まれる状態になります。さらに、自動入札は購入に至りやすいユーザーに配信を寄せます。そのため、「訪問から30日」よりもさらに内側の、すでにリピーター化しているユーザーに配信が集中しやすくなると考えられます。
結果として、利益率の低い注文を繰り返すユーザーに対するブックマークのような役割を、広告が担ってしまうことになります。
この構造のままでは、CPAが安く見えていたとしても、ビジネスを伸ばすことにつながりません。
訪問期間を細かく分けて検証してみた
オーディエンスを「訪問から30日」といった大きなまとまりで捉えると、その中にどの期間のユーザーがどのくらい含まれているのかが見えなくなります。それぞれがどのような行動傾向を持ち、成果にどう寄与しているのかも把握できません。
同じ「訪問から30日」のユーザーでも、あらかじめ細かく刻んでおくことで、「どの期間にどんなユーザーが滞留しているのか」を後から分析できるようになります。
【検証①】訪問期間を細かく区切り成果の傾向をつかむ
まずは、訪問期間ごとにオーディエンスを細かく分けて配信を行い、それぞれの成果を比較しました。
配信した結果は以下の通りです。

配信のほとんどが「7日以内」のユーザーに集中していることがわかります。CPAもこの層が最も安く、数値だけを見ると非常に効率的に見えます。
一方で、オーディエンスサイズは「7日以内」よりも「16〜30日」「31〜60日」のほうが大きいにもかかわらず、配信は「7日以内」に偏っています。配信量が「購入に至りやすいかどうか」に強く依存していることが読み取れます。
日用品のように安価で検討期間が短い商材では、「直近訪問=直近購入」となるケースも多く、この層は広告がなくても購入していた可能性が高いユーザーです。成果として見えているCVの中には、広告がなくても発生していたリピーターの購入が多く含まれている可能性があります。
【検証②】直近7日以内を除外して再配信した結果
検証①の結果を受け、訪問から7日以内のユーザーは、「広告がなくても購入していた可能性が高い層が多く含まれる」と仮説を立て、除外したうえで配信を行いました。(検証①とは配信期間や訴求が異なるため、単純な比較はできません。)

まず、検証①で配信の大半を占めていた「7日以内」のユーザーを除外した場合、成果が大きく悪化するのかという点です。
購入CPAは検証①のときとほぼ同水準でCVを獲得。直近訪問ユーザーへの配信を抑えつつ、配信先を分散させながら、費用対効果を維持することができました。
また、オーディエンスごとの成果を見ると、いくつかの傾向が見えてきます。
- 8〜15日・16〜30日の層は、CPAを大きく悪化させることなく購入を獲得できている
- 16日以上経過した層では、購入単価が高くなる傾向がある
- 60日を超えるとCVRは大きく低下するが、リストサイズがあるため無駄な配信が出やすい
これらの結果をもとに、訪問期間ごとのユーザー特性について次の章で考えていきましょう。
検証から見えた「訪問期間ごとのユーザー特性」と配信方針
検証を通じて、訪問期間という「時間軸」がユーザーのCVRや購入単価に強く関係していることが見えてきました。
訪問期間によってユーザーの購買行動が違う
訪問期間ごとにデータを分解してみると、ユーザーの購買行動には明確な違いがあり、次のような行動傾向が考えられます。
- 8〜15日:日常的に消費するユーザー。購入頻度が高く、季節変動を受けやすい
- 16〜60日:定期的にまとめ買いするユーザー。月による変動が少なく、購入単価が高い
- 60日超:離脱傾向が強く、広告で呼び戻すのは非効率
オーディエンスを細かく分けておくことで、こうした違いが明確になり、「どの層がどのような価値を持っているのか」を具体的に捉えられます。この情報をもとにすると、配信の強弱や除外といった次のアクションにもつなげやすくなります。
「広告の役割」から逆算してオーディエンスを位置づける
配信結果とユーザー特性を踏まえると、各オーディエンスは次のように位置づけることができます。
- 「売上」を効率よく積む層: サイト訪問 8〜15日
- 「利益率」の高い層: サイト訪問 16〜60日
- 広告では配信を除外すべき層:60日超
切り分けてみると、事業として売上を積みたいときにどの層にリーチすべきか、また中長期の成長を見据えてどの層に投資すべきかといった議論ができるようになります。
もしオーディエンスを「訪問から30日」といった形でまとめていた場合、こうした違いに気づくためには、基幹システムの購買データを突き合わせて分析するなど、別のデータや工数が必要になり腰が重くなりがちです。
そもそも切り分けずに済む方法はないのか?
「自動入札ってそういう手間が少なくなるものじゃないの?」と感じる方もいるかもしれません。
自動入札では、広告アカウントにどれだけ適切な情報を蓄積・連携できるかが、成果を大きく左右します。なぜ自動入札がうまく機能しないのかを理解したうえで、どうすれば効果的に活用できるのかを考えていきましょう。
自動入札が「正しく」最適化できないのはなぜか
自動入札が広告運用者の意図通りに最適化されない根本的な原因は、多くの広告アカウントで、CVの「量」だけを学習していることにあります。
たとえば、目標コンバージョン単価などの入札戦略で最適化している場合、機械学習にとっては、少額購入も、まとめ買いも同じ1件のCVです。
そのため、自動入札は「より獲得しやすいCV」を優先するようになり、リピーターのような何度もCVしてくれるユーザーに多く広告を表示しやすくなります。
配信の目的や集客の特性によっては、こうした最適化でも十分なケースもあるでしょう。しかし、さらに利益性の高い集客を目指そうとしたとき、CV数やCPAだけで最適化するのは限界がくることもあります。
細かな調整を重ねなくても、事業が目指す方向に沿った集客を実現する。自動入札の理想的な運用を目指すためには、CVの量だけでなく、CVの質も広告アカウントに伝えることが重要です。
コンバージョンに価値を渡す バリューベースドビディング
CVの「量」だけではなく「質」まで広告アカウントに伝える代表的な手段が、購入金額や利益額をコンバージョン値として媒体に返す方法です。tROAS(目標広告費用対効果)などの入札戦略と組み合わせることで、媒体側にコンバージョンの価値を踏まえた最適化を任せられるようになります。
購入金額や利益額をもとに最適化することで、購入単価の高いユーザーに広告配信が寄ることを期待できます。ただし、購入金額などのデータだけですべてを解決できるわけではありません。
たとえば、「広告を見なくても購入するリピーター」が高単価で購入している場合、機械学習から見ると、そのCVも「価値の高い成果」として評価されます。しかし、広告で獲得したいのは、「新規ユーザーで、かつ高い購入単価も期待できるユーザー」など、要素がいくつか重なっているケースも多いはずです。
筆者の経験上、売上金額に加えて、会員登録など別のCVにもコンバージョン値を任意に設定し 、複数のCVをバランスよく学習させることで、狙いに近い配信ができるケースはあります。
一方で、学習ロジックが複雑になる分、入札調整をしたときの挙動が読みづらくなり、コントロールの難易度が一段上がります。
コンバージョンの「定義」を変える
少しでも意図通りの広告配信に近づけるために、以下のようなコンバージョンの定義や設定を変更するというのも方法の1つです。
- 新規会員登録のみをCVに設定する(既存リピーターのCVを排除)
- 一定金額以上の購入のみをCVとする(少額注文を最適化対象から外す)
- オフラインCV(利益データ)のインポート
設計によって、「どのCVを価値ある成果として学習させるか」を、ある程度コントロールできるようになります。
ただ、実際の運用では、媒体と社内データの連携が必要になったり、計測やデータ更新を維持するための工数も発生し、思った以上にハードルが高いケースも多いです。
また、CVの条件を絞り込みすぎると、学習に必要なデータ量が不足し、自動入札が安定しなくなることもあります。理想的な設計を考えることも大切ですが、「実際の運用で継続して回していけるか」の視点も欠かせません。
理想と現実のギャップが「切り分けて検証する」意義を生む
本来であれば、事業にとって価値の高いユーザー情報を広告アカウントに渡し、自動入札に最適化を任せられる状態が理想です。
実際には、媒体の仕様やデータ連携の制約、CVボリューム不足など、理想通りに設計できないケースも少なくありません。何が起こっているのかブラックボックス化しやすい自動入札では、狙い通りに機能しているのか判断しづらい場面もあります。
そのため、「本当に獲得したいユーザー」に広告を届けるには、オーディエンスを手動で切り分けて検証するアナログな手法は今でも有効です。
「CVRが高い=良い」で止まらないために
今回の検証で改めて感じたのは、自動化時代の運用者には、「そのCVは広告があったから発生したのか?」「そのユーザーは本当に利益に貢献しているのか?」という視点がこれまで以上に求められているということです。
自動入札に正しいシグナルを渡すのも、オーディエンスを切り分けて検証するのも、本質的には「広告予算が事業の利益にどう貢献しているか」を見える状態にし、本当に価値のある層に予算を振り向けるための取り組みです。
自動化が進み、ブラックボックス化しやすい今だからこそ、「分けられるものは分けて、見える状態にしておく」ことの重要性は高まっています。
最初から完璧な設計を目指す必要はありません。まずはリストを細かく切り分け、違いが見える状態を作ること。そこから得られるデータが、事業成長につながる次の一手を考える土台になります。



