広告クリエイティブの「訴求の優先度」を根拠をもって整理する方法

広告クリエイティブの「訴求の優先度」を根拠をもって整理する方法

広告クリエイティブの訴求軸、その検証の「優先度」をきちんと考えていますか? 限られた予算とリソースの中で成果を出すには、定量×定性のスコアリングで優先度を客観的に整理することが大切です。

本記事では、訴求検証の優先度を計算式で算出するフレームワークを、架空例と実案件の2つの具体例を交えながら解説します。


検証する訴求の優先度、「なんとなく」で決めていませんか?

機能訴求、ベネフィット訴求、共感に訴える訴求、実績やオファーを強調する訴求。広告文やクリエイティブの制作にあたって、私たちは多様な訴求軸を検討し実行しています。

しかし、予算とリソースが限られている以上、すべてを同時に検証するわけにはいきません。「どの訴求から検証するか」の優先度を決める場面は、必ず訪れます。

ここで問いたいのは、その優先度に「根拠」はあるか? ということです。

「クライアントから急いで検証してほしいと言われたから」「バリューを出すために、とにかく新しい検証をしないと」。こうした流れや空気感だけで訴求軸を選んではいないでしょうか。

流れや感覚で訴求を選定すること自体が悪いわけではありません。ただ、理論的な裏付けがないと、施策が外れたときに「次の一手」が見つからず手詰まりになります。クライアントに根拠を聞かれても何も答えられないという事態も起こり得ます。

実際に、あるクリエイティブ案件でこんなことがありました。急ピッチでのクリエイティブ制作・検証を求められ、訴求検証の優先度を練りきる前に見切り発車。訴求軸選定の根拠がないため先方への説明責任を果たせず、グダグダになった検証の軌道修正に時間を取られる日々。本質的なクリエイティブが生まれないまま、ただリソースと予算だけが消えていきました。

こうした事態を避けるためにも、「検証の優先度」は理論的に決めることが大切です。

本記事では「訴求検証の理論的な優先度の決め方」を紹介します。コンペや案件の引き継ぎ、クリエイティブの抜本的な見直しが必要な場面で、特に活用できるはずです。

訴求検証の土台を作る2つのフェーズ

訴求検証の優先度を整理するには、大きく2つのフェーズがあります。

フェーズ1:商材が応えられるニーズを根拠を持って分析する

まず、商材の強みと市場環境を整理し、自社が応えられるニーズを洗い出します。

フェーズ2(今回メインでお伝えする内容):分析内容をもとに、検証の優先度を理論的に考える

洗い出したニーズに対して、定量・定性の2軸でスコアリングを行い、検証の優先度を数字で算出します。以降、優先度をもとに訴求の詳細やフォーマットを検討し、検証に移ります。

本記事のメインはフェーズ2です。ただし、フェーズ2はフェーズ1の分析と地続きになっているため、まずはフェーズ1の概要を簡単におさらいしてから本題に入ります。

なお、フェーズ1の詳細は「感覚に頼らずニーズから導く、広告コピーの根拠ある「訴求軸」の設計方法」で徹底解説しています。この記事は「訴求軸を根拠を持って考える」ための方法をお伝えしており、訴求軸を1から分析し実行するまでのフローを解説していますので、そちらもぜひご覧ください。

フェーズ1:商材が応えられるニーズを分析する

ここからはフェーズ1のおさらいです。

フェーズ1の内容がフェーズ2と地続きになるので、この場でも簡単に説明をさせていただきます。すでに前述のブログを読んだことのある方は、「フェーズ1のキモ」まで読み飛ばしてOKです!

本記事では「ホットヨガ教室A」を架空の商材例として解説を進めます。ホットヨガ教室Aの特徴は、ダイエットに効果的な有酸素運動に特化し、代謝UPを目指せること。会員同士の交流も活発であるという設定です。

STEP1:商材の強みと市場環境を整理する

どんな案件も、まずは商材理解と市場把握から。

自社(Company)としてどんな強みを持っているか。顧客・市場(Customer)としてユーザーが解決したいことは何か。競合(Competitor)として競合のポジションや戦略はどうなっているか。

上記3つの要素をもとに、ザクザク掘って状況整理をしていきましょう。以下のような表に起こしておくと、後々の分析でも整理しやすくてGoodです。

STEP2:商材が応えられるニーズを言語化する

STEP1で整理した情報から、「自社の強み」それぞれが「どんなニーズ」に応えられるかを結びつけるパートです。

「ホットヨガ教室A」で考えるなら、例えば以下のようなニーズが挙げられそうです。

商材の独自性応えられるニーズ
有酸素運動の動きが多くダイエット効果があるA:ダイエットがしたい
大量の汗をかくので代謝が改善するB:美容に効果のある運動がしたい
コミュニティが活発と利用者から評判C:人と交流する趣味が欲しい

同じホットヨガというサービスでも、応えられるニーズは1つではありません。可能性を見落とさないよう、自分の思い込みだけに頼らず、多角的に考えてみましょう。

フェーズ1のキモ:優先度を決めるための情報を「定量」「定性」で集める

ここからが訴求検証の優先度を考えるにあたって最も重要なSTEPです。

洗い出したニーズに対し、「優先的に訴求検証をすべきかどうか」の判断材料を集めます。情報収集の軸は「定量」と「定性」の2つです。

定量:そのニーズを抱えている人はどれくらいいるか

どんなに素晴らしい広告も、刺さるユーザーの母数が少なければ獲得増加には繋がりません。ニーズを抱えている人口が実際どの程度いるのか、その規模を調査します。

政府の統計やアンケート調査など、客観的なデータを参考にできるとベストです。

ホットヨガ教室Aの場合、洗い出したニーズはいずれも運動に関連した内容ですので、「運動をする人は何が動機になっているか」を調べてみます。ここではスポーツ庁「令和5年度 スポーツの実施状況等に関する世論調査」を参照しました。

この調査によると、週2日以上の運動を1年以上継続している人が運動をする理由として、「肥満解消、ダイエットのため」は複数回答で29.2%、最も大きな理由として12.9%を占めています。一方、「美容のため」は複数回答で9.3%、最も大きな理由としては1.8%。「友人・仲間との交流として」は複数回答で15.1%、最も大きな理由として4.1%でした。

ここから、各ニーズの規模をざっくりランク分けできます。

  • ニーズA(ダイエット):規模 大 
  • ニーズB(美容):規模 小 
  • ニーズC(交流):規模 中

「そんなに都合よくデータが見つかるのか?」と思う方もいるかもしれません。もちろん、ニッチな商材ではぴったりのデータが見つからないこともあります。そんなときは「ニーズの規模」そのものではなく、「ニーズを持っていそうなセグメントの規模」を調べるのがおすすめです。

たとえば「減塩しながらも美味しくご飯が食べたい」というニーズの規模を直接測るのは困難ですが、「高血圧および高血圧予備軍の人口」を調べれば、そのニーズを持つ人の規模感が見えてきます。(この具体例は後述する実案件で詳しく触れます)

定量データの探し方

定量分析でつまずきやすいのは「どこからデータを探すか」です。以下のようなデータソースを使い分けると、多くの商材でニーズ規模の手がかりが見つかります。

政府統計(e-Stat は、最も信頼性の高いデータソースです。人口動態、消費動向、産業別データなど幅広くカバーしており、先ほどのスポーツ庁調査もここから辿れます。

業界団体の白書・調査レポートは、特定業界のニーズ動向を掴むのに役立ちます。たとえば美容業界なら日本化粧品工業連合会、健康食品ならJHFA(日本健康・栄養食品協会)など、業界ごとに定期的な調査を公表している団体があります。

Googleトレンドやキーワードプランナーは、ニーズの「検索行動としての規模」を比較するのに便利です。絶対数よりも「ニーズAとニーズBの相対的な大小」を把握したいときに使いやすいでしょう。

いずれも完璧なデータが見つかるとは限りませんが、「まったく根拠がない状態」と「ざっくりでもデータに基づいている状態」の差は大きいものです。

定性:ニーズに応えられる独自性が自社商材にあるか

定量だけで訴求検証の優先度を判断するのは危険です。たとえニーズの規模が大きくても、代替手段が豊富であれば「その商材をユーザーが選ぶ理由」は薄くなるためです。

競合との比較、社内ヒアリングや顧客の声、SNSや口コミ・レビューなどを突き合わせ、商材の独自性がどの程度通用するのかを見極めましょう。

ホットヨガ教室Aで考えると、各ニーズに対する独自性の通用度は以下のように整理できます。

ニーズA(ダイエット):独自性 中
自宅での筋トレ・ジム通いなどの代替手段あり。ただし有酸素運動に特化した教室として訴求すれば、一定のパイは確保できます。

ニーズB(美容):独自性 高
ピラティスなど、限定的な代替手段に限られます。

ニーズC(交流):独自性 低
料理教室・ワークショップ・運動サークルなど代替手段が多く、獲得ハードルが高いと言えます。

これで、検証優先度を決めるための情報はすべて揃いました!

フェーズ2:訴求優先度を計算式で算出する

いよいよ本題です。フェーズ1で集めた定量・定性の情報をもとに、訴求検証の優先度を数字で算出します。

計算式はシンプル:有効規模 × 独自性 = 優先度スコア

定量・定性をそれぞれ以下のように読み替えます。

  • 定量 = 有効規模(そのニーズを抱えている人の規模)
  • 定性 = 独自性(そのニーズに対して自社商材が選ばれる強さ)

この2つをスコアリングし、掛け算で優先度を算出するのが基本の計算式です。

「有効規模の大きさ」 × 「独自性の強さ」 = 「優先度の高さ」

掛け算にする理由は明快です。たとえ有効規模が大きくても、独自性がほぼゼロであれば検証しても成果は期待できません。逆に独自性が高くても、ニーズ規模が極端に小さければ獲得ボリュームは見込めません。片方が弱ければ全体のスコアも下がるという構造を、掛け算が自然に表現してくれます。

計算式を実践してみる

では実際にスコアリングしてみましょう。ホットヨガ教室Aのニーズに対する優先度を、定量・定性それぞれスコアリングしてみます。

フェーズ1で集めた、定量・定性的な材料を整理すると以下のようになります。

ニーズA:ダイエットがしたいニーズB:美容に効果のある運動がしたいニーズC:人と交流する趣味が欲しい
有効規模(定量)
独自性(定性)

次に、これらを数字に変換します。今回は「1〜3」の3段階でスコアリングします。優先度が高いものほど大きい数字をつけるのがポイントです。

ニーズA:ダイエットがしたいニーズB:美容に効果のある運動がしたいニーズC:人と交流する趣味が欲しい
有効規模(定量)大(3)小(1)中(2)
独自性(定性)中(2)高(3)低(1)
優先度スコア3×2=61×3=32×1=2

スコアの大きい数字ほど、訴求を深掘りする優先度が高くなります。

ニーズA:ダイエット(6点)> ニーズB:美容(3点)> ニーズC:交流(2点)

つまり、まずは「ダイエットしたい人」に向けた訴求から検証を始めるのが、限られた予算の中で最も効率的だと整理できるわけです。

スコアリングの段階数はどう決める?

今回の例では3段階(1〜3)でスコアリングしましたが、この段階数は固定ではありません。洗い出したニーズの数に応じて調整するのがおすすめです。

ニーズが3〜4種類なら3段階で十分。一方、5種類以上になると3段階ではスコアが同点になりやすく、優先度の差がつきにくくなります。その場合は5段階(1〜5)にすると、より精緻な順位付けが可能です。

もし同点が出た場合は、どちらの軸を重視するかで判断してください。たとえば限られた予算で確実に成果を出したいなら「有効規模」を優先する、競合と差別化した訴求で突破口を開きたいなら「独自性」を優先する、といった具合です。こうした方針をあらかじめチーム内で合意しておくと、同点時にも迷わず意思決定ができます。

う〜ん….わざわざ計算式にする必要ある?

「定量・定性を肌感でざっくり掛け合わせれば終わりでは?」と感じる方もいらっしゃるかもしれません。

必要は…..あります!

実際の商材は、今回例で出した内容よりもっと複雑になるケースが多くあります。自社で応えられるニーズが多ければ多いほど、用途は同じでもセグメント単位でニーズは分岐するからです。

ニーズが多いほど、優先度付けの判断は複雑になる。そんな時、感覚で「定量」「定性」を掛け合わせると判断を見誤ることになります。

ここからは、まさにそのケースに当てはまる実案件をご紹介します。

実際の案件で「優先度スコア」をつけた事例の紹介

「ニーズが3つしかないなら、わざわざ計算式にしなくても感覚でわかるのでは?」。たしかに、ホットヨガ教室の例のようにシンプルなケースでは、そう感じるかもしれません。

しかし、実際の商材はもっと複雑になるケースが多くあります。たとえば、誰しもの生活に身近な調理器具のような商材は、ニーズが多く細かく分岐します。

ここでは過去に、ある食品関連の商材の広告クリエイティブ改善を担当した際に「検証優先度」を整理した事例をご紹介します。

この商材は「料理好きで、手間をかける余裕がある人」がメインターゲットです。しかし一口に料理好きといっても、ニーズは多岐にわたります。そこで、まず「セグメント」単位でユーザーを区分し、そこからニーズを洗い出すアプローチを取りました。

大きくは「世帯別ニーズ」と「目的別ニーズ」に分類し、さらに細分化していきます。世帯別では一人暮らしと2人以上暮らしに分かれ、目的別では丁寧な暮らし志向や健康意識、食育ニーズなどに枝分かれしていきます。

最終的に8種類のニーズをピックアップし、それぞれに対して定量(有効規模)と定性(独自性)を分析しました。前述と同じ理屈で分析した際の図表がこちらです。

文字が多くてウッとなるかもしれませんが、やっていることはホットヨガ教室の例とまったく同じです。一部を抜粋すると、以下のようになります。

セグメントニーズ有効規模(定量)独自性(定性)優先度スコア
一人暮らし一人で食べられる量の料理をこだわって作りたい高の下(2.5)中(2)5
2人以上暮らし複数人でシェアできる量の料理をこだわって作りたい高(3)中(2)6
丁寧な暮らし志向生活水準を上げるためワンランク上の献立にしたい中(2)中(2)4
健康意識(塩分)減塩しつつ美味しいものを食べたい中(2)高(3)6

このように、ニーズが8種類に及ぶと、感覚だけで「どれから検証すべきか」を判断するのは困難です。「2人以上暮らし」と「健康意識(塩分)」が同率トップ(6点)であることも、計算してみなければ見えにくいポイントでした。

最終的には、優先度の高いセグメントに絞ってクリエイティブ方針を策定し、提案を行いました。結果として、「なぜこの訴求なのか」を数字で説明できたことで、方針決定がスムーズに進んだと実感しています。

幅広いニーズに応えることのできる商材では、このように抽象度の高い分類(セグメント)から着手し、徐々にニーズを掘り下げていくことで混乱を防げます。

この手法を使う際に気をつけたいこと

ここまで「有効規模 × 独自性」の計算式を紹介してきましたが、このフレームワークが万能というわけではありません。実務で活用する際に意識しておきたいポイントがいくつかあります。

1つ目は、競合の出稿状況です。 スコアが高い訴求軸であっても、競合がすでにその切り口で大量に広告を出稿している場合、CPCの高騰やクリエイティブの埋没が起こり得ます。スコアリングで「何を訴求するか」の方向性を決めたら、実際の競合広告をチェックして「どう訴求するか」の差別化も合わせて考える必要があります。

2つ目は、LPとの整合性です。 いくら優先度の高い訴求軸を見つけても、遷移先のLPでその訴求を受け止められていなければ、コンバージョンには繋がりません。LPの改修が難しい場合は、現状のLPで受け止められる訴求軸にスコアを補正することも、現実的な判断として必要になります。

3つ目は、クリエイティブの実現難易度です。 訴求の方向性が決まっても、それをビジュアルやコピーとして表現できなければ絵に描いた餅です。たとえば「代謝改善」という訴求は、ダイエット訴求に比べてビジュアル表現のハードルが高い場合があります。制作チームと事前にすり合わせておくことで、実行可能性の高い優先度判断ができます。

フレームワークはあくまで意思決定の「出発点」です。スコアを盲信するのではなく、実務上の制約と照らし合わせながら最終判断をしていく姿勢が大切です。

「なぜこの訴求なのか」に根拠で答えられることの価値

この手法は、社内のチームミーティングでの議論はもちろん、クライアントへのコンペや提案の場でも非常に強力な武器になります。

方針を見誤らずに済むのはもちろんのこと、「なぜこのコピーなのか?」「なぜこの訴求を今やるのか?」という問いに対し、「市場のボリュームがこれだけあり、競合と比較した際の強みがこれだけあるから、最も獲得効率が高いと予測されます」と根拠を持って答えられること。これは、クライアントからの信頼を得るうえで非常に大きな差になります。

また、スコアリング表をチーム内で共有しておくと、担当者が変わっても判断のロジックが引き継げるというメリットもあります。「なぜこの訴求軸で検証しているのか」が記録として残るため、案件の引き継ぎ時に方針がブレるリスクを減らせます。

設計には多少の手間がかかりますが、一度作ってしまえば広告運用の全体像が見えるようになり、次に何を検証すべきかの判断も迷いにくくなります。

まとめ

訴求検証の優先度を「なんとなく」ではなく「根拠」で決めるためのフレームワークをご紹介しました。

ポイントを振り返ると、フェーズ1で商材が応えられるニーズを洗い出し、定量(有効規模)と定性(独自性)の両面から判断材料を集めること。フェーズ2で「有効規模 × 独自性 = 優先度スコア」の計算式に落とし込み、検証の順番を客観的に整理すること。この2ステップがすべてです。

コンペ、案件の引き継ぎ、クリエイティブの抜本見直しなど、「何から手をつけるべきか」の判断が難しい場面ほど、この手法は力を発揮します。

まずは自社(もしくは担当案件)の商材で、応えられるニーズを3つ書き出し、それぞれの規模と独自性を調べてみてください。きっと、次に検証すべき訴求軸が見えてくるはずです。

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