チームを率いる立場になると、「最近、部下との会話が減ってきたな」と感じる瞬間はありませんか?
報告は受けているのに全体像がつかめない。小さな認識のズレに気づかず、後から大きな修正が必要になる。相談が先送りされ、メンバーが一人で抱え込んでしまうなど。
私自身も、前職のストアマネージャーから転職し、リモートメインのチームリーダーへと立場が変わったとき、同じ壁に直面しました。
店舗で働いていた頃は、同じ空間にいるからこそ自然に会話が生まれ、メンバーの状況を察することができました。何気ない雑談や表情の変化が情報となり、成果につながるヒントになることも多かったです。
しかし、リモートメインの環境になるとその「当たり前」は一気に失われました。チームメンバーとの会話の頻度が減ったことで、認識のズレや見えない進捗、相談の遅れといった問題が発生するようになったのです。
そこで気づいたのは、「自然に会話が生まれる環境」に頼っていては、成果を出し続けることはできないということでした。会話の頻度が減るなら、それを補う仕組みを意図的に設計する必要がある。そう感じました。
本記事では、私が実践してきたコミュニケーション頻度の減少を解決し、チームで成果を出し続けるための4つの工夫を紹介します。
目次
部下とのコミュニケーションが減って生じた4つの問題
ストアマネージャー時代は、メンバーとの何気ない会話、表情や動作の変化から困っていることを察し、声をかけることができました。同じ空間にいるだけで、様々な非言語の情報が入ってくるので、コミュニケーションの頻度や質を特別に意識せずともチームは問題なく回っていたように思います。
なぜなら、小さなズレや違和感も早い段階で修正でき、問題が大きくなる前に手を打てたからです。むしろ、雑談の中から新しい改善のヒントが生まれることも珍しくありませんでした。
ところが、環境が変わりリモートメインのチームリーダーになり、対面と比べてメンバーとのコミュニケーションの総量が減ったことで、以前は起きなかったような課題が見えるようになりました。
- 業務状況が把握しづらくなる
コミュニケーションが減ると、「誰が何にどれくらい時間を使っているか」といったメンバーの業務進捗や負荷状況が見えにくくなります。これをそのままにしておくと、プロジェクトの遅延リスクに気づけないかもしれないと感じました。 - メンバーの課題や懸念が吸い上げにくくなる
会話の機会が減ると、「相手の時間を奪うのでは」という遠慮や、「わざわざ聞くほどでもない」というためらいが生まれ、相談の心理的ハードルが上がります。その結果、小さな疑問や認識のズレが放置され、気づかぬうちに大きな手戻りやトラブルに発展する懸念がありました。 - スキルや知識が共有されづらくなる
オフィスでの何気ない会話や、先輩が後輩に教える場面など、偶発的に学べる機会はコミュニケーションから生まれます。そうした機会が失われると、チーム内での知識やスキルの共有が滞り、個人の成長が遅れるだけでなく、チームとしてのアウトプットの質も安定しにくくなると感じました。 - 業務が属人化しやすくなる
コミュニケーションが減ると、情報やノウハウが特定の個人の中に留まりやすくなります。その結果、担当者が不在の時に誰も対応できないリスクが生まれます。特に複雑な案件ほど、この属人化は進行しやすく、チーム全体の生産性や柔軟性を下げてしまうと感じました。
コミュニケーションの「量」と「質」を高めるために実施している4つの工夫
チームの進捗が見えにくくなったり、メンバーからの相談が減ったりといった問題は、その根本原因をたどると、コミュニケーション頻度の低下に行き着きました。
そこで、初めはとにかく会話の機会を増やそうと、定例MTGの数を週3回に増やしてみました。しかし、アジェンダが曖昧な会議はメンバーの時間を奪うだけで、チームの生産性はかえって下がってしまいました。
この失敗から、ただ闇雲にコミュニケーションの「量」を増やすだけではうまくいかない、と痛感しました。そこで、一つ一つのやり取りの「質」も高めるために、以下のような取り組みを始めました。
1. 週初めのMTGで業務の進捗と今週の計画を共有する
週に一度、チーム全員で集まり、各自が「先週やったこと」と「今週やること」を簡単に報告する場を設けました。目的は細かく管理することではなく、後から大きな手戻りが発生しないよう、週の初めにしっかりと方向性をすり合わせることです。
例えば、メンバーが「今週は〇〇の資料を仕上げます」と宣言した場合、「水曜の午前中にアウトラインを完成させて、午後に一度、壁打ちの時間を取りましょうか」と提案するなど、必要なタイミングでサポートに入れるようにしています。
週の初めに各メンバーのゴールと、相談が必要になりそうなタイミングを明確にしておくことで、「今週はこの部分を任せよう」「このタイミングでサポートに入ろう」と、見通しを持ってメンバーに裁量を渡せるようになりました。
2. テキストと通話を使い分け、気軽に「話す」文化をつくる
コミュニケーションの「質」を高めるために、その手段を意識的に選ぶことも大切だと考えています。
例えば、会議の決定事項のように記録として残したい連絡はテキストが便利ですが、少し複雑な相談はテキストの往復でかえって時間がかかってしまうこともあります。そこで、「記録や依頼はテキスト、複雑なすり合わせやアイデア出しは通話」といった使い分けを意識しています。
しかし、いくら「話した方が早い」場合でも声をかけるハードルが高いと、結局テキストでのやり取りになってしまいます。
そのため、私のチームでは、「ちょっと今話せますか」を歓迎しています。定期的にチャットツールの通話機能を使い、何かあればクリック一つですぐに雑談や相談ができる状況にしており、対面で言うと「隣に座っている」のと同じような感覚でコミュニケーションが取れるようにしています。
例えば、クライアントに送る報告のテキストも、事前すり合わせなく進めてしまうと認識や方向性のズレによって、手戻りが多くなり余計に時間がかかってしまう場合があります。また、テキストで事前すり合わせをするのもラリーが発生してしまいます。
しかし、事前に10分話をして方向性を決めることで認識のずれや手戻りがなくなり、1時間かかっていたような仕事が15分で解決するようになりました。
3. 週1回の勉強会で、知識のアップデートと目線合わせを行う
チーム全体のスキルアップと目線合わせのために、週1回勉強会を行っています。テーマは、「うまくいった事例の深掘り」や「最近気になるサービスの分析」、「ほかのチームで対応した提案資料の読み合わせ」など様々です。
この勉強会は、各メンバーの知識をアップデートするだけでなく、メンバーのアウトプットを通して、今どこで躓いているのか、新しい視点を持てているかを把握する目的もあります。
この勉強会を通して、自分が担当していないクライアントの施策についても学べるようになりました。
例えば、「Google広告の新しい機能を使った事例」や「成果の良い広告アカウント構成の工夫」といった知識を共有することで、自分の担当案件にも横展開できるように。
また、クライアントから「最近よく聞く媒体や機能は、うちでも利用すべきか?」と聞かれた際も、他のメンバーが試した施策の結果を踏まえて、すぐに具体的な提案ができるようになりました。
4. 全員がチームメンバーの仕事を把握し、フォローできる体制を作る
特定の担当者しか状況を知らないという状態は、チームで仕事をする上で大きなリスクになります。例えば、以下のような問題が起こりえます。
- 急な休みなど不測の事態が起きた際に、他の誰もフォローできない
- 日々の業務の中で起きている小さな問題の兆候を検知できない
これを解決するために、業務内容やクライアントとのやり取りは基本的に社内のオープンチャットで行い、誰がどの案件をどんな状況で進めているのか、全員がいつでも見られるようにしています。
具体的には、各案件ごとに専用チャンネルを作り、「サイトメンテによる一時配信停止の対応」「◯月 月次資料」といった形で、クライアントとのやり取りや進捗状況を随時投稿しています。
実際にあるメンバーが体調不良で休んでいる際に、クライアントから緊急の入稿依頼が来た時もオープンチャットで事前に入稿ルールが共有されており、その施策の詳細や意図も把握していたため、私が代わりに入稿し、滞りなく施策を進めることができました。
また、問題が大きくなる前の小さな違和感に気づける機会も増えました。例えば、あるメンバーが「広告のクリック率が先週から下がっている」とチャットに投稿した際、過去に似た事象に対応したことのある別のメンバーが「競合の出稿状況を確認してみては?」とアドバイスし、早期に対策を打つことができました。
大事なのは、チームに合った運用を最適化し続けること
私自身も失敗しながらブラッシュアップしており、今も完璧にできているわけではありません。
例えば、チームメンバーに成果点を設けていても、その前段階で進捗を確認してしまったり、任せるべき部分を自分でまきとってしまったりなど、見えないことによる不安からマイクロマネジメントや成長を阻害する行動をとってしまうこともありました。
そんな時、上司に言われた言葉が、私のマネジメントに対する考え方を大きく変えてくれました。
「任せると決めたなら、途中で口を出すな。責任は自分が取る覚悟を持て。もし口出ししたくなるなら、それは任せる範囲が大きすぎるだけだ」
この言葉に、ハッとさせられました。メンバーの進捗が不安になるのも、細かく口出ししたくなるのも、突き詰めれば、信頼して任せられる「仕組み」をリーダーである自分が作れていないことが原因なのだと気づいたのです。
チームで成果を上げるのに、対面やリモートといった場所は本質的な問題ではありません。大事なのは、色んな手段のメリット・デメリットを理解した上で、今のチームにとって最適なコミュニケーションの形を考え、信頼関係の土台となる運用を設計し、改善し続けることではないでしょうか。



