
今年1月、マーケティングテクノロジーのメディアMarTechは、2025年が「AIエージェントの年」になると宣言しました。なぜこのように予測しているのでしょうか?
参考:AI agents: 2025 predictions | MarTech
「AIエージェント」という概念はまだ比較的新しいのですが、ここ数か月で明確なトレンドが見られます。Google、Salesforce、OpenAIをはじめとする多くのテック企業が、このインテリジェントなシステムの開発に大規模な投資を行っている状況です。AIエージェントへの期待は大きく、オンラインでのやり取りの方法を変えるだけでなく、ユーザーの購買行動、情報検索、意思決定の仕方まで変革すると考えられています。
まずは、AIエージェントとは具体的に何なのか、そして、私たちのデジタル行動にどのような影響を及ぼす可能性があるのかについて、詳しく見ていきましょう。


目次
AIエージェントとは?
AIエージェントとは、特定のタスクを自律的に実行できるAIベースのシステムを指します。ユーザーの入力や事前に定義されたルール、あるいは学習したパターンに基づいてデータを分析し、適切な意思決定を行いながら、さまざまなタスクを自動で遂行するのが特徴です。
ただし、このコンセプト自体はそれほど新しいものではありません。実際、すでに多くのツールや機能がAIエージェント的な機能を備えています。例えば、広告運用者が何年も前から利用しているGoogle広告のスマート自動入札は、設定された目標に基づいて自動的に入札を最適化するなどの機能です。それにもかかわらず、なぜ今、AIエージェントがこれほど注目されているのでしょうか?
その理由は、大規模言語モデル(LLM)の進化にあります。ChatGPTやGoogleのGeminiのような技術の発展により、AIは従来のチャットボットの枠を超えつつあるからです。AIは単なるチャットボットの枠を超え、より高度な判断や自律的なタスクの実行が可能になっています。従来のAIチャットボットはユーザーの質問に答えるだけでしたが、AIエージェントは情報提供を超えて、実際に行動し、複雑なプロセスを自律的に処理できるようになったのです。
例えば、従来のチャットボットは、「那覇でおすすめのホテルを教えて」と尋ねると、候補のリストを提示するでしょう。しかし、AIエージェントの場合、「5月10日から12日まで朝食付きで那覇のホテルを予約して」という指示に対して、ユーザーがほとんどそれ以上、手を加えることなく、自動的に予約を完了させることができます。
このように、AIエージェントは 単なる情報提供から一歩進み、ユーザーの意図を理解し、具体的なアクションを実行できる点で、従来のチャットボットとは大きく異なります。
インターネットで検索や購入するのは人間だけではなくなる?
AIエージェントは特定の領域において、人間がユーザーとして担う役割を代替できる技術です。つまり、単なるアドバイザーではなく、デジタル空間で自律的に意思決定し行動する存在とも捉えられます。
すでにこうした機能を備えている、または大きな可能性を持つAIエージェントとして、OpenAIの「Operator」や、Googleがテスト版として限定公開している「Project Mariner」などが挙げられます。

日本でも先日利用可能になった「Operator」は、ブラウザ上で自律的にタスクを実行できるAIエージェントで、ウェブサイトを訪問したり、フォームに入力したり、オンラインで商品を購入したりできるなど、人間がウェブインターフェースを操作するのと同じように作業を行えます。
Googleが開発している「Project Mariner」も似ているアプローチをとっています。現在のところ一般公開はされておらず、使用するにはウェイティングリストへの登録が必要となりますが、Chromeの拡張機能として、ウェブ検索をはじめ、ウェブページをナビゲーションし、タスクを自動化できます。
参考:Project Mariner - Google DeepMind
その他にも、対話型AI検索エンジンPerplexityが開発するAIのショッピングエージェントのように複数のテック企業から見えてくるアプリケーションの進化が目覚ましいです。
こうした流れを踏まえると、「ネットで検索し、購入する」行為は、もはや人間だけのものではなくなりつつあるでしょう。今後、AIエージェントがデジタル上で「ユーザー」として振る舞う場面が増えれば、私たちのインターネットの利用の在り方だけではなく、これまで「人間の消費者」を想定したマーケティングの前提も大きく変わる可能性を秘めています。
AIエージェントがデジタルマーケティングに及ぼす影響
最近、デジタルマーケティングの分野においてもAIエージェントへの注目が高まっていて、様々なユースケースが挙げられます。
まずは、効率化のドライバーとして期待されている模様です。
例えば、ウェブ広告キャンペーンを担当している広告運用者の代わりに、AIエージェントがリサーチやデータ分析の補助にとどまらず、Search Engine Landの記事「How AI agents are revolutionizing digital marketing」が示すように、分析を踏まえて、段階的解決策を作成し、その手順を実行するまでの役割を果たせるようになることが考えられます。
参考:How AI agents are revolutionizing digital marketing
さらに、AIエージェントの有望な活用領域として、パーソナライズされた顧客対応があります。AIエージェントはユーザーのサイト上の行動や購買履歴をリアルタイムで分析し、それに基づいて個別に最適化されたコンテンツやオファーを提示することも可能です。
参考:How to boost your marketing revenue with personalization, connectivity and data
上述の「Operator」でも垣間見えたように、AIエージェントの活用は企業側だけでなく、ネット上で独立した「ユーザー」としての役割を果たす可能性もあります。今後、インターネットを自主的に巡回し、ウェブサイトを訪問し、コンテンツをクリックし、さらには独自に購買を行うこともできるようになるのは時間の問題でしょう。
もし、インターネットユーザーとしてのAIが一般化すれば、その影響は非常に大きいと思われます。人間とAIシステムが同じコンテンツに対して大きく異なる反応をとる可能性があるため、企業はもはや人間のユーザーだけでなく、AIエージェントを「顧客」として意識し始める時代も来るのかもしれません。
規模はまだ小さいものの、この傾向は「Operator」に示唆されています。このAIエージェントはウェブ検索を行う際、主にMicrosoftの検索エンジン「Bing」を使用していますが、AIエージェントの大規模な普及によって、この状況が変わることもありそうです。
参考:OpenAI Operator: Preparing Ecommerce Brands for AI Shopping
現在、日本国内ではBingのシェアは比較的ニッチなものにとどまっていますが、「Operator」経由の検索数が増えれば、BingのSEOの重要度も変わってきますし、Microsoft広告の戦略的重要性が高まるはずです。
リスクにも目を向ける必要がある
AIエージェントは、企業と消費者の双方にとって非常に便利なツールとなる反面、こうした技術の普及に伴うリスクも懸念されています。

eMarketerが発表したCapgemini Research Instituteの調査によると、多くの経営層がAIエージェントの発展を概ね肯定的に評価しているようです。しかし、当調査では57%の回答者が「AIエージェントの生産性向上の可能性はリスクよりも大きい」と回答していることを裏返すと、残りの43%はリスクが同等またはそれ以上に高いと認識していることが分かります。
もしAIエージェントが今後、大規模で自律的にウェブサイトを巡回し、商品を購入し、意思決定を行うようになれば、オンライン環境はこれまでとはまったく異なるものになりかねません。
例えば、オンライン上のトラフィックの中に、かなり高い知能を持ったボットが増えるシナリオは、明確な規制がなければ、これまで以上に巧妙なオンライン詐欺の増加を招く可能性もあると言えます。そのため、AIエージェントには「何をできるか」ではなく、「何を許されるべきか」という視点で考えることが重要でしょう。
AIエージェントへの期待が高まる中、私たちはそのポテンシャルに魅了されるだけでなく、潜在的なリスクにも目を向ける必要があります。
AIがマーケティングの常識を覆すのか?
「たとえAIが広告を作成したとしても、最終的には人間に向けて発信されるものである」
AI時代の到来において、上記のような前提を持ち続けているマーケターは少なくないのですが、この確信は(部分的ではあっても)いつか揺らぐかもしれません。
なぜなら、AIエージェントがネット上で新たな「ユーザー」として、自律的に検索し、クリックし、購入を行うようになれば、デジタルマーケティングの基本的な仕組みやルール自体が変化する可能性があるからです。
もしかすると、企業は将来的に人間のユーザー向けに最適化するだけでなく、AIエージェントをターゲットにした広告配信やLPOなどを行う必要が出てくることもあり得る話です。年齢、性別、などといった従来のデモグラフィックに加え、「AI」という新たな変数が加わる未来が訪れるのも想像に難くありません。
このような動きは、AIエージェントの普及のしやすさに大きく比例するでしょう。現時点では、利用のハードルはまだ比較的高く、多くのAIエージェントはベータ版やテスト段階にあり、一般のユーザーにとってはほとんどアクセスできない状態なのも事実です。例えば、OpenAIの「Operator」も「GPT Pro」のサブスクリプションが必要であり、自由に利用できるものではありません。
しかし、OpenAIのCEOであるサム・アルトマン氏は最近、「AI技術のコストは毎年10分の1になる可能性がある」 と予測したように、それほど遠い未来の話でもないと言えます。
参考:OpenAI CEO Sam Altman admits that AI's benefits may not be widely distributed | TechCrunch
アルトマン氏の予測が実現すれば、AIエージェントはより多くのユーザーにとって手の届くものとなり、その普及速度と影響力は一気に加速することになるでしょう。
