
Googleアナリティクス4 プロパティ(以下、GA4)を利用していると、「年間データと月別データの合計値が合わない」「過去期間のレポートを確認するたびに数字がズレる」といった現象に気づくことがあるかもしれません。
これは膨大なデータを扱う際にGA4が全データではなく「一部のデータ」を抜き出して分析するサンプリング機能によるものかもしれません。
本記事では「サンプリング」の仕組みから適用の条件、回避方法まで分かりやすく解説します。

監修:
森野 誠之(運営堂)
運営堂代表。
名古屋を中心に地方のWeb運用を支援する業務に取り組む。豊富な社会・業務経験と、独立系コンサルタントのポジションを活かしてWeb制作や広告にこだわらず、柔軟で客観的な改善提案を行っている。
理系思考&辛口の姿勢とは裏腹に皿洗いを趣味にする二児のパパ。尊敬する人はゴルゴ13。


サンプリングとは
サンプリングとは、大量のデータを効率的に処理するために一部のデータを選んで分析に利用する方法です。たとえば、巨大な湖の水質を全て検査するのは困難なため、いくつかのサンプルを採取して全体の状態を推測する「サンプル検査」のようなイメージです。
GA4上ではイベント数やセッション数が非常に多い場合にサンプリングが適用されます。これによりシステム負荷を軽減し素早くレポートを提供することが可能になっています。
サンプリングが適用される条件
GA4では、データ量が一定の基準を超えると自動的にサンプリングが行われます。具体的な条件は以下の通りです:
- 標準版GA4プロパティ
- クエリごとに1,000万件のイベント
また、以下のような状況ではサンプリングが起こりやすくなります
- 長期間のデータ分析
例:1年間のデータを一括で解析するとイベント数が増えるため - 複雑なセグメントの利用
複数の条件を組み合わせると、対象となるデータが膨大になりやすい - 多くのディメンションやフィルタの同時利用
分析内容が複雑になるほど、処理対象のデータが増え、サンプリングのリスクが上がります
サンプリングの確認方法
GA4のレポート画面右上の通知アイコン「!」で確認できます。通知アイコンをクリックすると、サンプリングの適用状況を確認できます。
例: 「サンプリングデータ」や「サンプリング率(例:●●%)」といった表示が出ていれば、サンプリングが適用されています。
サンプリング率が高い(100%に近い)ほど、使用されるデータが多く、レポートの正確性が高い状態です。逆に、低い場合は分析結果にばらつきが出やすい状態です。
サンプリングの回避方法
サンプリングを回避し正確なデータ分析が必要な場合、以下の方法でサンプリングの影響を軽減することが可能です。
1. 分析期間を短くする
長期間のデータを一度に解析するとイベント数が膨大になるため、期間を四半期や月単位などに分けることで、一度に処理するデータ量を減らせます。
例:1年間の分析ではなく、月ごとにレポートを生成する。
2. 不要な項目を削減する
レポートに必要なディメンションやメトリクスだけを使用し、クエリの複雑さを軽減します。
例:複数のセグメントやディメンションを使うとサンプリングが発生しやすいため、分析に必要な項目だけを抽出する。
3. BigQueryへのエクスポート
GA4のデータをBigQueryにエクスポートすることで、サンプリングが適用されない生データに基づいた詳細な分析が可能になります。
ただし、BigQueryの利用にはSQLの知識が必要となるため、データ分析に慣れていない場合は、設定や活用方法を事前に学習しておくことをおすすめします。
※BigQueryとは?
BigQueryはGoogleが提供するクラウド型のデータウェアハウスで、大量のデータを高速かつ柔軟に分析できるサービスです。GA4と連携することで、サンプリングのかからない生データに直接アクセスでき、より詳細な分析が可能になります。
サンプリングの適用範囲
唯一、BigQueryと連携した場合のみ、サンプリングの影響を受けることなく生データを取得できます。 それ以外のレポートやツールでは、サンプリングの適用に留意して分析を行いましょう。
レポート / ツール | サンプリング適用範囲 |
---|---|
標準レポート | 適用される |
探索レポート | 適用される |
Looker Studio | 適用される(GA4をデータソースとする場合) |
API(Data API) | 適用される |
BigQuery | 適用されない |
サンプリングとしきい値の違い
サンプリングと混同しやすい概念で「しきい値」があります。両者は混同されやすいですが、適用される目的や条件が異なるため、正しく理解しておくことが重要です。
しきい値とは、GA4がユーザーのプライバシーを保護するために、特定の条件下でデータを隠したりぼかしたりする仕組みです。GA4では、対象となるユーザーに関するやデータ(例:年齢、性別、興味関心など)が含まれる場合に、しきい値が適用されます。
それぞれ違いは以下の通りです。
項目 | サンプリング | しきい値 |
---|---|---|
目的 | パフォーマンス向上 | プライバシー保護 |
適用条件 | データ量が多い場合。 | ユーザーに関するデータ(例:年齢、性別、興味関心など) |
影響 | 抽出されたデータを基に表示 | データが非表示またはぼかされる |
どちらもGA4のデータに影響を与える仕組みですが、しきい値はプライバシー保護を目的に適用され、サンプリングはデータ量が多すぎる場合に処理負荷を軽減するために適用されます。
そのため、しきい値は期間を長くすると解消されることがある一方で、サンプリングは期間を短くすると解消されることがあります。
サンプリングとしきい値の違いを理解することで、データの変動が「何が原因で起きているのか」判断できるようになりますね。
しきい値については以下をチェック:
GA360でのサンプリングの違い
GA4の有料版であるGA4 360ではサンプリング条件が緩和されたり追加のオプション機能が使用できます。
1. サンプリング条件の違い
標準版GA4:クエリごとに1,000万件のイベント
GA4 360:クエリごとに10億件のイベント(標準版の約100倍)
2. 精度の調整オプション(GA4 360のみ)
GA4 360では、レポートの精度をさらに高めるためのオプションがあり、「精度の高い結果」を選択することで、より多くのデータを活用した解析が可能です。
3. 非サンプリングデータのリクエスト(GA4 360のみ)
特定のレポートについて、非サンプリングデータをリクエストできる場合があります。
ただし、以下の点に注意が必要です
- しきい値の影響は残る
しきい値が適用されている場合、非サンプリングデータをリクエストしても、しきい値による制限(データの一部が非表示など)は継続します。 - レポートは読み取り専用
非サンプリングで生成されるレポートは読み取り専用のため、生成後にレポート内での編集や再加工はできません。 - 大規模データセットは生成に時間がかかる
イベント数が非常に多い場合、非サンプリングレポートの生成に時間を要する可能性があります。 - 非サンプリングでも厳密な実数と完全に一致しない場合がある
「非サンプリング レポート」と聞くと、すべての数値が正確な実数で出ていると思いがちです。しかし、GA4 / GA4 360ではユーザー数やセッション数などのユニークカウントを計算する際に、HLL++(HyperLogLog++) というアルゴリズムを使う場合があります。これは、大規模データを高速・低コストで扱うための近似手法であり、理論上はわずかな誤差が生じる可能性がある点に注意しましょう。
上限が大きく増える点はメリットですが、完全な非サンプリングデータを取り扱いたい場合は、BigQueryとの連携が必要な点、注意しましょう。
まとめ
GA4のサンプリングは、大量のデータを効率的に扱うために欠かせない仕組みです。しかし、分析の目的によっては予期しない数値のズレが生じることがあります。正確性を重視する場合は、分析期間を短くしたり、BigQueryの生データを活用するなどサンプリングを回避する方法を検討しましょう。一方、全体傾向を素早く把握したい場合はサンプリングの高速処理が役立ちます。
目的と状況に合わせてサンプリングを上手に使い分け、分析を効果的に進めていきましょう!
