
「次々とタスクを切り替えながら作業しているうちに、どれも中途半端なままで時間ばかりが過ぎてしまう。」
「あれもこれも同時進行で進めた結果、細部まで目が届かず、やり直しが増えてしまう。」
「頭の中で常に複数のタスクが渦巻き、不安や焦りが募って、心が休まる暇もない。」
こうした状況で仕事がうまく進まない原因は、複数のタスクを同時に進めようとすること、つまり「マルチタスク」にあるかもしれません。
私もかつて、仕事の量が増える中でマルチタスクに取り組む日々を送っていましたが、その結果、効率は落ち、ストレスは増すばかり。そこで実践したのが「マルチタスクをやめ、一つ一つのタスクに集中する」という方法です。この切り替えによって、タスク処理のスピードも質も大きく改善され、新しい挑戦の機会を得ることができました。
この記事では、なぜ「マルチタスクをやめる」ことが効果的なのか、その理由を解説するとともに、具体的にどのようにタスクを処理すれば効率やクオリティを向上させられるのかをお伝えします。


目次
なぜマルチタスクだと仕事が上手く進まないのか?
人間は2つの事を同時にできない
人間は本来、複数のことを同時に処理する能力を持っていません。マサチューセッツ工科大学(MIT)の論文によると「タスク切り替えのたびに脳が新しい情報に適応するのにエネルギーを使うため、生産性が大幅に下がること」が確認されています。
マルチタスクのデメリット4選
マルチタスクが非効率になる理由は、脳の働きや仕事の進め方に深く関係しています。以下の視点から、その根本的な原因を説明します。
1. 深い集中が妨げられる
複数のタスクを進めようとすると、脳は常に「次に何をするべきか」を意識しなければなりません。
そのため、1つの作業に深く集中する時間が減り、作業の質が下がります。特に創造性や分析力を必要とする仕事ではこれが顕著です。
2. 優先順位が曖昧になる
マルチタスクを進める中で、すべてのタスクが「同時に重要である」という錯覚に陥りやすくなります。
その結果、どのタスクを優先すべきか分からず、判断に時間を浪費したり、本当に重要な仕事を後回しにするケースが増えます。
上記のような状態にならないように、マルチタスクを抱え続けないことが大事です。
3. 知らず知らずのうちにストレスと疲労が蓄積する
常に複数のタスクを意識していると、脳が「やり残していることがある」と感じ続け、心理的な負担が大きくなります。このストレスが集中力や意欲を削ぎ、結果的に仕事の進みが遅くなるばかりか、休んでも回復しにくい状態に陥ります。
4. ミスが増える
タスクを頻繁に切り替えると、細かい確認や見直しが疎かになりがちです。これにより、ミスが増えて修正作業が必要となり、さらなる非効率を招きます。
これらの点を踏まえ、マルチタスクに悩む人はまず「複数の事を同時に処理している」という考え方をやめて「1つのタスクを複数個処理している」という考え方を持ちましょう。
まずは1つに集中しよう!シングルタスクのすすめ
複数の作業を同時に進めるマルチタスクに対して、1つの作業に集中し、順番に処理していく方法をシングルタスクと呼びます。
一見、マルチタスクの方が効率的に思えるかもしれません。しかし、実際にはタスクの切り替えに脳が余計なエネルギーを消費し、作業効率が落ちてしまうことなどかえって仕事のスピードが落ちることを説明してきました。
つまり、マルチタスクをやめることが重要なのではなく、タスクをシングルタスク化し、脳への負担を最小限に抑えることがポイントです。ここでは、シングルタスクを実践することで得られるメリットを紹介します。
1. 仕事のスピードが上がる
タスクを 細分化することで、各作業に手をつけやすくなります。
その結果、「どこから手をつけるべきか迷う時間」が減り、すぐに作業に移れるため、納期よりも早く進めることが可能です。
また、作業の工程が明確になることで、進捗状況を把握しやすくなり、無駄な待機時間を減らせます。
集中しやすい環境が整うことで、1つのタスクが完了するスピードが向上するのです。
2. 仕事のクオリティが高まる
シングルタスクを実践すると、1つの作業に集中できるため、注意が散漫にならず、ミスの発生を防ぎやすくなります。また、作業スピードが向上すると、その分余裕が生まれ、仕事のクオリティを高めるための時間を確保できます。
例えば、作業ごとに上司やチームメンバーからフィードバックをもらうことで、途中で方向性のズレを修正しやすくなり、最終的な仕上がりの質も向上します。
特に、「最終的なアウトプットを見せたら、やり直しを指示された」という失敗を防ぐためには、構成段階での確認を意識的に行うことが重要です。
3. ストレスの軽減
タスクを細かく区切り、一つずつ完了させていくことで、目に見える形で進捗を確認できるようになります。「ちゃんと前に進んでいるぞ!」という実感が持てることで、漠然とした不安やストレスを軽減できます。
さらに、仕事の進行状況が明確になることで、「あれもやらなきゃ、これもやらなきゃ」と思い悩む時間が減り、仕事のことが頭から離れない状況を防げます。これにより、休暇中や就寝前でも、仕事のストレスを引きずることなく、リラックスした時間を過ごせるようになるでしょう。
このようにシングルタスクの実践には大きなメリットがあります。
筆者おすすめ!シングルタスク化を実践する方法
マルチタスクをやめる重要性とシングルタスクにするメリットをここまでまとめてきました。
最後にシングルタスク化を実践する方法を紹介します。
1. タスクの全体像を把握する
目の前のタスクに集中するためにも脳で考えていることを一度リセットすることが大事です。
「あ、あれ忘れてた!」「この時間にやろうと思ってたタスクなんだっけ?」こう思った瞬間に切り替えコストが発生していて集中力が切れています。
そこでおすすめなのが、抱えているタスクを全部書き出してリスト化することです。
あらかじめすべてのタスクを書き出すことで、頭の中で管理していた曖昧な情報が明確化され、何を優先すべきかが一目で分かるようになります。
これにより、「どれから手をつければいいのか」と迷う時間が減り、タスクを1つずつ着実に処理が可能です。さらに、タスクを書き出すことで不安やストレスの要因となる「やり残し」の見逃しを防ぎ、集中力を高める環境を整えられます。
また、初めて取り組む仕事だったり、経験がない仕事で全体像が見えない場合は要注意です。完了までにかかる時間の予測精度が下がり、想定よりも時間がかかるケースが多いからです。
そのため、全体像が見えないと思った時は、まず5分間タスクに着手してみることをおすすめします。
2. 迷わず取り組めるタスクに細分化する
タスクリストを書き出す際のポイントがもう一つあります。それは、何を行えばいいか迷わないように1つのタスクを分解することです。
例えば、以下のような形で書き出す際に整理をしておくと何から手をつければいいのか迷わなくて済みます。
また、タスクの進捗も把握しやすくなり次にどの仕事に取り組むべきかの優先順位も明確になります。
- 例1:報告書作成
- 細分化:①データ収集 → ②構成作成 → ③文章執筆 → ④校正
- 細かく分けることで、それぞれの工程に集中しやすくなり、全体のスピードが向上します。
- 例2:プレゼン資料作成
- 細分化:①プレゼンの目的整理 → ②骨子作成 → ③キービジュアル作成 → ④スライド構成 → ⑤デザイン調整
- 工程を分けて取り組むことで、次に何をすれば良いかが明確になり、作業がスムーズになります。
3. 緊急性と重要度で優先順位をつける
タスクの細分化が完了したら優先順位をつけるようにしましょう。
優先順位を見極めるために、「重要度と緊急度のマトリクス」を活用するケースも多いでしょう。
しかし、毎回マトリクスで考えると時間もかかるためシンプルに考えるのもポイントです。
基本的に自分一人で完結する仕事は優先順位低く、誰かを巻き込む必要がある仕事は優先度高めに設定するようにしましょう。
例えば、資料作成を上司から依頼された場合はチェックしてもらう必要があるので、優先順位を高めて対応する。
頼まれてないけど補足の資料を用意できたらいいなと判断した場合は優先順位を低くして時間が余ったら対応するみたいな形ですみ分けられると良いでしょう。
4. スケジュールが現実的か点検する
最後のポイントは無理のない納期を設定することです。
タスクを書き出して優先順位までつけたものの、そもそも設定したスケジュールが破綻していたため、全ての行動が後ろ倒しになってしまったら本末転倒です。
そのため、一度スケジュールを書き出して終わりではなく、本当にこのスケジュールで問題ないかを確認する癖をつけましょう。
慣れないうちは自分だけで問題ないか分からないケースもあるでしょう。
その場合は上司や先輩に壁打ちして意見をもらい適切なスケジュールを設定できるといいでしょう。
シングルタスクを成功させるために押さえておきたい3つのポイント
シングルタスクを取り入れることで作業効率は向上しますが、実践する中で気をつけるべきポイントもあります。筆者自身も試行錯誤を繰り返し、いくつかの落とし穴に気づきました。ここでは、シングルタスクを成功させるために押さえておきたい3つのポイントを紹介します。
1. タスク管理はなるべくシンプルに
タスク管理に時間をかけすぎると、本来の目的である「仕事の効率化」と逆行してしまいます。タスク管理の目的は、きれいに整理することではなく、スムーズに作業に取り掛かれる状態を作ることです。
そのため、「タスクの整理に時間を使いすぎて、肝心の仕事に取り掛かる時間が減る」といった状況を避けましょう。最低限、「次に何をすべきかが明確で、すぐに行動に移せる」状態になっていればOKです。
2. タスク漏れを防ぐ仕組みを作る
タスクを書き出すことで、頭の中を整理し、目の前の作業に集中しやすくなります。しかし、これに慣れすぎると、一度書き出しを忘れたタスクが、そのまま消えてしまうリスクがあります。
筆者はこれに対し、次のような対策を行っています。
- タスクが発生したら即座にメモを取る習慣をつける
- メモを忘れないために、常に目につく場所に置く(例:ノートは常に机の上に)
- 1日の終わりにタスクリストを見直し、「抜けがないか」をチェック
とくにおすすめなのが、タスクが発生した瞬間にノートへ書き留め、デスクの上に常備することで、メモを取ったことすら忘れるミスを防いでいます。
3. 集中できる環境を整える
どんなにタスクを整理しても、周囲の環境が集中を妨げると作業効率は落ちてしまいます。 例えば、オフィスの雑談や通知音が気になってしまうことはありませんか?
- 不要な通知をオフ(メール・Slack・スマホのアラートなど)
- 周囲の雑音を減らす(イヤホンやホワイトノイズを活用)
- 集中できる場所を確保(オフィスなら会議室やリモートブースを活用)
特に、「集中力が続かない…」と感じたら、物理的に環境を変えるのも効果的です。例えば、カフェや静かなスペースに移動することで、集中しやすくなることもあります。
まとめ
筆者自身もこれまで生産性を上げたくて取り組んでいたマルチタスクに逆に悩まされていました。
当時の事を思い返すと常に複数のタスクと納期に追われていて、全ての仕事がぎりぎりに。そんな中提出した仕事はクオリティが低く追加のタスクができる悪循環でした。
常に「あれもやらなきゃ」「これも終わってない」という思いが頭から離れず、終業後や休日でも休んだ気がしませんでした。
しかし、「マルチタスクをしている」という意識を手放し、シングルタスクを実践したことで、状況は一変しました。目の前のタスクに集中できるようになり、作業効率が上がるだけでなく、仕事の質も向上。結果として、新しい業務やマネジメントへの挑戦の機会を得ることができました。
実は、多くの人が「マルチタスクをしている」ように見えて、実際には「1つ1つのタスクを高速で切り替えているだけ」なのです。もし、あなたがマルチタスクに忙殺されていると感じるなら、まずは「シングルタスクを意識すること」から始めてみてください。
