はじめての現場や慣れない仕事の前日、「失敗したらどうしよう」「周りに迷惑をかけたらどうしよう」と不安で眠れなくなる。そんな経験はありませんか?
私も同じでした。もともと失敗を極端に恐れるタイプで、撮影の現場に入るたびに頭の中が不安でいっぱいになっていました。けれど今では、そうした“怖れ”をうまく味方につけて、現場で落ち着いて進められるようになっています。
私が実践しているのは「頭の中で1日の流れを映像でシミュレーションする」という方法です。現場の動線や撮影順、想定トラブルまでをまるで映画のカメラワークのように再生しておくことで、当日は「次に何をすべきか」を自然に体が覚えている感覚になるんです。
これを話すと「そこまでやるの?」とよく驚かれます。でも、私にとっては“心を落ち着ける準備”です。方法は人それぞれで、重要なのはどんな手段であれ、自分なりに不安と向き合うこと。そして、その“恐怖心”を少しずつ前向きな力に変えていくことだと思っています。
この記事では、私がどうやって「失敗が怖い」という感情と向き合い、それを前向きな行動に変えていったのか、そのプロセスとそこから見えてきた学びをお伝えします。
目次
「絶対に失敗したくない」のに失敗してしまう悔しさ
私はもともと「何かミスをしてしまったらどうしよう」と常に不安を抱えており、「現場で邪魔になってしまうのでは」「周りから頼りないと思われたくない」という気持ちが強くありました。
当時の私は「当日全力で頑張るしかない」と本気で思い、一生懸命さだけを武器に乗り切ろうとしていたのです。
ところが実際には、それだけではうまくいかず、「せっかく頑張ったのに、どうして失敗してしまうんだろう…」と悩むことが増えていきました。
振り返れば、私が行っていたのは“気持ちだけ”の準備で、具体的に何をどう整えればいいのかが明確ではなかったため、当日に空回りしてしまうことが多かったのだと思います。
「努力=準備」ではなかった
たとえば運動会の撮影では、「絶対にリレーのゴールシーンを逃さないようにしよう」と強く思っていたにもかかわらず、実際にはゴールの瞬間を撮り逃してしまいました。
子どもたちがどのくらいのスピードで走ってくるのか、どの位置から狙えばベストな画角でゴールシーンが撮れるかという想定ができていなかったのです。
その時は、申し訳なさと恥ずかしさでいっぱいになりました。子どもたちや、親御さんにとっても絶対に外せないシーンだったにもかかわらず、期待を裏切ってしまったと思うと、悔しさや不甲斐なさがこみ上げてきたのを覚えています。
また、現場の撮影でも同じような経験がありました。確実に撮影を進めたいあまり、ディレクターに何度も「次はどんなカットでしたっけ?」「ここはどんなイメージですか?」と確認。自分から撮影のリードができずもたついてしまい、撮影カットを泣く泣く削って時間の帳尻を合わせたこともあります。
「撮影当日にこんなすり合わせをしているのか」と、同席したクライアントにも頼りなく思われてしまったと思います。その場で「この人はやるべきことが分かっていないのかな…」という空気が流れた気まずさは、今でも忘れられません。
本来なら「失敗したくない」という気持ちがあったはずなのに、実際には準備が私自身の不安をカバーしきれておらず、何をどう改善すればいいのか分からないまま気合いだけで現場へ飛び込んでしまう。そうした繰り返しを経て、「もう二度と同じ思いはしたくない」と強く願うようになりました。
この経験をきっかけに、「失敗したくない」と思う気持ちを、どうすれば具体的な“準備”に変えられるのかを考えるようになりました。
失敗を恐れるからこそ準備に徹する
今の私にとって“恐れ”とは、ブレーキではなくむしろアクセルになっています。昔は「怖い=自信がないことの証拠」だと思っていました。けれど今では、怖さを感じるほど真剣に取り組んでいる証だと考えています。
学校行事やモデルを呼んでの撮影など一度きりの現場では失敗が許されないため、「同じ後悔を二度としたくない」という気持ちが情報収集や段取りの強化を後押ししてきました。恐れがあるからこそ、段取りを細かく確認し、情報を集め、頭の中で何度も動線を描くようになったのです。
しかし、単にやることを箇条書きに並べるだけでは埋まらない“すき間”もありました。
それは、当日の自分がどう動き、どう判断するかを想像する力です。
そこで私が取り入れたのが、“頭の中で当日の流れを映像のようにシミュレーションする”というやり方でした。「今この場面で、自分は何をしている?」「次にどう動く?」と、
ひとつひとつの行動を再生していくと、事前に抜け落ちていたポイントが少しずつ浮かび上がってきました。
「この順番なら撮影がスムーズだな」「このカットは機材を替える必要があるかも」そうした小さな気づきの積み重ねが、当日の落ち着きを支えてくれます。
映像シミュレーションの4ステップ
あくまで私にあった方法ですが、具体的には、次のようなステップを踏んでいます。
①場所・時間・関係者・使う機材・必要な書類などを漏れなくリストアップする
②当日の流れを「自分が動き回る映像」として頭の中で再生する
③「ここが分からない」「想定できない」という部分を事前に解消する
④本番終了後に「どこがズレていたか」を振り返り、次に活かす
この映像シミュレーションを行うと、「ここのシーンは先に撮影したほうがスムーズそうだ」「このシーンはこの機材が必要になるかも」など、抜け落ちていた情報や対策を把握しやすくなります。
そうして不安な箇所をあらかじめ埋めておけば、いざというときも落ち着いて行動できるのです。
結局のところ本質は「怖いからこそ、徹底して用意する」ことに尽きると私は考えています。
失敗を恐れるほど成長できる。私が得た3つの学び
失敗を重ねるうちに気づいたのは、 “恐れ”や“不安”は悪者ではなく、成長のサインだということでした。 焦りや怖さを感じたときこそ、準備の質を見直すチャンスがあるのです。
ここでは、私が実際の現場経験を通して得た「恐れを前向きに変えるための3つの学び」を紹介します。
「不安」は準備不足のサイン
準備を重ねる中で、まず気づいたのは“不安を感じること”こそが本番を慌てず乗り切るための大事なサインだということです。何となく落ち着かないと感じるときほど、「失敗できないから、できるだけ情報を集めておこう」「あらかじめ動き方を考えておこう」という意識が働きます。
その結果、事前にやるべきことを洗い出しておけば、当日「あれがない」「これを忘れた」と焦る場面が減り、心に余裕が生まれるのです。
失敗を“痛い経験”で終わらせない
どれだけ念入りに準備しても、時には思わぬトラブルが起きたり、失敗してしまうこともあります。しかし、そこで「どうしてうまくいかなかったのか」「どんな部分の想定が甘かったのか」を振り返り、対策を講じるだけで次回の精度は格段に上がるのです。
ミスを“恥ずかしい思い出”で終わらせず“自分のアップデートのチャンス”と捉えることで、同じ失敗を繰り返すリスクを大幅に減らし、経験が強みに変わっていきます。
繰り返すほど応用力が上がり、自信が育つ
不安や恐れという感情は、決してネガティブな面ばかりではありません。
むしろ「失敗は絶対避けたい」という強い気持ちこそが、事前準備のモチベーションを高め、本番で慌てずに対応できるゆとりを与えてくれるのです。こうした準備を何度も積み重ねるうちに、自分の中に「もし何か起きても大丈夫」思える自信が育っていくのだと感じています。
「失敗が怖い」を味方にするための、“徹底準備”
私は、長い間「失敗を怖がる自分」が嫌で仕方ありませんでした。「もっと冷静に大きく構えられれば」と思う一方で、どうしても失敗することへの不安が拭えなかったのです。
ところが、実際に何回も失敗を経験して、「恐れるからこそ、考えられる。恐れるからこそ、準備ができる。」という事実に気づきました。
もちろん、どれだけ準備をしていても、思わぬハプニングが起きてしまうこともあります。ですが、あらかじめシミュレーションや対策をしていれば、トラブルに直面したときも「以前想定したケースに少し似ている」、または「このパターンではこう切り抜けられるかもしれない」と比較的落ち着いて対処できるようになるのではないでしょうか。
これはカメラマンだけに限らず、多くの職業や仕事への取り組み方に応用できる考え方だと思っています。不安がゼロになるわけではありませんが、“恐れ”を前向きに変換することで、むしろ仕事のクオリティが上がり、当日に「思ったよりもスムーズに進んだ」とほっとできる瞬間を増やせると思います。
もし私と同じように「失敗が怖い…」と感じている方がいれば、その感情を否定するのではなく、不安が自信に変わるチャンスだと思って取り組んでみるのも良いのではないでしょうか。



