「緊張して話せない」自分を変えたのは、“うまく話す”ではなく“正しく伝える”意識だった

「緊張して話せない」自分を変えたのは、“うまく話す”ではなく“正しく伝える”意識だった

人前で話すことに極度に緊張し、クライアントへの報告やディスカッションの場で思うように話せない…

以前の私は、まさにその壁にぶつかっていました。

どんなに自信のあるクリエイティブ案を作っても、その意図や成果をうまく伝えられず、ディスカッションについていけないこともありました。そんなもどかしさを感じる中で、「伝え方も含めてクリエイティブ案の一部なのではないか」と考えるようになりました。

そこから、話の組み立て方や話す前の準備を少しずつ工夫し、自分が携わったクリエイティブに関する数字や成果をどう伝えるか試行錯誤してきました。

今では、クライアントと同じ目線で課題や成果について話し合えるようになり、議論を通じてより良いクリエイティブを生み出せるようになりました。

本記事では、私がその過程で実践し、効果を感じた方法をご紹介します。


そもそも「上手く話す」とは?

「上手く話す」と聞くと、流暢なトークスキルを想像するかもしれません。しかし、ビジネスの場、とくにクライアントとのディスカッションにおいては、少し違うと私は考えています。

ビジネスの場で重要なのは、相手に意図が正確に伝わることです。

たとえば、プロジェクトの進捗報告の場面では、数字やクリエイティブをただ並べるだけでは意図や背景は伝わりません。「この数字は何を示しているのか」「この提案はクライアントの課題解決にどうつながるのか」を具体的に説明できるかどうかがポイントになります。

内容が明確で、意図や背景がきちんと理解されれば、たとえ緊張して言葉が少したどたどしくなっても問題ありません。意図を正確に伝えることで、相手に安心感を与え、信頼関係を築くことにつながります。

意図を正確に伝える力は特別なスキルではなく、心構えと少しの工夫で身につけることができます。

ここからは、一緒にその心構えと具体的なポイントを見ていきましょう。

ビジネスにおけるコミュニケーションの4つの心構え

ビジネスでのやり取りでは、単に情報を伝えるだけではなく、「いかに正確に理解してもらうか」「信頼関係を築くか」がとても大切です。

ここでは、打ち合わせや報告の場で意識したい基本の心構えを4つに整理していきます。

①一拍置く

クライアントから質問を受けたとき、焦ってすぐに答えようとしていませんか?

焦った状態のまま話すと、思考が整理されず、誤った情報を伝えたり、説得力に欠けた説明になりやすいです。

回答する前に意識して一拍置くことで、冷静に数字や資料を読み解く余裕が生まれ、論理的な思考が働きます。間を取ることで、相手にも考える時間を与え、双方の理解が深まるという効果もあります。

「間を取ること」は、話すスキル以前に、思考の質を高めてくれるのです。

② 相手を観る

緊張していると、自分の話す内容に意識が集中しすぎて、つい一方通行なコミュニケーションになりやすくなります。

その結果、せっかく成果改善のために用意した提案や、成果が良かった施策の報告も相手にポジティブに伝わらないという結果になってしまうことがあります。

よく、「緊張してしまう場合は、相手の顔をカボチャだと思え」といったアドバイスを耳にすることもありますが、ビジネスの場ではあまりおすすめできません。

相手の表情や態度を見ずに話してしまうと、聞き手の反応を遮断してしまい、一方通行のコミュニケーションになりやすく、相手の信頼を損なう可能性もあります。

相手の表情や仕草から「理解できているか」「興味を持っているか」を観察する意識を持ちましょう。

③自分の言葉で伝える

資料を「まとめる」ことと、会話の中で相手に伝わるように「話せる」ことは違います。

資料をそのまま読み上げるだけでは、相手は情報を“受け取るだけ”の状態になり、理解は浅くなってしまいます。自分の言葉で話せるようになるには、数字や成果の意味を自分なりに理解し、背景や意図を整理しておくことが大切です。

④ゴールから逆算する

話し始める前に、「この打ち合わせのゴールは何か」を明確にしておきましょう。

「この提案で何を決めたいのか」「どの課題を解決したいのか」を逆算して話すと、順序や優先度が整理され、脱線が減ります。その結果、相手は話の全体像を理解しやすくなり、納得感を持って議論に参加できるようになります。

相手に「意図が正しく伝わる」4つのポイント

意識を整えたら、次は「実際にどう話すか」です。

どれだけ考え方を理解していても、話すときの間の取り方、話の組み立てで、相手に伝わる印象は大きく変わります。

ここからは、実践の場で「正しく伝わる」ためのポイントを紹介します。

① 一拍置くときは一言添える

私は質問を受けた瞬間にすぐ答えを出さず、「少し考えさせてください」と一言添えて一拍置くようにしています。

ほんの2〜3秒でも、思考を整理する時間を取ることで、話の筋道が整い、説得力が増すからです。

何も言わずに黙ってしまうと、相手に不安や気を遣わせてしまうことがあるので、一拍置くときは必ず一言添えるようにしましょう。

シチュエーション自然に一拍置くひとこと
すぐに答えが出せないとき・少し考えさせてください。
・一度整理してからお伝えしてもよいですか?
質問の意図を確認したいとき・すみません、もう少し具体的に伺ってもいいですか?
・つまり〇〇ということですか?
想定していなかった質問をされたとき・面白い視点ですね。少し考えさせてください。
・確かにその観点は抜けていました。今の時点でお答えできる範囲でお話しすると、
相手の反応を見ながら話を整理したいとき・ここまででご不明な点ありますか?
・一度ここで区切って整理してもいいですか?
話の途中でうまく言葉が出てこないとき・少し考えながら話しますね。
・整理しながらお話ししてもいいですか?

間を取ると不自然に思われるのでは、と感じる方もいるかもしれません。

しかし、実際のビジネスの場では、多少時間がかかったり、言葉がスラスラと出てこなかったとしても、「少し考えながら話しますね」といった一言を添えて根拠を明確に話す方が、相手には好印象です。

②リアクションを手がかりに、伝え方を調整する

相手の顔が見える状態にしよう

相手の反応を見るには、まず「顔が見える状態」でなければいけません。対面では相手の表情が見えるのは当然ですが、WEBミーティングではどうでしょうか。

資料を投影したまま話していて、気づけば画面に資料しか映っていない。そんな経験はありませんか?参加者が多い場合、初期設定のままだと全員の顔が表示されず、反応がわかりにくいこともあります。

そんなときは、次のような工夫を試してみましょう。

  • モニターのレイアウトを分割して、資料と参加者の両方を表示する
  • ミーティングツールの設定で全員の顔が見えるようにする

ちょっとした設定の見直しだけで、相手の表情を見ながら話せるようになります。

表情やしぐさから、次の言葉を選ぶ

普段の社内ミーティングなどで、相手の表情や仕草を観察して、それに合わせた対応の練習をしましょう。

相手が理解していないサイン(眉間にシワ、視線が泳ぐなど)、興味を持っているサインなどをキャッチできるようになると、その場で補足や確認ができ、議論の質が大きく変わります。

▼基本的な、表情や行動から読み解ける相手の状態と適切な対応方法

表情や行動読み解ける相手の状態対応
・大きくうなずく
前のめりで聞いている
・ポジティブな相槌
メモを取っている
・興味がある
・納得している
・さらに深掘りしたい
話していた軸で、より具体的な話をする。
首を傾げる
眉間に皺を寄せる
相槌が著しく少なくなる
・納得できていない
・理解できていない
・疑問点がある
「ここまでで疑問点はありませんか」
「この部分について、理解できましたか?」
など、疑問を抱いている、納得のいって
いない箇所を特定する。
特定したら、それに対しての説明をする。
一度説明したことについては、
相手の知識レベルに合わせて
わかりやすく説明する。
口を開けて話そうとする
前のめりに何かを伝えようとする
・発言したい「何かここについてお話し
しておきたいことはありますか。」
など、相手に話を振り、発言の機会を設ける。

まずは、相手の表情や動きをよく観察し、その理由を考えましょう。そして、どのように対応すれば相手と良いコミュニケーションが取れるかを考えて対応することが大切です。

③”自分の言葉”は即興のようで、実は準備が9割

打ち合わせや報告の場で、自然に話しているように見える人ほど、実はしっかり準備をしています。

資料をただ読み上げるだけでは、相手は情報を“受け取るだけ”の状態になり、理解も浅くなりがちです。

伝える内容を自分の中で整理し、背景や因果関係、検証の経緯などを踏まえて話せるようにしておくことが大切です。そうすることで、聞き手は自分の頭で考えながら理解を深めることができ、対話としての質も高まります。

ここからは、「自分の言葉で伝える力」を高めるために、私が実践してきた4つのステップをご紹介します。

ステップ1 伝えることの核を言語化する

まずは「この資料で伝えたいことは何か」を1文で表現してみましょう。

データ : コンバージョンが増えた

伝えたいこと : 課題だった新規顧客の獲得がうまくいき、売上が伸びた

このように、ただデータを並べるのと、背景や検証の経緯まで含めて伝えるのとでは、自分の理解も相手に与える印象も変わってきます。

ステップ2 ストーリーを整理する

ただデータを報告するのではなく、「伝えたいこと」を正確に伝えるためにストーリーを整理しましょう。

  • なぜこの話をするのか(背景)
  • 現状はどうなっているのか(結果)
  • 次に何をすべきか(次のアクション)

話す順番を整理するだけで、背景と検証内容・結果がつながり、次に何をすべきかまで、連続した理解を促すことができます。

ステップ3  声に出して練習する

整理したストーリーを意識して、実際にクライアントへ説明するつもりで声に出して読んでみましょう。

大きな声でなくても構いません。声に出すことが大事です。

「伝えたいこと」や「ストーリー」を意識して実際に説明することで、曖昧な箇所や足りない情報に気づけます。頭の中で読んでいるだけだとスッと流してしまう内容も、声にすると引っかかりが見えてくるのです。

ステップ4 質問を想定する

最後に、相手からどんな質問が来そうかをリストアップし答えを用意しておきましょう。

  • この数字の根拠は?
  • 予算はどれくらい使ったの?
  • なぜこの順番で進めたの?

たとえば、こうした質問を用意しておくと、急な質問でも具体例や数字を交えて答えられるので、議論がスムーズに進み、信頼感も生まれます。質問を想定する過程で自分の理解も深まり、より自分の言葉で説明しやすくなるのです。

④伝える前に、“ゴール”を決めておく

話しだす前に、この提案や話し合いでのゴールを明確にしておくと、成果や提案の単なる報告・共有ではなく、相手が理解しやすくなり、信頼感も生まれます。

  • 何を話すか
    クリエイティブ案の意図を理解してもらう
  • どうなっていると理想か
    CVRを5%改善できる根拠を理解してもらい、次の施策の方向性を決定する
  • 何を話すか
    数字を報告する
  • どうなっていると理想か
    目標未達の原因と、緊急で取り組むべき改善策に合意をもらう

このように、「何を話すか」ではなく、「どうなっていると理想か」を考え、ゴールを設定することで、話しの流れを逆算しやすくなります。その結果、脱線を防ぎ、本当に伝えたい成果や改善ポイントを明確にすることができます。

もちろん、会話の場ですべてのステップを細かく意識するのは難しいかもしれません。

それでも、ステップ3で挙げた要素のいくつかを頭に置くだけで、会話の中で相手と情報を補い合いながらゴールに近づきやすくなります。

伝える力は、小さな工夫の積み重ねで育つ

「話し方を変えよう」という気持ちで頑張るだけでは、うまくいきません。

大切なのは、具体的な手段を持つことです。

  • 一拍置く
  • 相手の反応を観る
  • 自分の言葉で説明する
  • ゴールを意識する

こうした小さな工夫を積み重ねることで、緊張を乗り越え、相手に価値ある情報を届けられるようになります。

この記事が、「うまく話そうとするほど緊張してしまい、伝えたいことが正しく伝わらない」と悩んでいる方にとって、一歩踏み出すきっかけになれば嬉しいです。

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