「海外向けの越境ECサイトを立ち上げたけれど、思ったほど売れない」
「越境ECの施策で失敗したが、何がいけなかったのかいまいち分からない」
実は、そんな話は決して珍しくありません。原因をたどっていくと、多くの場合に共通しているのが「ローカライズの甘さ」。
越境ECにおいて、母語も文化も異なる海外ユーザーの信頼を勝ち取るためには、単なる「翻訳」を超えたローカライズが重要です。
本記事では、広告運用やクリエイティブ制作の現場で陥りがちなローカライズの落とし穴と、成功に導くための6つのポイントを解説します。
目次
「ローカライズ=翻訳だけ」ではない
まず「ローカライズ」と聞くと単なる「翻訳」と思われがちですが、本来は現地の文化・購買行動・メディア消費習慣などに合わせて、商品やコンテンツを最適化することを指します。
ただ言葉を別の言語に置き換えただけでは、海外のユーザーに「伝わらない」「信頼されない」そして最終的に「買われない」という壁を越えることはできません。
たとえば、日本語が不自然であったり、見慣れない決済方法しか用意されていない海外サイトでは、購入をためらう方が多いはずです。この言語やUI、仕様の違和感や不便さは、海外のユーザーにとっても同様に、購買意欲を大きく削ぐ要因になります。
だからこそ、表面的な翻訳で終わらせず、現地の文化や購買習慣にまで踏み込んだ「ローカライズ」ができるかどうかが、越境ECの成否を分ける重要なポイントになります。
よくあるローカライズの落とし穴
商材によってローカライズの中で苦労する部分は異なるかと思いますが、よくありがちなローカライズの落とし穴と、成功に導くための具体的なポイントを6つにわけて整理していきます。
① 翻訳の質:AI翻訳だけでは不十分
DeepLからGoogle翻訳、ChatGPTまで、機械翻訳の精度は近年大幅に向上しました。サイトコンテンツや広告文の翻訳を効率化できるようになった一方で、これらのツールが完璧ではないのも事実です。
越境ECのコンテンツ翻訳でなくても、業務の中でAIを使って英語の記事を日本語にした経験がある方は多いはずです。その際、「なんとなく意味は分かるけれど、所々に違和感がある」と感じたことはないでしょうか。
情報収集目的の記事なら多少の違和感は許容されても、集客や購買促進を目的としたコンテンツではそうはいきません。
日本語が怪しいECサイトでクレジットカード情報の入力を躊躇した経験はないでしょうか。英語ネイティブにとっても、わずかな言葉のズレが信頼を損なうきっかけになり得ます。
たとえば、下記のアナグラムの公式サイトの文章を例に考えてみましょう。

この文章をChatGPTに「英語に翻訳して」と頼んだときに、実際に違和感があった箇所がいくつかありました。

それぞれ細かいことかもしれませんが、この小さい違和感の積み重ねで「このサイトは大丈夫?」という不信感につながりやすくなります。
もちろん、機械翻訳を使ってはいけないわけではありません。ただし、翻訳の自然さは信頼度にも直結するため、公開前のネイティブチェックは必須です。
専門用語や業界用語が不自然に訳されていないか、固有名詞や慣用句が直訳されていないかなど、確認すべきポイントは多岐にわたります。
理想を言えば、ネイティブまたはその言語に堪能な現地在住経験者によるチェックを経て、できる限り「自然な表現」に磨き上げるようにしましょう。
② USP(強み)のズレ:何が響くかは国によって違う
「なぜ海外ユーザーがわざわざ日本のショップから物を買うのか?」
その理由を考えることが、ローカライズを考えるうえで重要な視点です。
日本人にとっては“当たり前”が、海外のユーザーには響かないことがあります。
一方で、「日本製=品質が高い」「日本の文化への憧れ」といった、”日本ならでは”の熱量が、購買動機になるケースも少なくありません。
例えば、私が海外にいて日本語を勉強中の時に、日本語を学ぶ人たちの間に流行っていたのが「日本の文房具」でした。(現在でもそうですし、仮に日本語を勉強しなくても知る人ぞ知るレベルで人気が高いです)
今や完全に日本の文房具に慣れてしまっている私ですが、欧米人の感覚を呼び戻して考えると、確かにすごいんです。ペンやノートの書き心地の良さから、消しゴムの消しやすさ、赤い暗記シートの便利さまで、日本でいう「当たり前」が海外にしてみれば驚くほどのクオリティだと言えます。
実際、海外の大規模掲示板サイト「Reddit」では、日本の文房具について語るコミュニティやスレッドが複数立ち上がっています。

参考:https://www.reddit.com/search/?q=japanese+stationery
つまり、日本人にとっては日常生活でおなじみの「文房具」に過ぎなくても、海外のユーザーにとっては「日本のもの」という文脈自体が特別感を作るUSPになっています。
文房具に限らず、日本人が当然だと思う価値と、海外ユーザーが魅力を感じるポイントには、ギャップが生じがちです。こうした価値認識の違いに気づけるかどうかが、越境ECの成果を左右します。
本来打ち出せるはずの強みを活かさないのはもったいない。国内向けの広告文やコンテンツをそのまま翻訳するのではなく、現地ユーザーの視点でUSPを再定義しましょう。
③ ナビゲーション設計:違和感がサイトの離脱につながる
ユーザーがサイトから離脱するポイントは、国や文化によって異なります。ユーザーは新しいサイトを訪れたとき、無意識に「自国のWebサイトの体験」を基準に、見やすさや使いやすさを判断するものだからです。
海外向けに展開する際は、現地ユーザーの"当たり前"から外れていないか、UIやナビゲーションを確認しましょう。
例えば、日本のランディングページでは、縦に長く、情報をじっくり読み込ませる設計が一般的です。一方で、欧米のユーザーにとってはこの構成は馴染みが薄く、離脱の引き金になりかねません。
※過去に海外のカンファレンスで知り合ったアメリカとカナダの広告運用者に、縦に長い青汁のLPを見せた驚きの顔を未だによく覚えています。
そのため、集客したい海外ユーザーの現地で主流となっているサイト構成やUIを参考にしながら、できるだけ自然な購買体験に合わせたUI/UX設計を行うことが求められます。
また、サイトの仕様自体が整っていても、日本語から英語に翻訳したサイト内に日本語コンテンツが残っていることもあります。

英語のボタンをクリックしたのに日本語コンテンツに遷移すると、ユーザーは不安を覚え「このサイトはやめよう」と離脱しかねません。サイト全体をローカライズするか、リンク先の言語を明示しておくとよいでしょう。
④サイズや単位表記:アパレルは特に要注意
アパレルECでは、サイズ表記のローカライズに特に注意が必要です。
「Mサイズ」という表記が同じでも、日本と欧米では寸法やフィット感が異なります。実際、アメリカと日本のメンズS・M・L表記を比較すると、概ね1サイズ分のズレがあります。

参考:USサイズ(米国)と日本サイズの違いをアイテム別&ブランド別に徹底比較!
購入前に気づいて離脱するならまだしも、サイズを勘違いしたまま注文されると大きな不満につながります。海外からの返品・交換はコストも工数も膨らみがち。「サイズが合わない」問題は、事前に防ぐ設計が欠かせません。
サイズが合わない問題への対策として、現地規格への換算表を掲載したり、「着用モデルの身長・体重」を併せて記載したりすることで、ユーザーは安心してサイズを判断できます。
また、アパレルに限らず、他の商材でも商品のサイズは「cm」なのか「inch」なのかなど、数値や単位の表記は国によって違う場合があります。
他のローカライズのポイントと同様に、集客したい海外のユーザーの習慣や基準に合わせた数値・単位表記を行うことで、サイトのUX改善だけでなく、購入後トラブルの防止やブランドへの信頼向上にも繋がるでしょう。
⑤ 決済・配送:購入直前の不安が離脱につながる
日本ではクレジットカードが主流ですが、国によって一般的な決済方法は異なります。欧米ではデビットカードやPayPalなどデジタルウォレットの普及率が高い傾向です。

出典:平成28年度 我が国におけるデータ駆動型社会に係る基盤整備 (電子商取引に関する市場調査)(経済産業省)(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/statistics/outlook/h28report2.pdf)
一方、中国ではAliPay、WeChatPayといったモバイル決済サービスが圧倒的なシェアを占めています。

このように、世界規模で見ると決済手段は細分化しています。すべてに対応するのは現実的ではありません。
ただし、現地ユーザーは「いつもの方法で支払いたい」と考えるため、主要な決済方法に非対応だと購入直前の離脱リスクが高まります。
配送情報の分かりづらさも、購入直前の離脱要因になりがちです。配送対象国なのか、送料はいくらか。これらが不明確だと、ユーザーは不安を感じて購入をためらいます。現地ユーザーの常識に合わせた決済手段と明確な配送条件の提示が、コンバージョン率を左右するでしょう。
⑥ フォーム設計:記入欄や連絡手段が日本仕様のまま
さらに意外と見落とされるのがフォーム部分のローカライズです。
「全角しか使えない」「文字数制限が厳しい」など、日本仕様のままでは海外ユーザーが入力できません。せっかくフォームまで来たユーザーを逃さないよう、現地の名前や住所フォーマットに適合させる必要があります。
海外のユーザーは少し不便を感じただけでも、その時点で離脱してしまうことがあるため、各入力欄は必要な情報を無理なく記入できる形にしておきましょう。
また、特に注意したいのが、予約フォームや問い合わせフォームにおける連絡手段の設計です。飲食店や体験型サービスの公式サイトでは、連絡方法が「LINEのみ」など、日本国内向けの仕様のままになっているケースも少なくありません。

総務省の調査によると、日本国内におけるLINEの利用率は全年代で91.1%と圧倒的です。

参考:令和6年度情報通信メディアの利用時間と情報行動に関する調査 報告書 令和7年6月 総務省
一方、世界全体ではLINEの利用率は低く、主要なメッセージングアプリとは言えません。

参考:Digital 2025: Global Overview Report — DataReportal
そのため、海外ユーザー向けのフォームでは、メールアドレスや現地で人気の連絡手段を用意しましょう。
そうすることで、ユーザーにとっての心理的ハードルが下がるだけでなく、トラブルや不安が生じた際にも、より柔軟に対応が可能になります。
フォームは、コンバージョンの最終地点です。せっかくフォームまで来てくれているのに、ゴール一歩手前での離脱は防ぎたいところですね。
ローカライズは「信頼づくり」そのもの
ローカライズの本質は、単なる翻訳ではなく、現地ユーザーに信頼されるユーザー体験をつくることです。
文化や価値観を踏まえた表現設計を起点に、ページ構成、導線、決済・配送を現地基準に合わせ、継続的に検証・改善する姿勢が欠かせません。何がUSPになるか、どこが「見やすい」「買いやすい」と感じられるかは国ごとに異なります。
アクセス解析やヒートマップを活用し、実際の行動データをもとに調整していきましょう。
上記で挙げた事例はあくまでも一握りのポイントですが、これらができているかどうかで、ユーザーの反応は大きく変わります。
越境ECでは、言語の正しい使い方と同じくらい文化や習慣の違いが成果を左右するため、日本で当たり前とされている前提を一度疑い、海外ユーザーの視点で自社サイトを見直すことこそが、越境EC成功への第一歩と言えるでしょう。



