
「撮影現場の空気感が重くクライアントや出演者との壁がありやりづらい」
「撮影には満足してくれたはずなのにそれ以降依頼がない」
こんなことはありませんか?
撮影の現場では、いくら高い技術力を持っていても、それだけでクライアントや出演者に信頼されるとは限りません。
実際に仕事が絶えないカメラマンは技術力だけではなく別の”なにか”があり、私も「そこに近づくことはできないか?」「そのためにはどうしたらいいのか?」を考えるようになりました。
そうして多くの現場に立ち会ううちに、クライアントから圧倒的な信頼感があるカメラマンは共通してコミュニケーションも大切にしていることがわかったのです。また面白いことに、撮影が円滑に進むか、苦労してしまうかも現場での振る舞いによって左右されそうなことがわかりました。
私自身も人物や商品のスチール撮影からムービー撮影までさまざまな現場を経験していますが、数多くいるカメラマンの中でも「またお願いしたい」と思われるか、「今回だけ」で終わってしまうかは技術力だけではなく短い撮影時間の中での振る舞い次第だと実感しています。
この記事では、「技術はあるはずなのに、なぜか上手くいかない」と悩むカメラマンのあなたへ、私が実践している「初対面でも信頼されるための4つのポイント」を、実体験を交えてご紹介します。


目次
ポイント1:最初の挨拶と自己紹介は、撮影の成否を分ける「段取り」
私がまだ駆け出しのころ、「ただ撮影するだけだ」という意識だけで現場に入り、軽い挨拶で済ませてしまったことがありました。自己紹介も名刺交換もせず撮影を始めた結果、どんな役割なのかがクライアントに伝わっておらず撮影の変更箇所も「聞いていません」状態になってしまったのです。
予期せぬ事態への対応に追われ、焦りと不甲斐なさで視野が狭まってしまい、普段なら防げたはずのミスを連発。その結果、最終成果物の品質をも低下させてしまいました。
これは「この現場の責任者である自分が何者であるか」の周知を怠ってしまったことが原因でした。
この経験を通じて、最初の挨拶と自己紹介は単なる形式ではなく、その日の撮影の成功を左右する最も重要な「段取り」なのだと痛感しました。
こうした失敗を防ぐためにも、初対面のクライアントや出演者と会ったら、まず目を見て挨拶し、「本日の撮影を担当する、カメラマンの〇〇です」と自分の役割を明確に伝えることが大切です。
挨拶や自己紹介は単なるビジネスマナーではありません。それは「私がこの場の撮影をリードし、成果物に責任を持つプロフェッショナルである」という意思表示になります。このひと手間が、相手に安心感を与え、「業者」ではなく「信頼できるパートナー」へと変えてくれるでしょう。
ポイント2:感謝と敬意が現場の雰囲気をつくる
「クライアントがいると監視されているみたいでやりにくい」
「出演者には費用を払っているんだからぞんざいに扱っても問題ない」
もしかしたらそう思っていませんか?もしそうであればその考え方が態度に表れ、現場の雰囲気を悪くしているかもしれません。
撮影のために時間を作り立ち会ってくれるクライアント、香盤表(撮影の時間進行や段取りを記したスケジュール表)や台本を読み込んで準備をしてくれた出演者。撮影のために動いてくれることは決して当たり前ではありませんので今すぐに考えを改めましょう。
マイナスな感情や高圧的な態度はすぐに伝わってしまうのと同様に、ひとりひとりに感謝と敬意を持って接することで相手にも伝わります。こちらの態度を変えるだけで現場の雰囲気が明るくなり、笑い声が絶えず、クライアントや出演者からアイデアが飛び出すような場に変えることができます。
名前を呼ぶことは「信頼の第一歩」
例えば、初めて会う相手でも名前を覚えてもらえると、親近感が湧きませんか?
クライアントや出演者の名前を覚えることは感謝を伝え、心理的な距離感を縮めるために良い方法のひとつです。名前を覚えることで相手も「自分のことを見てくれている」と感じ、積極的にコミュニケーションをとろうとしてくれるようになります。
複数人の関係者が参加する撮影では、的確に指示を出すためにも名前を覚えることは大切です。クライアントを呼んでチェックをお願いする際や、複数人の出演者それぞれに指示を出す場合など、名前を呼ぶことで現場を円滑に動かすことができます。
丁寧な指示がプロとしての安心感を生む
出演者・スタッフへの対応は意外と見られているものです。撮影時間もタイトで粗雑になってしまいがちですが丁寧であればあるほど、「このカメラマンは撮影現場に慣れている」という安心感を与えられます。
実際、声の掛け方や指示の出し方が適切であれば、出演者もイメージが湧きやすくリラックスして撮影に臨めるようになり、それを見ているクライアントも「安心して任せられる」と感じるのです。
また、気持ちよく撮影に参加できるカメラマンというイメージが定着すると、出演者にとっても「次も一緒に仕事をしたい」と思ってもらいやすくなります。結果的にキャスティングもスムーズになり、撮影の仕上がりだけでなく、長く続く関係性にも発展します。
撮影後のひと言が次につながる
さらに、撮影終了後の一言であっても「お疲れさまでした」「ありがとうございました」としっかり伝えることは大切です。現場でお見送りをするだけでなく、撮影が落ち着いたタイミングで当日中にメールなどで改めて感謝を表明すると、クライアントや出演者に対してより誠実な印象を与えられます。
私は、撮影中に良かったことや助けられたことなどの具体的なエピソードを添えて感謝のメールを送っています。定型文での文章よりも、参加者ひとりひとりに感謝の気持ちを伝えられると考えています。
この小さな気遣いこそが「また一緒に仕事をしたい」と思ってもらえるきっかけとなり、継続的な依頼や次の案件につながるのです。
ポイント3:クライアントと一体になって撮影を成功させる
撮影後にクライアントから「こう見せたかったわけじゃないんだけど…」「使える素材がない」と言われて困った経験はありませんか?クライアントとカメラマンの間で商品の見せ方やイメージが異なるとこういったトラブルが起きるリスクが高まってしまいます。
商品やサービスの魅力を最大限に表現するためには、「商品の何を強調したいか」「避けたい見せ方や表現は何か」を確認することが不可欠です。なので、私が撮影を進めるうえでいつも大切にしているのは、カメラマンとクライアントが一体となって撮影を行う「チーム」としての意識です。
クライアントは普段から商品を扱っている分、カメラマンである私たち以上に商品についての知識や見せ方のコツを把握していることが多いです。そのため、撮影を進める際には、クライアントの知見を積極的に取り入れたほうが良いと考えています。
実際の撮影中も、私はよく「この見せ方はイメージに合っていますか?」「こういう感じで撮れていますがどうでしょう?」といった確認を挟むようにしています。クライアントの意見を取り入れることで手戻りのリスクが減らせることはもちろん、一緒に創り上げる「ワクワク感」が生まれ、現場の雰囲気も良くなります。これによりお互いが納得できる成果物に仕上がりやすくなり、長期的な信頼関係を築くことができるのではないかと実感しています。
ポイント4:品質のこだわりこそが信頼の礎
撮影現場の雰囲気が最高で、クライアント・出演者ともに和気あいあいと撮影が進められた。しかし、後になって写真や映像を確認してみると、「画角がイマイチだった」「細部にしっかりピントが合っていなかった」となってしまっては台無しです。
どんなにコミュニケーションが円滑でも、最終的な成果物の品質が伴わなければ、これまでの努力は報われず、信頼も一瞬で崩れ去るものです。
カメラマンとして何より大切なのは、やはり品質へのこだわりだということは忘れてはいけません。品質へのこだわりという土台があるからこそ、長期的に信頼を築き上げられるのだと強く感じています。
そこで、私が品質を守るために心がけているのは次の3つです。
撮影の流れを徹底的に頭に入れる
私がまず重視しているのは、香盤表(スケジュール表)を詳細に読み込み、撮影シーンや出演者の動き、スタッフの配置を具体例にイメージすることです。
例えばシーンの切り替えや、撮影場所の移動がある場合に、事前に把握をしておかないと慌てて機材を移動させたりライティングを組みなおしたりと現場が混乱してしまいます。スケジュールの把握ができていることで心の余裕が生まれ、安心して品質の向上に注力できるのです。
商品を丁寧に扱い、魅力的な見せ方を探究する
撮影対象の商品をいかに魅力的に見せるか、その最適解を探り続ける姿勢も欠かせません。「商品の向きをすこし変えてよりサイズ感が伝わるようにならないか」といった「どうすれば商品が最も魅力的に映るか」を意識することをはじめ、「汚れや指紋がついていないか」「ロゴが正面を向いているか」といった商品の汚れや避けるべき商品の見せ方も常に意識するようにしています。
この点をおろそかにすると、クライアントから「配慮が足りない」と受け取られかねないため、常に画面の細部にまで気を遣いこだわることを心がけています。
必要な指摘を遠慮なく行う
クライアントや出演者と親密になってくると、どうしても指摘しづらい雰囲気になることがあります。しかし品質を守るためにはNGカットを発見したらその場ですぐに伝え、改善案を提案する姿勢が大切です。
たとえば、商品の置く位置が少しずれていたり、出演者の演技がうまくいかなかった場合でも、遠慮なく意見を出して修正してもらうようにしています。そのほうが最終的に、クライアント・出演者の双方が納得でき、完成度の高いものを提供できると感じています。
技術を超えて「あなたがいい」と“選ばれ続けるために
撮影現場で信頼されるには、やはり技術だけでは足りないと思っています。
私自身、広告運用、デザイン、カメラマンという3つの領域で仕事をしてきましたが、今回ご紹介してきた4つのポイントは、他の領域でも共通して大切だと思います。
昨今、成果を出すにはクライアントを交えた迅速な判断と実行が不可欠であり、そのためにはマルチスキルがますます求められていると痛感しています。
弊社でも、デザイナーがカメラマンとして現場を仕切ったり、運用担当者が自ら撮影して素材を作成したりといった働き方が当たり前になっており、今後もこのような取り組みはさらに広がっていくと予想されます。
そんな時代だからこそ、「カメラマン」が本業であれ、兼務であれ、現場を仕切るうえでは技術力だけではなく“クライアントや出演者から信頼を得るための振る舞い”が重要になります。
私としてもそれぞれの領域へのプロ意識はありつつも、こうした振る舞いも意識し始めてから「頼んでよかったです!」と言われる機会が格段に増え、次の案件につながることも多くなりました。
些細な気遣いや丁寧なコミュニケーションによっても、「ただの撮影者」から、「またお願いしたい」と思われるクライアントのパートナーになれるのだと実感しています。
どれも大変な準備なく今日から始められることばかりですので、ぜひ実践してみてください。
